予期せぬ事
石を採りに行く楽しみの奥には、思いもよらぬ物に遭いたいという願望がある。
たとえ、3センチ級の水晶を求めて行く産地であっても、心の中では
その倍の石がひょっと出ないかと考えており、実際、出る時もある。
その予期せぬ事は、この趣味の深い魅力だろう。
バックの本は、タイトルからも分かる様に、簡単には開けないもので、
購入から読み出すまでに3ヶ月掛かり、数日掛けて読了した。
ただその内容は、私が想像していたものとはかなり違っていて、予期せぬものであった。
結晶形が分からないこの石は、もらい物である。
このポイントの一番の石も、やっぱり結晶とは思えない形をしており、
まるで龍が空を登っている様な、激しい触像を示している淡い飴色に近いものだった。
手の平に載せた時の、不思議な形と重さの印象は、未だに忘れない。
発見者は当初、変な石英だと思って、幾つかは掘っている最中にそのまま下に落としたそうだ。
だから、これが予期せぬ石であった事は間違いないが
トパーズの大きな結晶は、鉱物の生成過程から、必然的に触像の強いものになるらしい。
人の死もまた必然であるし、そういう意味では死ぬ事はごく普通の事。
本の作者は、元は大学病院等の外科医で手術ばかりしていたそうだが、今は在宅医療の往診医。
森鴎外の孫だそうで、そのせいだろう、名前に「鴎」の字がある。
怖いくらいに無駄のない文章は、死を暗いマイナスイメージに染めず、
それどころか、どこか明るささえ感じさせるのは、なぜだろうか。
小堀医師が患者の希望を最優先に、生活の最後の場を構築する手助けをしたからなのだろう。
それでも、本人の予期せぬ死となった事例も多く書いてある。
☆☆☆山梨県甲府市黒平
産