石楠花
山で一番美しい花はと問われれば、石楠花を挙げる。
まるでロウ細工のような透明感のある花は、水晶以上に美しい。
林道が開く時期に咲くので、山に入れる事とこの花が見られる事が一緒になって喜びも倍増する。
水晶峠に採集に向う道程の中で、特に急で辛い場所に多いけれども
この時期だけはそこに向う足取りは軽い。
毎年、咲き方や時期が微妙に違うのは、他の花と同様であり、今年はどうかなという期待を持って
トロッコ道を歩いて行くと、ちらちらと花が散見されるようになる。
いよいよ急な下りになる辺りでは、周りにも多く見られ、ああ来たなと思う。
新しいシーズンを迎える喜びと、単純に山に入る喜びも同時に感じる。
場所によってか、株によってか、すべてが一斉に咲くのではなく、
既に盛りを過ぎているのもあれば、まだこれからという、美しい桃色のつぼみの多い株もあり、
そのばらつきのせいで、歩いていて見飽きる事はない。
しかし、探査中にこの木に行く手を阻まれると、もうお手上げである。
枝の伸び方が不規則で、しかも密。突破は不可能、どうにもならない。
そのせいか、頑固者のイメージがある。
晩秋にも葉を落とさず、葉を細く丸めて寒さに耐える姿も好印象で、
冬に向けての毅然とした態度を感じ、何故か私も同じ様に頑張らねばという気持ちになる。
これに、キバナシャクナゲという色違いがある事は知っていたが、最近になって、実際に見る機会を得た。
金峰山山頂でである。
登山者がしゃがんで写真を撮っている所に遭遇して、見れば黄色いツツジの様な花だ。
そして、葉っぱはツツジとは違って、つるっとして丸みを帯びている。
アッと思った。
その全体の雰囲気がとても可愛らしく、あの頑固者と同じ種類とは思えない。
そしてよく見れば、そこかしこに咲いている。
花期は初めてだったにせよ、樹形が全くイメージ違いだった為に、
存在に気がつかなかっただけの話しであった。