アップグレード



大分前に採集したその時は、中央の大きな物と左端の、2つだけの群晶だった。
「ささやかな記憶」の石と同じ晶洞から出た石で、これがいわゆる、晶洞の”主”であった。

それが最近になってふと、他の石も脇に付いていたのではと思いついた。
そこで、晶洞に一緒に入っていた石を出してきて、その断面を合わせてみた。
すると、次々とパズルの様に組み合わさっていった。
あまり期待をしていなかった成り行きに驚いたが、惜しむらくは、
手前中央のスペースに入りそうな石が、見当たらなかった事だ。
誰かに譲ったか、あるいは小さく割れた石なのかも知れない。

アップグレードして現れた全貌は多少歪だが

リペアではあるものの、この産地では珍しい、群晶の姿である。
 周りの石達に守られた”主”には、家来とは違ってクラックが全く入っていない。
柱面の結晶形が甘いので、どことなく柔らかな印象を受けるが、
ハンカチの柄も透けて見え、まさに氷のごとく。
このような美晶には、滅多にお目に掛かる事が出来ない。

それにしても、元がこのような姿であったとは、考えてもいなかった。
だいたい、晶洞内に水晶が立っている事は稀で、普通はさしずめ
ガラクタが詰まっていると言った感じで、長石と一緒に埋まっているものだ。
中をよく確認せずに、掻き出し棒でガサガサやった時に、バラけたのかも知れない。
しかしこの時は、”主”が立っているのを、多くを掻き出した後に覗き込んで見つけた。
取り外しは、手で引っ張るという、今では考えられない様な乱暴なやり方で
しかし、結果的には傷も受けず、とても上手くいった。
石目でスパッと平らに、あっさりと外れた時の、コクっという手応えは、今も心に残っており、
興奮に満ちた採集直後の、泥にまみれた写真もある。
 ★★★★★山 梨県甲府市黒平産