乙女高原フォーラム
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(ダイジェスト版)
2019年度
    
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   【乙女高原フォーラムとは?】

  山梨市・山梨県・乙女高原ファンクラブの3者を中心としたパートナーシップで
 乙女高原の自然を守っていく活動の一環として,自然に親しむ達人・自然を知る
 達人・自然を守る達人から自然とつきあう極意を教えていただき,参加した皆さん
 とそれを共有しようというイベントです。(ゲストの肩書は当時のものです)

   第19回 (2020年1月26日) →詳しくは,こちら
 ゲスト…長野県環境保全研究所主任研究員。「草地と日本人」著者
須賀 さん(長野県在住)
 テーマ草原を守れば、つながり復活?!

   第18回 (2019年2月28日) →詳しくは,こちら
 ゲスト…編集者・ライターで「コケはともだち」の著者 
藤井久子さん(兵庫県在住)
 テーマコケの世界にようこそ

   第17回 (2018年1月28日) →詳しくは,こちら
 ゲスト…都留文科大学教授で小さな哺乳類の観察・研究者
北垣憲仁さん(山梨県在住)
 テーマ乙女高原の小さな哺乳類たちの暮らしぶり

   第16回 (2017年1月29日) →詳しくは,こちら
 ゲスト…神奈川県立博物館の学芸員で「日本のスゲ」の著者
勝山輝男さん(神奈川県在住)
 テーマ湿地のゆるキャラ?! 谷地坊主の不思議

   第15回 (2016年1月31日) →詳しくは,こちら
 ゲスト…植物写真家で「日本のスミレ」「日本の野菊」の著者
いがりまさしさん(愛知県在住)
 テーマ生物多様性の妖精スミレのふか〜くてひろ〜い話

   第14回 (2015年2月1日) →詳しくは,こちら
 ゲスト…乙女高原に関わってくださる麻布大学の保全生態学の教授
高槻成紀さん(東京都在住)
 テーマ乙女高原のシカ問題を調べてわかったこと

   第13回 (2014年1月26日) →詳しくは,メールマガジン301号  302号 
 ゲスト…全国各地からテンの糞を4万個も集めた動物生態学者
足立高行さん(大分県在住)
 テーマテンの目に写る乙女高原の自然

   第12回 (2013年2月2日) →詳しくは,こちら 
 ゲスト…植物の生態を本や観察会で楽しく伝える植物生態学者
多田多恵子さん(東京都在住)
 テーマ高原の植物たちのオモシロ私生活

   第11回 (2012年1月29日) →詳しくは,こちら と こちら
 ゲスト…全国的な昆虫分布調査の委員等を務める学芸員
槐 真史さん(神奈川県在住)
 テーマ希少昆虫の宝庫,乙女高原は今

   第10回 (2011年2月6日)  →詳しくは,こちら と こちら
 ゲスト…シカなど野生動物の生態を研究する麻布大学獣医学部教授
高槻成紀さん(東京都在住)
 テーマシカ・人・乙女高原の今と未来

   第9回 (2010年1月31日)  →詳しくは,こちら
 ゲスト…山梨県環境科学研究所の
吉田 洋さんと山梨県森林総合研究所の長池卓男さん
       ともに山梨県在住で,山梨県内のシカの動向を見つめる研究者。
 テーマシカが乙女高原の自然を変えている

   第8回 (2009年1月25日)  →詳しくは,こちら
 ゲスト…奥多摩地域のシカによる植生変化を調査研究する
星野義延さん(東京都在住)
 テーマシカが乙女高原の自然を変える?!

   第7回 (2008年1月27日)  →詳しくは,こちら
 ゲスト…名古屋でアサギマダラのマーキング調査に取り組む
近藤記巳子さん(愛知県在住)
 テーマ乙女高原にも来るよ,海を渡るちょう・アサギマダラ

   第6回 (2007年1月28日)  →詳しくは,こちら
 ゲスト…軽井沢の「自然を守る」が目的の株式会社ピッキオ社長
南 正人さん(長野県在住)
 テーマ調べることで,見えてくる。
     調べることが「守る」につながる。


   第5回 (2006年1月22日)
 ゲスト都留文科大学教授で小さな哺乳類の観察・研究者北垣憲仁さん(山梨県都留市在住)
 テーマ乙女高原の魅力を伝えたい

   第4回 (2005年1月28日)

 ゲスト…マルハナバチの生態を乙女高原で調査研究していた国武陽子さん(東京都在住)
 テーママルハナバチって,知ってる?

