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    乙女高原ファンクラブ 公認
 乙女高原メールマガジン 第311号
   2014.8.9.
  発行者:植原 彰(乙女高原のある山梨市牧丘町在住)
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  ▲▼ も く じ ▼▲
NEW! 0.【ニュースニュース】
NEW! 1.【特  集】乙女高原のシカ対策待ったなし
   2.【活動案内】マルハナバチ調べ隊 9月7日
   3.【活動案内】草の刈り取り実験とモニタリング 9月13日
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0.【ニュースニュース】
●1.いよいよ乙女高原もお花が咲き乱れる季節になりました・・・と報告したいところですが,今年は花の数が極端に少ないです。いよいよ乙女高原でもシカの影響が放っておけない段階になったということです。
ぜひ,10年前と今年の比較写真を見てみてください。びっくりしますよ。
http://blog.goo.ne.jp/otomefcact/d/20140809
乙女高原ファンクラブでは,いつもはやらない8月にも世話人会を開催し,行政に早急なシカ柵設置を要望することになりました。→1

●2.乙女高原の谷地坊主と比較するために,谷地坊主の本場(!?)釧路湿原に行ってきました。じつは日本で唯一,谷地坊主が天然記念物に指定されているのが釧路市なのです。教育委員会の方から指定の状況をお聞きしたり,博物館の学芸員の方から谷地坊主の説明を受けたり,実際に野外でガイドをしている方と一緒に湿原を歩いたり・・・と,とても密度の濃い4日間を過ごしてきました。この様子は後日,報告します。

●3.山梨県森林総合研究所では,シカによる森への影響をチェックするシートを公開しています。皆さんもご自分の近所で,また,どこかを訪れたとき,このシートの項目にそってチェックし,県の森林総研に報告してくださいね。
森林総合研究所→ http://www.pref.yamanashi.jp/shinsouken/
ワークシート → http://www.pref.yamanashi.jp/shinsouken/research/hogo/sikahigai.html

●4.次回世話人会は9月19日(金)午後7時半から牧丘総合会館です。ファンクラブの会員であれば,どなたでも参加できます。ぜひどうぞ。

●5.(再掲)乙女高原(の近くの焼山峠)まで乗合バスが運行されます。予約が必要で,11月23日までの土・日・祝日(振替休日を含む)に運行されます。
 行きは,塩山駅北口→柳平→焼山峠 塩山駅北口発 08:25, 9:15 の2本
 帰りは,焼山峠→柳平→塩山駅北口 焼山峠発   15:25,16:40 の2本
 運賃は,塩山駅北口→柳平は大人1,000円・小人 500円,塩山駅北口→焼山峠は大人1,100円・小人 550円。事前に運行会社である英和交通に電話をかけて,申し込んでください。
  (金峰山・夢の庭園など)大弛峠へ行くには柳平で下車し,そこで乗合タクシーに乗り換えるそうです(これも要予約)。
 焼山峠から乙女高原までは2q弱。歩いて30分弱です。
 英和交通の電話は0120-26-2344。時刻表等は,こちら
  http://eiwa-kotsu.com/img/timetable/odarumi-line.pdf

●6.(再掲)『乙女高原大百科』(A5判600ページ)好評発売中です。1冊2,000円。送料は360円。ですから,送料込みで,1冊なら2,360円,2冊なら4,360円となります。3冊以上の送料については要相談。郵便振込でご送金ください(別途,送金手数料がかかります)。
 http://fruits.jp/~otomefc/daihyakka.html
 郵便振替口座等は以下の通りです。
・口座番号 00220-8-71093
・加入者名 乙女高原ファンクラブ
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1.【特  集】●乙女高原のシカ対策待ったなし●


■はじめに〜「沈黙の夏」を迎えた乙女高原

 ご存じのように,夏の乙女高原のあふれんばかりの花が咲き乱れる景観は,それはそれは素晴らしいものでした。多種多様な花が入れ替わり立ち替わり最盛期を迎えるため,1週間で草原の色が違って見えるほどでした。また,決して誇張ではなく,遊歩道を『3歩歩けば10種類』の草花に出会えるほど,草花の多様性が凝縮された草原でした。

 ところが,数年前から「乙女高原のお花が少なくなったじゃんねえ」という声が多く聞かれるようになりました。と同時に「ススキが増えたじゃんねえ」という声も多く聞かれ,この2つが関連づけて論じられることもありました。「温暖化でススキが成長しやすくなったのではないか」といった論から「草刈りボランティアで草を持ち出しているから,お花たちが育つ栄養分が少なくなったのではないか」といった説まで。東京農工大学の星野先生や麻布大学の高槻先生に関わっていただくようになって,乙女高原の人の目を楽しませてくれるようなお花たちの減少の原因はシカであることがはっきりしました。

