うそつきソウルメイト
高尾和成は嘘吐きである。
緑間真太郎は嘘吐きではない。
◆
高尾和成は嘘吐きである。
よく回る口に、よく見える目だ。
周囲を喜ばせることが好きで、他人に嫌われるのは好きじゃない。
だから高尾は嘘を吐く。呼吸をするのと同じように自然に、瞬きをするのと同じように頻繁に。
「だーいじょーぶ、気にしてないって!」
「いーじゃん? 可愛いよ、ソレ」
「あっは、マジ好きだわ、そういうの」
「ん、似合ってる」
「いや、ホント、嬉しいわー」
そしたら相手が笑ってくれる。そしたら高尾も気持ちよく過ごせる。
高尾和成は嘘を吐く。ひらひらと白い嘘を吐く。
◆
緑間真太郎は嘘吐きではない。
頑なな口に、揺るがない目だ。
周囲に流されるのは御免で、他人にどう思われても気にならない。
だから緑間は嘘を吐かない。素肌を晒すように躊躇なく、己の信念を剥き出しにする。
「オレには関係ありません」
「興味がない。その映画にも、お前にも」
「何が面白いのか解らんな」
「思ったままを言っただけです」
「ふん、くだらん」
そしたら簡単に話が終わる。緑間は自分の時間を過ごせる。
緑間真太郎は嘘を吐かない。きらきら鋭い本気しか吐かない。
◆
「しーんちゃん、」
「煩い」
「ちょ、まだ名前しか呼んでねーのに!」
「存在自体が煩いのだよ」
「うっは傍若無人! さっすが真ちゃん、マジ好きそーいうの!」
「…………」
文庫本をはたりと閉じて、緑間は顔を上げた。惑うことを知らない目が真っ直ぐ高尾を見ている。
「なーに真ちゃん、そんな見つめられるとカズナリ照れちゃーう☆」
「よくもそんなことが言えるな」
「へ?」
照れちゃーう☆のくだりで小首を傾げてみせたのは流石にやりすぎだったかと、一瞬思って。
へらりと弁解しようとしたその前に、言われた。
「どうすればそんなにも簡単に心にもないことを言えるのか、オレには一生判らんのだろうな」
「……なんのこと」
「高尾、オレはお前を知っている」
真っ直ぐな目。嘘を吐かない、嘘を嫌う、一切の誤魔化しを許さない瞳。
「お前は嘘吐きだ。誰にでもいい顔をして、本心みたいに好意を告げる。オレのことさえ、好きだと言う」
「……」
うん。そうだよ。うそつきだ。瞬きだけで答えて、高尾は緑間を見つめ返す。
「そんなのは嘘だ。お前は嘘吐きだから。だが、高尾、それでもオレは、嬉しい」
「…………真ちゃん、」
「お前が、オレを喜ばせようとして吐いている嘘だから、オレを喜ばせようとしているのだと判るから、嬉しい」
「…そっか」
「ああ」
閉じていた文庫本をもう一度開いて、緑間はするりと視線を落とす。高尾は黙って瞬きをする。
「……しーんちゃん、」
「煩いと言ったろう」
「うん。覚えてる」
「ならば黙れ」
「好きだぜ。おまえの、そーいう、容赦ないとこ」
「そうか。お前は嘘吐きだからな」
「うん。そうだよ。うそつきだ」
「分かっているならいい」
「うれしい?」
「ああ。嬉しい」
◆
高尾和成は嘘吐きである。
緑間真太郎は嘘吐きではない。
外に静かな雨が降る、四月最初の午後である。
[2013年3月]