   第3回 (2004年1月26日)
 ゲスト…草原の永続的維持管理に取り組んでいる実践者兼研究者高橋佳孝さん(島根県在住)
 テーマ教えて! なんで草原を守るの?

   第2回 (2003年2月16日)
 ゲスト…インタープリター(自然解説員・自然案内人)に詳しい
今井信五さん(長野県在住)
 テーマ「味わう」から「伝える」へ
      新しい一歩の踏み出し方,あなたもなれるインタープリター


   第1 (2002年3月23日)
 ゲスト…食生態学者(34歳寿命説),登山家,探検家として有名な西丸震哉さん(東京都在住)
 テーマ西丸流 自然とのつきあい方


  第9回乙女高原フォーラム 2010.1.31.

 
●日時 2010年1月31日()午後1時から3時半
 ●会場 山梨市民会館 3階 ちどりの間

 ■テーマ  シカが乙女高原の自然を変えている!!

 前回のフォーラムでは星野義延さんをゲストに迎え,シカが植生に及ぼしている影響をお話いただきました。乙女高原は他と比べて,まだシカの影響が小さい方だというご指摘をいただきましたが,実際には,シカによる植生への影響は加速度的に大きくなっているようです。
 そこで,今年はもう一度,フォーラムのテーマをシカとし,県内の実情や行なわれている対策についてゲストのお二人からお話を聞き,今後の対策について多くの皆さんといっしょに考えていきたいと思います。


 ■ゲスト 吉田 洋さん
 新潟県出身。現在,山梨県環境科学研究所の研究員で農学博士。研究員として勤務するかたわら,獣害対策支援センター顧問,日本哺乳類学会クマ保護管理検討作業部会委員を務め,人と野生動物との共存のあり方をさぐっていらっしゃいます。

 ■ゲスト 長池 卓男さん

 神奈川県出身。現在,山梨県森林総合研究所の研究員で農学博士。木材生産だけでなく生物のことも考慮した人工林の生態的管理に関する研究や、ニホンジカが生態系に及ぼす影響などを、櫛形山、富士山、南アルプスなど県内各地で行っていらっしゃいます。


■プログラム1 吉田さんのお話「ニホンジカの生態と行動」


  1)シカの分類

・シカは蹄(ひづめ)のある動物。「偶蹄目」の中の「シカ科」。ウシに近い動物。

・シカは草原性でも森林性でもなく,その中間(木の葉も食べるし,草の葉も食べる)

  2)シカの分布と形態

・ニホンジカは朝鮮半島やアムール川流域,中国,台湾にもいる。

・日本列島のニホンジカにはエゾジカ,キュウシュウジカなど7亜種がある。

・山梨にいるのはニホンジカの亜種ホンシュウジカ。

・ホンシュウジカはオスが体重平均70s,メスが50sとオスのほうが大きい。

・亜種により大きさが大きく違っている(エゾジカ>ホンシュウジカ)。

・カモシカとシカの糞はとてもよく似ている。
・カモシカはほとんど止まって糞を出すが(だから,ため糞になる),シカ は歩きながらも糞をする。

・シカの蹄はじゃんけんのチョキのよう。中指と薬指でチョキを作っている。

・シカは,ウシと同じく4つの胃を持つ(反芻動物)。

・一番目の胃が一番大きく,この中で人は分解できないセルロースを微生物の助けを借り分解している。

・それだけでなく,分解作業をしている微生物自体を,第4胃で消化している(微生物がタンパク源になる)。

・前歯は下あごにしか生えてない。上あごは歯茎が硬い。
・上下両方に前歯があるわけではないので,食べた草にはギザギザした跡が残る。

・歯には年輪ができる。最初の1年は乳歯が生えているので,「年輪+1」歳がそのシカの年齢になる。

・シカの角はオスだけに生える。生えてから半年かけて大きくなり,1年たつとポロリと落ちる。

・出始めの角は袋を被っているようなので「袋角」,秋になると枯れ枝のようになるので,「枯れ角」と呼ばれる。

・角の形(枝分かれの様子)から年齢が推測できる。1本角はだいたい1歳。

  3)シカの生活史

・春夏は鹿の子模様の毛になる。鹿の子模様は子だけでなく,大人も全部鹿の子模様の毛になる。

・秋冬になると長い毛が生えて体つきが太く見え,オスの角は枯れ角になる。

・秋になるとよく鳴く。万葉集では68首にシカが登場するが,歌の題材になっているのはシカの姿というよりシカの声(オスしか発声しない)。この声はなわばり宣言。発情期(交尾期)を迎えている声。