 とはいえ,他の地域に比べ,乙女高原におけるシカの影響は比較的小さいままに推移してきました。ですが,今年2014年の状況は違います。花の種類数は例年とあまり変わりませんが,数が極端に違います。あれだけ群れ咲いていたアヤメやクガイソウはポツンポツンとしか咲いていません。ヤナギランにいたっては草原の全遊歩道を歩いても1本も見かけることができず,オミナエシとオオバギボウシは3本ずつしか咲いていませんでした(2014年8月2日調査)。

 また,乙女高原ファンクラブでは「毎年3回,同じ時期に,一定の遊歩道を,一定の時間で歩きながら,観察できたマルハナバチを記載する」というマルハナバチのラインセンサス調査を行っています。今年で11年目になりますが,6月に行った今年2014年第1回調査では2頭しか確認できませんでした。また,例年,マルハナバチの数が一番多くなる8月の第2回調査でも11頭しかカウントできませんでした。2004〜13年までの10年で8月調査の平均は80頭,最低でも35頭でしたから,今年はマルハナバチの数が極端に少ないことがわかります。マルハナバチは花から花へ花粉を運ぶ送粉者として乙女高原の草原生態系の維持になくてはならない存在です。「シカ食害によって花が減る→マルハナバチが減る→さらに花が減る」という負の連鎖が危惧されます。

 これはもう乙女高原の非常事態です。アメリカのレイチェル・カーソンは,農薬の散布によって春になっても花も咲かない・鳥も鳴かない環境になってしまったことを告発する『沈黙の春』という本を1962年に出版し,この本をきっかけにアメリカでは環境保護活動が活発に展開されていくのですが,乙女高原には花が咲かない・マルハナバチがいない夏が来ました。「沈黙の夏」です。乙女高原のシカ対策は待ったなしの状況です。


■1 シカ食害の現状と今までの経緯

10年ほど前と今(2014年)の写真を比べていただければ,いかに乙女高原の草花たちが少なくなったか直感していただけると思います。
→ http://blog.goo.ne.jp/otomefcact/d/20140809

 櫛形山(南アルプス市),甘利山(韮崎市),大蔵高丸(甲州市/大月市),富士山麓(山梨県/静岡県),奥多摩(山梨県/東京都),霧ヶ峰(長野県),日光(栃木県)など,多くの地域でシカ食害による自然植生の変化や衰退,土壌流失などが報告されています。乙女高原も例外ではなく,シカの食害は認められましたが,他の地域に比べれば比較的小さなものでした。実際,2009年に東京農工大学の星野先生らが乙女高原,櫛形山,三窪高原,霧ヶ峰など11箇所の山地・亜高山高原で植生調査をし,80年代の調査結果と比べてみたところ,

@シカの糞粒を数えてみると,乙女は11地点の中ではシカの草原利用度は少ない。
Aホタルサイコ,コウゾリナなど比較的大きな草は減少。ヘビノネゴザ,ヤマアワなどは増加。シカの影響が始まっているのではないかと思われる。
B乙女高原は11箇所の中でこの20年間の種組成の変化が最も少なかった。
C櫛形山や大菩薩などは20年間で種多様性が低くなった。車山や乙女高原は逆に種多様性が高くなった。現在の多様度指数は11箇所の中で乙女高原が最も高い。

という結果を得ています。2009年の段階では,乙女高原の「草原部分」へのシカによる植物の食害はさほどではなかったのです。

 ところが,2014年,乙女高原周辺の森林で,麻布大学の高槻先生考案の「シカ影響調査」を行ったところ,林はみな低木がなくなり、ミヤコザサが低くなって、遠くまで見通せるものでした。これは,シカの影響がかなり大きく,「採食極相」とでもいうべきものだそうです。乙女高原の「森林部分」へのシカの影響はここ数年どころか10数年以上前からあったことが推測されました。
 周辺の森では10数年以上前からシカ食害による影響を受けていたのに,草原についてはそうでもなかったわけです。その理由として,

・他の地域と違って,乙女高原は草原のすぐ脇を車道が通っているため,人の存在がシカを警戒させていた
・ロッジが開館していたため,夏季だけだが夜間でも人の存在があり,シカは警戒せざるを得なかった

