ひどく川ズレした水晶。
乙女鉱山から5キロほどの下流の、荒川の河原で拾い上げた。
結晶面が何とか分かるから水晶と知れるが、もうほとんど角が取れてしまっていて
そこにたどり着くまでの、長い時間を表しているようだ。
・ ・ ・
友人の父親は、渓流釣りが趣味だったそうだが
彼がまだ小さな時に、そのお土産と言って、なぜか水晶を手渡してくれた時があったと言う。
この事は、早くに父を亡くした彼の、大切な思い出だったのだろう。
彼は子供の名に、「晶」の字を入れていて
名前の由来として、この話しを聞かせてくれたのだった。
もっとも、彼は父親がどこに釣りに出掛けたのかは知らないそうだ。
私はその水晶を見た事もないのだが、しかし直感的に乙女だろうと思っている。
鉱山の脇を流れる夏の荒川で、渓流釣りを楽しむ人に何度か出会っている。
彼の父も、その川岸に立ったに違いない。
その時のお土産は、きちんと角の立った水晶だっただろう。
河原から、あるいは斜面から拾い上げた時には、すぐに息子の事を考えたに違いないが、
孫の事までは、どうであっただろうか。
★山梨県荒川産