・発情期にはよく泥浴びをし,石や木の幹に体をこすりつけたり,フレーメンといって笑ったような顔になってメスの臭いをかいでいる。

・この時期,メスをめぐってオス同士の闘いが起きる。

・シカのおっぱいは脂肪分が牛乳の24倍。子は体重10キロになると離乳。

・オスは育児に参加しない。

・シカは増えやすい動物。頭数が増え,それまで食べていた餌資源がなくなると,他のものを食べるようになる。

 草→ササ→木の幹→落ち葉。

  4)シカ対策

・シカ柵を作っても,たとえば車道を空けてしまえば,効果がなくなる。

・シカがいやがる音はあるが時間が経つと慣れる。なお,超音波は聞こえてない。


■プログラム2 長池さんのお話「櫛形山のアヤメが消えた?」

  1)櫛形山で起きていること

・それまでも減少が報告されているが,2006年からアヤメが急減。

・南アルプス市が櫛形山アヤメ保全対策調査検討会(大久保栄治委員長)を立ち上げ,調査研究検討を行っている。

・咲かなくなった原因は様々考えられたが,その中で自然(植生遷移)説、ニホンジカ説が有力だった。2007年,検証実験を開始。

・ニホンジカの影響を排除するために植生保護柵を設置した(シカ説の検証)。

・柵の中で,@そのままにしておく,A大きな草を刈り取る,B根から抜き取るという3つの実験を行い,その効果を比較する(自然説の検証)

・結果、ニホンジカ説が有力。ニホンジカの入れない柵内ではアヤメが大きくなれるが、柵外ではニホンジカによると思われる摂食で大きくなれない。

・柵の中ではラン科のテガタチドリも咲いた。

・柵を作れば,柵の中の植物はシカの摂食から守れることがわかった(当面の対策として柵は有効)。

・なぜアヤメが急減した(=シカにねらわれるようになった)のか?→スズタケが枯れたことによるエサ不足? 個体数が増加したから?

・柵の中は守れても,柵の外は守れない→根本的な対策が必要

・アヤメ以外のことはどう考えるか? 櫛形山全体の自然をどう守るかマスタープランが必要。

  2)南アルプスで起きていること

・絶滅危惧種キタダケソウは今のところシカに食べられていないが,キタダケソウの分布域までシカは来ている。

・ミヤマハナシノブは食べられている。

・北岳の頂上直下でもシカが目撃されている。

・高山植物はこれまでシカに遭遇したことがない→シカへの耐性がない→絶滅の危機があるのではないか。

・標高の低いところでエサ不足になり,標高の高いところに移動している?

・林道のり面に草(エサ資源)があるので,高山帯に登って行ける?
・標高が高い場所でシカを排除するのは難しい。降りてきたところで排除する?

・シカに発信器をつけると,30キロを越える移動をしたシカも見られた。中には,夏になると標高の低いところに移動するシカもあった。
・とりあえずシカ柵を設置するという緊急対策が必要。


  3)ニホンジカの影響について考えること

・シカ柵は有効だが,壊れてしまうとエサが豊富な場所にシカを招き入れてしまうことになるので,こまめなメンテナンスが必要。

・調査員の一人が「櫛形山は静かになったなあ」→花を訪れるハチやアブの羽音が聞こえなくなってしまった。シカの影響が間接的に昆虫にも及ぶのでは?

・シカはエサを食べる場所(草原)と隠れ場所(森林)がセットになっているところが大好き(乙女高原も大好き?!)・乙女高原近くの森林では,シカが木の幹をどんどん食べている。特にキハダは2003年にはシカの害はまったくなかったのに,2009年にはほとんどのキハダが被害にあっている。このままでは,この地域のキハダは絶滅するだろう。

・多くなってしまったシカを減らすには狩猟。もう一方で,シカをこれ以上増やさないようにするには,どんな対策が必要かを考えなくてはならない。

・基本的にはエサを増やさないこと(間伐後の植生,林道ののり面,牧場)

・ニホンジカ自体への対策は、食べさせない(植生保護柵などでの防除)、個体数を減らす(狩猟・管理捕獲)、個体数を増やさない(生息地管理)の3つの取り組みが必要。

・柵を作ればその中は守られるが、ニホンジカは他の場所へ行く。捕獲したとしても増やす要因があるならば減らない。
・乙女高原では、緊急措置としては、ニホンジカに食べられないようにすることがまず重要。その上で、行政等含めて、3つの取り組みを有機的に実行する仕組みづくりが必要。


  第8回乙女高原フォーラム 2009.1.25.