という事情が考えられます。特に後者については,2010年からロッジは全シーズン休館となってしまい,その影響が今になって顕在化してきたと考えられます。
 また,自然の変化はそう急激に起こるものではなく,目に見えるようになるまで水面下で徐々に変化が進み,ある時点で急に人々の目に留まるようになるという特徴があります。水面下の変化を知るためには科学的な調査が必要です。2013年に麻布大学高槻研究室の学生だった加古さんが行った卒業研究はまさにそれにあたり,シカ柵内外での花の数を比べたところ,100倍も違っていたことを明らかにしています。今年の花の少なさを予言しているようでした。


■2 シカ食害への対処

 まず第一に,増えたシカを減らすことが考えられます。2012年に行われた乙女高原ファンクラブ座談会で,山梨県みどり自然課の小俣さんから県の方針についてお聞きしました。それによると,シカの目標密度を積み上げると全県で5千頭。一方,全県での生息推定数(中間値)は3万6千頭なので,目標達成のためには山梨県全部のシカの6/7以上を捕獲しなければなりません。ハンターの数は年々減り,高齢化が進んでいるといいます。それなのに山梨県にいるシカの7頭のうち6頭を捕獲するなんてことが可能なのでしょうか。捕獲によるシカの個体数減少を待っていたら,手遅れになってしまいます。

 そこで,緊急的な対策として,保護したい植生を防護柵で囲み,シカが入って来られないようにする対策が各地でとられています。

 県内でトップを切ってシカ柵を設置したのは南アルプス市の櫛形山です。櫛形山といえば「東洋一のアヤメの大群落」ですが,あれほど群れ咲いていたアヤメが2007年にまったく咲かなくなってしまいました。その原因の一つとしてシカの食害を考え,立証するためにシカ柵を設置して内外を比較しようと,まずは5m×5m,10m×20mという2つのシカ柵を2008年に設置したのを皮切りに,順次,シカ柵を設置していきました。2009年には柵内にテガタチドリが復活し,2010年には40株以上のアヤメが開花したそうです。

 櫛形山ではこのような「小規模」のシカ柵を計7箇所,合計面積4600u設置し,成果を確認後,2012年にアヤメ平全体を囲い込む「大規模」シカ柵を設置しました。柵の総延長1500m,囲い込んだ面積6ha(=乙女高原の草原部分の面積とほぼ同じ)という広大なものです。アヤメ平の植物を観察するためにはドアを開けて,シカ柵内に入らなければなりませんが,あやめ平全体をシカによる食害から守ることができるのですから,抜本的な対策と言えます。

 今日,自然植生を守るためのシカ柵としては,このような大規模なものが主流で,県内では他に大蔵高丸(甲州市),県外では霧ヶ峰(長野県)や日光(栃木県)などに設置されています。


■3 乙女高原のシカ柵

 乙女高原でも,2010年に3基のシカ柵を設置しました。2012年からは麻布大学高槻研究室の協力でシカ柵の効果について検証してきました。2年間の研究で,シカは植物の成長を妨げていること,シカは花の数を減らしていることが分かりました。

 シカ柵の効果は設置後すぐにははっきり分かりませんでしたが,徐々に内外の違いが一見して分かるようになってきました。今年2014年,シカ柵外の遊歩道をくまなく歩いても3株しか見つからなかったオミナエシが柵内では群れ咲いています。クガイソウやタチフウロ,ワレモコウも同様です。乙女高原において,今まで私たちの目を楽しませてくれてきたお花たち(大型の虫媒花)が減少した原因はシカであり,その対策としてシカ柵が有効なことが分かりました。

 「はじめに」で述べましたように,乙女高原でのシカ対策は急務です。そして,シカ対策として有効なのはシカ柵設置です。しかも,主流は大規模なものです。抜本的な対策として,草原全体を囲ってしまう大規模シカ柵が必要です。

 ところが,抜本的な対策である大規模シカ柵にも課題はあります。

・広大なものだと,点検したり,修繕したりするのに手間が掛かる
・急斜面にも設置しなければならない。そんな場所では冬季の積雪が斜面下にずれ動き,特に斜面下部の柵に過大な加重が掛かって破損するかもしれない
・林内に設置するとなると,大きな木の枝が落ちてきて,その衝撃で破損するかもしれない
・出入り口が開けっ放しになると,効果がなくなる
・シカばかりでなく,他の中大型哺乳類まで柵内に進入できなくなる。たとえばキツネが入れなくなり,シカ柵内でネズミが増えるといった別の問題が生じないか
・莫大な費用がかかる(設置作業をボランティアで行えばもっと安価になるとは思うが,日光のシカ柵では1mあたり約1万円だったそうだ)

