その言葉で


「車を借りたいんですが、って、なんて言えばいい?」
「Io voglio prendere in prestito una macchina.」
「UNA MACCHINA? へー、車ってそー言うんだ」
「……なんでそんなこと聞くの?」
「明日借りられるかなーと思って」
「……なんで?」
「や、せっかく女王さまとイタリアだから。ローマの休日ごっこ。アカデミー賞ばりの」
「……アンは王女さまでしょ」
「いいじゃん、女王さまでも」
「新聞記者はどこなのよ」
「仕事はレーサーですけど名前はジョーですがなにか?」
「……二人乗りは車じゃなくてヴェスパ」
「だってアレじゃ飛ばせねーじゃん」
「……だいたいここナポリ」
「おお麗しのソレント。ナポリを見てから死ね」
「死にたいの?」
「いいえ」
「そう。残念」
「……ヒドイ」
「ね、それ、美味しい?」
「うん。旨い。喰う?」
「いただくわ」
「これはなんて言うの?」
「Fettuccine、ね」
「FETTUCCINE?」
「…………」
「ん? なに?」
「器用だ、と思って」
「なんで?」
「綺麗に発音出来るようになるまで、私、結構苦労したのに」
「惚れ直した?」
「寧ろ不愉快」
「……やっぱりヒドイ」
「冗談よ」
「…………。……そっちは?」
「Linguine alla genoves」
「LINGUINE。……こっちは?」
「Cassata」
「CASSATA? ……これは?」
「Grappa」
「あ、聞いたコトある。GRAPPAな。……じゃあ、」
「なに?」
「もう一杯!ってどう言うの?」
「Posso averne un altro?でいいわ」
「ふーん。UN ALTRO? じゃ、酔ったみたい、とか、くらくらするわ、ってのは?」
「Io ho bevuto.かしら」
「IO HO BEVUTO。……帰りたくないわー、なんてのも言える?」
「Io non voglio ritornare.ね」
「じゃあ、愛してる、ってのは」
「Io L'amo.」
「L'AMO? あ、アモールなのか、そっか。……なんかもっと、凝ったのないの? 口説き文句」
「凝ったのったって……ああ、じゃあ、Io sono suo prigioniero.なんてどうかしら」
「PRiGIoNIeRO? ……凝ったってーより難しくねーか? それ、もう一回」
「Io sono suo prigioniero.」
「Io sOno SUo PRIgIONIEro.……何かおかしくない?」
「割と綺麗に話せていると思うけど」
「そっかな。なんか違う感じなんだけど。もう一回」
「Io sono suo prigioniero.」
「IO SONO SuO PRiGIONIeRO! あ、今のどう?」
「そうね、さっきよりだいぶ綺麗……に……」
「ん?」
「…………」
「ありゃ、さすがはきょーこさん。もしかしてもう気付いちまった?」
「……貴方って、ひとは……」
「だって、こんくらい周りに見せつけとかねーと」
「……なんだってのよ」
「オトコが寄ってくんだもん、あんた」
「バカ言うのはよして」
「ってのは、なんて言うの?」
「Non dica la stupidita!」
「Bravo〜♪」
「いい加減に……」
「……きょーこさん、」
「…………っ」
「Io sono suo prigioniero.(俺は完全にあんたのもんです)」
「……バカ。」


[09年8月]