 
●日時 2009年1月25日()午後1時から3時半
 ●会場 山梨市民会館 3階 ちどりの間

 ■テーマ  シカが乙女高原の自然を変える?!
 ニホンジカはたいへん美しい,日本を代表する大型のけものです。ところが,最近,シカが急激に増え,そこの自然を変えてしまうほど,植物を食べてしまっていることが各地から報告されています。
 乙女高原も例外ではなく,ここ数年,急激に減ってしまっている植物や,反対に増えている植物があり,シカの影響が考えられています。また,周辺の森を歩くと,シカによって皮を剥がされた木も目立ちます。
 このままシカが増え続けるとどうなるのか,それを防ぐにはどうしたらいいのか,そもそも乙女高原でシカは本当に増えているのか??? 乙女高原の自然の現状を「シカ」という視点で観(),このままでは将来どうなってしまうのかを予測し,今,何ができるのか,皆さんでいっしょに考えてみませんか?

 ■ゲスト 星野義延さん

 東京農工大学農学部地域生態システム学科准教授。大学では「植物群落の成り立ちを調べて保護の方法を考える」をテーマに研究を進めています。その一環として,東京都奥多摩地域におけるシカによる植生の変化を調査研究しており,日本生態学会等でその成果を発表しています。


■プログラム1 活動報告と「乙女のシカ」問題提起
 まず,プロジェクターの写真を活用し,乙女高原での1年間の活動の様子を紹介し,次に,乙女高原のシカの現状について 「減っている草(アマドコロ,オオバギボウシ)」 「増えている草(ハンゴンソウ,マルバダケブキ)」
 「新たに食われている草(クガイソウなど)」 「幹や枝の皮を剥がされている樹木」
という項目で報告し,シカの痕跡(糞,角研ぎ跡,足跡)について説明しました。こういったものを覚えていれば,山林でこれらに遭遇した時に「あ,ここにはシカがいるな」ということがわかるからです。

■プログラム2 乙女高原のシカ今昔物語
 シカ猟50年以上という古屋さん(ファンクラブ代表世話人)のお話を聞きました。
 以下,古屋さんのお話のダイジェストです。
・乙女高原周辺はシカ猟の行われるエリアである。言ってみれば,自分たちの猟のなわばりのようなものだった。(過去も現在も)
・今は山奥ばかりでなく,里山にもシカがいるので,近くで猟ができるようになった。
・猟は冬季に行われる。雪が降ると足跡の確認ができるので,雪が降ると猟のシーズンだ。
・合図は,弾を撃った空のケースを鳴らした。長く吹くと「帰ってこい」,ピッピッと短く鳴らすのは「いたぞ」という合図。クマでもイノシシでも,この合図は同じ。
・犬を連れたセコと呼ばれる人たちがシカを追い出す。タツマと呼ばれる人が銃を持って獲物が来るのを待つ。セコが1発撃つのは,追い出している時,2発撃ったら「(シカが)出たよ」という合図。
・平成17年度の調査で県内のシカの推定個体数8400頭,年間の被害総額は1億7千万円。シカ対策が県の林業行政の中でも大きな問題になっているのが現状。

・戦争時,優秀な銃はすべて軍に取り上げられた。軍が持っている銃だけでは不足して,猟銃まで使わなければならなくなったからだ。おろかな戦争だった。
・戦後,優秀な銃はなく(軍に取られてしまったので),ほとんど廃銃に等しいものだった(村田銃など)。撃っても出ないものもあった。猟の精度は上がらなかった。弾はなまりを解かして型に入れて作った。
・当時は林道などないので,歩いて猟に入った。猟場に到着するまで3時間も歩かなければならない。
・猟はシカの寝ている場所(ネヤ)を探すことから始まる。昔は,かなり奥まで行かないと,シカには会えなかった。ネヤは倉沢山にいくつか,山梨高校の寮があったあたり,高原西のワルサワ,ジゴクサワなど。ネヤのどこにいるのかわからないが,シカの痕跡から,どのネヤにいるか推測した。
・当時はシカは少なく,貴重な存在だった。

・昭和30年代くらいになると,猟具もよくなった。銃も水平2連,ライフル,自動銃など。銃所持には厳しい条件が課せられている。
・また,昭和30年代には林道も整備された。シカが逃げてしまっても,林道を使って簡単に先回りできるようになった。

・最近,シカが増え,いろいろなところで目撃されるようになった。
・有害獣駆除ということで,1年中,シカをとることができるようになった。1日に2ブロックで10頭以上しとめたこともある。
・シカ,イノシシは増えたが,狩猟対象の小動物(ウサギ,ヤマドリ,キジ)は少なくなった。
・牧丘地区の狩猟者は,多い時で150名いたが,今は40名。日本全国で狩猟者が減っていて,それはシカが増える一つの原因になっているのではないか。