 また,シカ柵によるシカ対策はたかだか10年ほどしか歴史のない若い技術です。今後,さらに新しい課題が明らかになる可能性もあります。

 そんなことから,乙女高原ファンクラブは「小規模」でもなく「大規模」でもなく,「中規模」シカ柵設置を提案します。具体的には,「島」と呼ばれる森と林道にはさまれた部分です。乙女の下の駐車場からロッジに向かう途中,左手に広がる草原です。ここは林道約140m,駐車場の北側壁面約22m,遊歩道約165mに囲まれた部分で,周囲の長さ(=シカ柵総延長)は約330mです。

ここに設置する利点は以下の通りです。
・平坦な場所なので,積雪による被害が出ない
・林内の設置ではないので,落枝の可能性はない。
・ロッジ前から草原を見た時も,下の駐車場から草原を見たときも視野に入らず,景観を壊さないで済む
・1箇所から見渡すことができ,点検しやすい
・乙女高原への訪問者が,シカ柵があった場合となかった場合を比較でき,環境教育の教材として活用できる
・大規模柵に比べて設置費用が安価で作業も短時間で済む

 中規模柵の早急な設置を行政にぜひお願いしたいと思っています。また,この中規模柵がシカ対策として有効だったら,ぜひ,大規模柵の設置を検討してもらいたいと思います。
 なお,たった今述べたことと矛盾してしまいますが,自然の変化は予測不能です。今後,シカの影響が少なくなったら,今度はシカ柵撤去を検討しなければなりません。それを踏まえ,設置するシカ柵は恒久的なものでなく,撤去しようと思ったらあまり困難なく撤去できるような素材と構造である必要があります。
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2.【活動案内】●マルハナバチ調べ隊● 9月7日(日)

 今年も愛くるしく,乙女高原随一のインタープリターであるマルハナバチたちの働きぶりをじっくりと見せてもらいましょう。

■日 時 9月 7日(日) 雨天中止 午前10時半から午後2時くらいまで
■集 合 乙女高原グリーンロッジ
■持ち物 弁当,水筒,筆記用具,時計(腕時計や携帯電話の時計で十分です)
■参加費 無料。
■内 容 午前中は調査の説明とラインセンサス調査。午後はまちぶせ調査。
■問い合わせ・申し込み先 乙女高原ファンクラブ事務局(このメールに返信を)
※行事災害保険にはファンクラブで加入します。

※年に3回調査をするマルハナバチ調べ隊は,今年で12年目。
 第1回 6月29日(日)・・・【終了】
 第2回 8月 3日(日)・・・【終了】
 第3回 9月 7日(日)
 時間やプログラムは今回と同じです。
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3.【活動案内】 ●草の刈り取り実験●

 草原内で違う時期に刈り取りをし、その影響をモニタリングし、刈り取りに対する草原植物の反応の違いを明らかにします。刈り取り実験区は,ひとつの処理について10m四方の方形区。今年は実験・調査の2年目です。このプロジェクトは麻布大学野生動物学研究室との協働事業です。

@6月区:6月に区内の全植物を刈り取って効果をみる。
A9月区:9月に区内の全植物を刈り取って効果をみる。
B11月区:11月に区内の全植物を刈り取る(現行の刈り取りの効果の確認)。
C2度刈り:6月と9月に区内の全植物を刈り取って,2度刈りの効果をみる。
D選択刈り:6月に区内のススキのみを刈り取って効果をみる。
E刈り取りなし:全く刈り取りをしない区。

・刈り取りは地上部10cm程度の部分を機械または手刈りで刈り取ります。
・刈り取り直後に主要種について30個体程度を選び、ビニールテープでマーキングします。
・その後10月まで、毎月草丈の測定をします。

 【実験・調査のスケジュール】
・ 6月15日(日) ・・・【終了】
・ 7月13日(日) ・・・【終了】
・ 8月10日(日)
・ 9月13日(土) 9月区の刈り取りとモニタリング等
・10月 5日(日) 
・11月23日(日・祝) 秋の刈り取り ※草刈りボランティア


●草の刈り取り実験 その2●

■日 時 9月13日(土) 小雨決行 午前10時から12時30分。
■集 合 乙女高原グリーンロッジ
■持ち物 ある方は軍手 必要な方は弁当,水筒など
■参加費 無料。
 ※刈り払い機使用も認められている保険に加入します(ファンクラブで負担します)。
■問い合わせ・申し込み先 乙女高原ファンクラブ事務局(このメールに返信を)
 ※保険に加入する都合上,事前に申し込みをお願いします。
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