「あのね」


 除夜の鐘を数えるのにも飽きた頃、
「あのね」
と、彼女が言った。
「隠していたことがあるの」

「実は」
と、彼も言った。
「俺にもひとつあるんだ」

「私ね」
 彼女は俯いた。
「本当は人間じゃないの」

「驚いたな」
 彼は目をぱちくりさせた。
「俺もそう言おうとしてたんだよ」

「大犬座の向こうに×××って星があるの、知ってる?」
 言われてみれば、彼女の首筋はいくら何でも白すぎるようだった。
「私ね、そこの第五惑星の生まれなの」

「俺の方は」
 彼の瞳も、よく見ると溶岩みたいにぐるぐるまわる朱と黒だった。
「鯨座×××の第十二惑星から来てんだ」

「調査員なのよ、ほんとは」
 ちょっとため息をつくと、空の向こうを覗き込むような目つきをする。
「すごい倍率高かったの。地球行きが決まったときは、奇跡かと思った」

「おんなじだ。まるっきり」
 感慨深げに頷いて、彼は年越し蕎麦の丼を置いた。

「そろそろね、規定の期間も終わるんだけど」
「うん。そうだな。俺んとこも。あと二、三ヶ月ってとこかな」

「けどね」
「でもさ」
 ちょっと照れたような声が重なる。
「このまま、地球人として暮らしちゃうのも」
「いいかな、なんて思ってる」
「んでしょ?」
「んだろ?」

 ねえ?

 ──外で、花火の音がする。新しい年が来たらしい。

「……いいとこだもんね、ここ」
「うん。お前もいるし」
「ばか」
 彼女は彼を睨みつけ、それから二人で吹き出した。

 後は黙って蕎麦を食べ、彼と彼女は手をつないだ。
 めでたい朝が、待っている。


[09年7月]