■プログラム3 シカが増えたらどうなるの?
 いよいよ今回のフォ−ラムのメイン・星野さん(東京農工大)のお話です。ファンクラブ代表世話人の坂田さんがプロフィールを紹介したのち,お話いただきました。

@全国的にシカが増えている
・環境省の調査によると,過去25年間で,シカの分布域が1.7倍に広がっている。
・増えてきた原因として,捕食者であるニホンオオカミの絶滅(100年も前に絶滅しているのだが・・・),森林の伐採(森が伐られると,そこは草原状になり,一時的にエサが増える),温暖化による積雪量の減少(シカは雪が苦手),狩猟者の減少などが考えられている。
・シカの害は農林業だけでなく,森林などの自然生態系,草原などの半自然生態系にも見られるようになり,国立公園・国定公園でも被害が広がっている。
・シカは1日に1s程度のエサを食べる。このことから考えると1日に1頭あたり10uの森林や草原が必要となる。
・好き嫌いはあるが,いろいろな植物を食べている。

A奥多摩におけるシカによる植生被害(80年代と現在を比べて)
・奥多摩の西側(東京側)で特に生息分布域が広がり,密度も高くなっている。
・奥多摩の亜高山帯のコメツガ帯では,森の下に生えていた木や草がなくなり,すっきりした林になってしまった。下にはコケが生えているくらい。多くの植物が減少した。オオカメノキやマユミ,カニコウモリなどだ。増えたのはヘビノネゴザなど。
・防火帯の草原は乙女高原に似た景観で,いろいろなお花が生えていたが,ワラビ,マルバダケブキだけになってしまった。林縁はアザミなど多様な植物が生えていたのに,マルバダケブキばかりが目立つようになってしまった。非常に多くの植物が軒並み減少した。増加したのはマルバダケブキとワラビなどシカが食べないもの。それから,小さくて,シカに食べられないで済んだもの。
・ササ草原では,ササの間にヤマハハコやウスユキソウが見られていたのに,ササは残ったが,他の植物は減少した。
・シオジ林の林床には,オシダやウワバミソウなどたくさんあったのに,それらが消えてしまった。岩の間にわずかに残っただけ。
・ミズナラ林では,シシウドやオオバギボウシなどがあったのに,まったくなくなってしまった。
・ブナ林では,林床のスズタケまで食べられてしまった。場所によってはスズタケが無くなったことによって,表土が流されてしまったところもある。
・減少した植物は,特に中・大型の草と低木が多い。これらはシカにとって食べやすい植物である。
・減少している植物たちの絶滅リスク(絶滅する恐れ)を計算したところ,ユキザサはこのままでは2030年に絶滅確率100%,シロバナエンレイソウでは2050年,レンゲショウマ2030年,コオニユリ2020年,コウリンカはロゼットを作って生き残れそうなのか2090年という計算結果が出た。
・奥多摩では狩猟もしているし,防護柵も作っている。

B乙女高原の現状
・今年,乙女高原,櫛形山,三窪高原,霧ヶ峰など11箇所の山地・亜高山高原で植生調査をし,80年代の調査結果と比べてみた。
・シカの糞粒を数えてみると,11地点の中ではシカの草原利用度は少ない。
・乙女高原での調査で出てきた植物は1987年75種,2008年84種。このうち,2008年に見られなくなった種は18種,新たに見られた種は27種。
・ホタルサイコ,コウゾリナなど比較的大きな草は減少。ヘビノネゴザ,ヤマアワなどは増加。シカの影響が始まっているのではないかと思われる。
・乙女高原は11箇所の中で最もこの20年間の種組成の変化が少なかった。
・櫛形山や大菩薩などは20年間で種多様性が低くなってしまった。車山や乙女高原は逆に種多様性が高くなっており,現在の多様度指数は11箇所の中では乙女高原が最も高い。

C草原へのシカの被害
・草原で見つかった糞粒数と植物の種数の増加率の相関を調べてみると,糞粒数がある一定以下だったら,増加率は高くなったり低くなったりするが,ある数値を超えるとグンと減ってしまう。ある程度シカがいると,踏みつけや採食によって,草原にある程度の攪乱をもたらし,それが多様な植物が生える条件をもたらすが,それが大きすぎると,全体にダメージを与えてしまうことが原因だと考えられる。

Dもし,このままシカが増えたらどうなるのか?
・植物たちが減少し,土壌流失まで起こるようになってしまったら,取り返しがつかなくなるだろう。
・シカが増えると,植物の種組成が変化する(減る種,増える種がある)。
・また,下草がなくなる・シカの背が届く範囲の木の葉が食われるなど,階層構造も変化する。単純化する。
・すると,それらが,昆虫や鳥や他の動物たちの生存にも影響を与える。例えば,シカが藪を食べてしまうことによって,藪に住んでいる鳥が減ってしまう。

・対策としては,シカの個体数を減らすこと。狩猟が必要だ。
・ところが,狩猟者は絶対数が減っているし,高齢化が進んでいる。
・里でも狩猟できるようになってしまったので,山奥の狩猟は減っている。できれば,山奥にも入っていただきたい。
・もう一つはシカが入らない場所を作ること。保護柵だ。
・植物が減る前に「予防的に」行う必要がある。
・ススキ草原は残りやすい(ススキをさわると手を切ることがあるが,シカも嫌う傾向がある)ので,まだチャンスはあるし,事実,とてもいい状態で草原が保たれている。
・柵は景観上良くないが,シカの個体数をどうこうできるようになる前に,小さなものでいいので(むしろ,小さいものの方がいい)とにかく(応急処置として)柵を作り,残したいものを確実に残すことを提案したい。

■プログラム4 質疑応答・意見・情報交換
 フロアの皆さんから質問や意見を出していただきました。
【甘利山倶楽部の方より】柵を作ったら,他の場所にシカが逃げてしまうことはありませんか? 甘利山でもシカは増えている。食害があります。ギボウシなど食べられています。木に対する食害も千頭星にあります。マルバダケブキは甘利山では増えましたが,標高2000メートルを超えた千頭星では減っています。
【星野さん】非常に大きな柵を作ってしまうと,シカをほかの場所に誘導してしまうことはあるかもしれませんが,今,奥多摩でやっているのは比較的小さい柵です。私たちがやっている一つの柵は,一辺が15メートルか20メートルです。植物の絶滅を防ぐための柵です。

【春日居の森林ボランティアの方】テレビで見たんですけど,アメリカでシカ害を減らすためにオオカミを放したというのを見たことがあるんですけど。
【星野さん】アメリカやヨーロッパではオオカミという捕食者を生態系に入れて,コントロールしようとしている事例はあります。日本でもそれを提唱する研究者がいますが,いろいろな課題があって,それらをクリアしていかないと難しいと思います。


  第7回乙女高原フォーラム 2008.1.27.

■日 時 2008年1月27日(日)
        午後1時から3時30分
■会 場 山梨市民会館

■テーマ 乙女高原にも来るよ,海を渡るちょう
 アサギマダラ

■ゲスト
 近藤記巳子さん

     愛知県自然観察指導員連絡協議会事務局
      協議会名古屋支部アサギマダラプロジェクト


■プログラム1 ファンクラブの活動報告と乙女高原のアサギマダラ
 市の観光課課長補佐の里吉さんの司会でフォ−ラムが始まりました。苗村峡東林務環境事務所長さんのお話,中村山梨市長さんのメッセージと続き,いよいよプログラムです。
 ファンクラブの植原さんが乙女高原を守る活動の1年間の報告と,乙女高原におけるアサギマダラの生態についてのお話をスライドを使いながら行いました。考えてみたら,情報発信の大切な機会であるフォーラムでありながら,今までに一度も活動報告をしたことがありません。

■プログラム 近藤さんのお話「海を渡るちょうアサギマダラ
 まずはアサギマダラを調査している写真を見せてくださり,「実際の調査はこんなふうにやるんだよ」ということをビジュアルに教えてくださいました。
 それから,調査の動機,企画,広報,調査方法,成果,今後の課題と順を追って説明してくださいました。話の組み立てといい,内容といい,近藤さんが「組織」の「事務局」を預かりながら,実際の活動も活発にやっている方だなあということがよくわかる発表でした。動機の一つが「助成金の申請」だったり,フィールドにしようと思った動植物園に行ったら,初めは園長さんに断られたけど,活動で知り合った係長さんがいたことで救われたり,せっかく幼虫が見つかった「やぶ」のガガイモが刈り払われてしまったり・・とすごく現実味のある話でした。
 聞いていて,ちょっと複雑な思いをしたのは,アサギマダラが蜜を吸うためによく訪れていたミズヒマワリという外来植物が刈り取られてしまったという話。外来生物を地域の生態系から排除しようということはよくわかりますが,反面,ミズヒマワリはすでにアサギマダラの吸蜜植物として定着していたようです。かくも「自然の問題」って一筋縄ではいきませんよね。
 もう一つ,近藤さんたちがアサギマダラ調査を継続してきたことで,動植物園ではバタフライガーデン(ちょうを呼ぶ花壇)を作ることにしたそうです。調査を継続してきたことが認知・評価された証拠だし,大きな成果として喜ばしいことです。しかし,ちょうを呼ぶ花壇を作ることで,まわりの自然が迷惑をこうむらないか,心してチェックしなければならないと思いました。ちょうたちがガーデンのお花たちに幻惑され,地域に昔から咲いているお花たちに行かなくなってしまったら,地域の生態系にとってガーデンは外来生物と同じくらい迷惑なものになってしまう可能性があります。
 近藤さんたちの活動はどんどんふくらみ,奄美大島まで出かけて愛知でマーキングされたアサギマダラを見つけて大感激したり,台湾やコスタリカまでアサギマダラ(の仲間のちょう)を求めて旅行してしまったそうです。アサギマダラを心底おもしろい・すてきだと思っている方のお話ですから,おもしろくないはずがありません。1時間があっという間に過ぎてしまいました。

■プログラム3 アサギマダラ調べ隊2008

 Q&Aをはさんで,高橋さんから「アサギマダラ調べ隊2008」の説明をしていただき,閉会行事では,古屋さんのお礼のことば,坂田さんの諸連絡と続いて,フォ−ラムが終了しました。アンケートにお答えいただいた方には,お礼にアサギマダラのカードをお渡ししました。多くの方がフォーラム終了後もロビーの展示を熱心に見ていらっしゃいました。

■プログラム外伝

 片付けが済んだ後は,乙女高原のイベントにつきものの茶話会です。茶話会はスタッフでなくても参加可。講師から「公的な場ではちょっと話せない,裏話的な話」まで聞けるので大人気。今回も30人もの方が残ってお茶を飲みながら,楽しくおしゃべりしました。今回の茶話会は,講師の近藤さんに質問の嵐でした。マーキングにはどんなペンが適しているのか? 補虫網は? ちょうの体の固定法は?・・・など,近藤さんの帰りの電車ぎりぎりまで質問が続きました。

■「ようこそ乙女高原へ」展V
 今年もフォーラム開催に合わせて「ようこそ乙女高原へ」展を行いました。乙女高原の動植物の写真,ファンクラブ活動のスナップ写真,昆虫の標本,看板類,草花のキルト,そして近藤さんから貸していただいたアサギマダラのパネルなど盛りだくさんでした。フォーラムをはさんで前後2週間ずつ程度,展示させていただきました。
           



   第6回乙女高原フォーラム 2007.1.28.

■日 時 2007年1月28日(日)
        午後1時から3時30分
■会 場 山梨市民会館
■テーマ 調べることで,見えてくる。

       
調べることが,「守る」につながる。
■ゲスト
 南 正人さん

     軽井沢の「自然を守る」を目的とした
      株式会社ピッキオ代表取締役社長。


■PDF資料 →当日配布資料


  
 フォーラムのワンシーン。南さんがシカの角の
 重さをハンガーの「てんぴん」で比べている。

今回のフォーラムのテーマはとても意味深です。自然と親しみ,自然を大切にしようという活動は,いまやいろいろな地域で展開されていますが,その団体の活動が本当に自然を大切にしているかどうかは,その団体の調べる活動への取り組み方でわかります。自分の思い込みでの勝手な判断はしないで,相手(自然)をよく調べ,よく知った上で考え実行する。実行してからも,相手をよく調べ,自分の考えが間違っていなかったかどうかチェックする。そんな謙虚な気持ちが自然を守るためには不可欠で,それが「調べる」という態度になって表されるのです。

 ファンクラブを結成して七年。ようやくまがりなりにも乙女高原に関して自分たちの手で調べたことを発表できるまでになりました。今回は,そんな記念すべきフォーラムだったのです。

 開会式は市の観光課長である石場さんの司会で,中村山梨市長さん,前山峡東林務事務所長さんからご挨拶をいただきました。ここから進行を植原さんが受け持ち,ファンクラブ代表世話人の奥山さんに講師紹介していただき,今日のメインである南さんのお話が始まりました。


■1南さんのお話
 まずご自分のライフワークである金華山(宮城県の離れ島)のシカの生態についてお話してくださいました。金華山でシカが増えることによって,そこの自然にどんな影響が出ると思いますか? 単純に,シカの食べる植物が減るばかりでありません。植物が減るから昆虫も減り,その昆虫を食べて生活している,たとえばクモの体が小さくなったり,普通モグラの主食はミミズですが,シカの糞を食べている糞虫の幼虫をたくさん食べるようになったりと,生態系全体が変わってしまうことを報告されました。さらに,シカが変えた生態系によって,シカの生活もまた,変わってきていることも・・・。 南さんは金華山の事例をお話していたのですが,じつは,それは乙女高原の未来の姿(の一つの選択肢)でもあるのです。

 次に,「シカ」と十把一絡げにしないで,1頭1頭をていねいに観察することによって,シカの生活がより見えてきて,そうすると,シカと他の生き物たちとの関わりもずっとよくわかるようになるというお話をされました。なんと調査フィールドで見られるすべてのシカを見分けられるようにし(個体識別といいます),名前を付け,それら500頭近いシカ一頭一頭がどんな一生を送るか調べているんだそうです。すると,同じシカのオスでも,一生に何回も交尾をし,ハーレムを作れる少数の「勝ち組」と,多数の「負け組」がいることがわかってきたのだそうです。
 シカのオスにとって,角は,自分の子孫を残すために,メスをめぐってライバルのオスと争う重要な武器です。ですから,絶対に大きな角がほしい。ところが,金華山のようにシカの密度が高いとエサ不足になってしまい,角に回る栄養も少なくなってしまいます。すると,同じ大きさなのに軽い角(つまりは密度の低い)になるのだそうです。
 では,もっとエサ不足になるとどうなるのか? 角を軽くするといっても限度があります。あまりにも密度が低いとスカスカで,すぐにポキッと折れてしまいます。かといって,大きさは保持したい。さあ,どうします?
 ヤマアカガエルに小さな発信器を付けて行動を追いかけたり(最後には木の上から電波が来るようになったそうです。なぜでしょう?),マルハナバチの巣が見つかったので,11頭に背番号を付けて,それらの行動をチェックしたりと,興味深い調査活動をいろいろ紹介してくださいました。

■2三森さんの作文朗読
 10分の休憩後,塩山中学校3年の三森さんに作文の朗読をしてもらいました。去年の秋,新聞社の作文コンクールに入選したもので,乙女高原での経験,そして思ったことがみずみずしい感性で素直につづられている,素晴らしい作文です。世話人会でそのコピーを皆さんにお配りして読んでもらっていたのですが,「やっぱり本人が読むのがいいよね。ジーンときちゃった」というような感想をたくさんいただきました。

■3パネルディスカッション調査報告
 そして,いよいよ「パネルディスカッション風」乙女高原の調査報告です。4人のパネラーが,それぞれ4つのテーマで映像を使いながら,お話しました。
 まず内藤さんから,昨年,月例で行われた乙女高原案内人勉強会の様子。毎回,何かしら発見があったこと,同じものを継続して見ることができたこと,改めて生物多様性の大切さを実感したことの発表がありました。続いて,由井さんから,調べる草花の横に「旗」を立てて,その「旗」にその日の様子を書き込んでいけば,なにも一人が毎日行かなくても植物の開花や結実の調査ができる・・・と考えてやってみたことの発表がありました。毎年,同じようにお花が咲いているように見えても,1つ1つに着目してみると,花をつけずに終わってしまったり,途中で折られてしまったり。植物にもいろいろな人生があることが分かりました。小林さんからは,マルハナバチ調べ隊の報告です。調べ隊の様子,マルハナバチの生態,そして,3年間の調査結果について。子どもも大人も楽しく調査ができるマルハナバチの魅力について語っていただきました。最後に,植原さんから,今年から始めたテンの糞調査の中間報告。100個の糞を拾って,大分の野生動物研究者・足立さんに送り,内容を分析してもらったところ,どうやら乙女高原のテンは(食べ物として)ネズミに依存しているらしいことが分かってきました。南さんからコメントをいただいたり,会場からご意見をいただいたりして,40分があっという間に終わってしまいました。
 ふたたび石場観光課長さんの司会で閉会式。古屋ファンクラブ代表世話人のお礼のあいさつがあり,無事,フォーラムを散会としました。


  
 ■4ようこそ乙女高原へ展U
 111日に数人のスタッフで展示作業を行いました。それからフォーラムまでの2週間,山梨市民会館のロビーの一角が乙女高原づくしとなりました。去年と同じく今までの草刈りやフォーラムのポスターの数々,乙女高原やファンクラブを扱った新聞の記事や雑誌の記事。スペシャルとして,鈴木さんの新作写真の数々,依田さん手作りの木製看板(なんと字が立体的になっている!),それに高橋さんの昆虫写真が加わり,とてもにぎやかになりました。この展示作業といい,フォーラムといい,たくさんの方がスタッフとして参加してくださったからこそ,開催することができました。本当にありがとうございました。
  
  
   同時開催「ようこそ乙女高原へ」展U
    山梨市民会館ロビーにて
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