語るに落ちた


「不思議な光景ですよね」
 しみじみと、風見ハヤトは呟いた。呟いたというには少々声量が大きかったので、部屋中の面々が振り向く。
 風見ハヤト。菅生あすか。城之内みき。 ここまではまぁ、身内みたいなものだから、新年早々同じ部屋でおせちを突付いていたって別に不自然は無い。
 しかし振り向いた顔触れには更にもう三人、新条直輝、ブリード加賀、そして葵今日子までが加わっているのだ。 というより、ここが葵今日子の自宅だということ自体が、SUGOとAOIの関係性を考えればまずありえないことだった。
「正月三が日も明けないうちから、今日子さんちでみんなしてお酒を飲んでるだなんて」
「ごめんなさいね、」
 申し訳なさそうに今日子が言う。
「お歳暮の始末をつけるのに困るのはいつものことではあるんだけど、今年は尚更だったのよ。妹が家を出てしまったものだから」
「ひとり減るとけっこー違うもんね、食べる量」
 みきが頷いて相槌を打つ。そうなの、と頷き返して、今日子は深々と溜め息を吐いた。
「せめて今日子にお婿さんでもいてくれればねぇ、なんて言われると、尚更憂鬱なのよ。食べられるものまで食べられなくなっちゃうわ」
「ご愁傷様ですぅー」
 年明け早々から縁起でもない台詞を吐きつつ、図々しく手酌で酒を注ぎ足しているのは加賀だ。ちろりと睨んでまた、溜め息。
「……ちょっと呑み過ぎじゃないの、加賀くん?」
「んなコトねーって、全然平気! いい酒は悪酔いしねぇって言うじゃん!」
「限度があるとは思うけどねー。加賀、あたしにもついでに一杯」
「はいはーいっと、けっこーイケる口だねェみきちゃん。ハヤトは? もー限界か?」
「あ、加賀さん、アタシ! アタシがいただきまーす☆」
「あっ、あすかぁ、僕が注いでもらおうと思ったのにー!」
「……大丈夫ですか、オーナー?」
 思わず額に手をやった今日子を、新条が心配そうに覗き込む。
「ありがとう新条くん、……大丈夫なんだけどね。どうしてこんなに、呑気なのかしらと思って」
「あったりめーだろ、正月だぜ正月ー! 今呑気に過ごさねーでいつ過ごすんだよ!」
「煩いよ加賀」
 みきにぺしりと叩かれている加賀を見ながら苦笑する。
「人数は多い方がいいわって言ったら、スゴウの皆さんまで連れてくるんだもの。吃驚しちゃったわ」
「まぁ、そういうとこ拘らないのが加賀ですからね」
 あまり酒に強くない新条は既にうっすらと頬を染めているが、どうやら会話能力まではまだ侵されていないらしい。
「というか、なんだかんだ言って割に頻繁に遊んでますよ、この面子で」
「…そうね」
「この前スケート行ったの、ほんの……えーっと、4日前ですもんね」
 もぎゅもぎゅとさきいかを咀嚼しながらハヤトが話に割り込んで来る。
「いきなりだったから大変だったわね。もっと早く分かってれば、幾らかでも予定を調整したんだけど」
「ごめんごめん、割引券もらったのがその前日の夜だったからさー。年内有効とか、もっと早く始末しとけってハナシだよ」
「でも、けっこー面白かったわね! また行きたいなーアタシ♪」
 自力では止まれず、他人に突っ込んで無理矢理止まるという荒業でスケートを楽しんでいたあすかの不穏な発言に、思わず小さく首を振る一同。
「うん、また今度ふたりで行こうか。みんなでじゃなくて。もっと上手くなるように練習しよう?」
 偉いぞハヤト、いい男だ! 無言の賛辞がハヤトに向かって降り注ぐ中、手酌を止めずに飲み続けていた加賀が呑気に口を挟んだ。
「つーかアレだな、きょーこさんももーちょっとうまくなった方がいいよな! 転び方ハデすぎだろ面白すぎるってもー!」
「……うるさいわね」
「だって、何回こけたよ? 8回? 9回か? しかもさ、ケツにでーっかい青アザこさえちまってるし、蒙古班みてーなの!  あれ、当分消えねーだろ、そりゃもう笑うしかねーよな、わはははははは!」
「「「「え……」」」」
 堪え切れないとばかりに笑い声を噴き零した加賀が、辺りの空気に気付いて不意に声を止めた。
「……あれ?」
 周りを見回す。アルコールが入っているというのに、顔面蒼白に近いくらい血の気の引いている顔、顔、顔。
 ただでさえ丸い目をまんまるにしているハヤト、瞳をきらきらさせているあすか、唇をわななかせている新条、何かを諦めたような顔になっているみき、そして――
「………………加賀くん、ちょーっと廊下に出てもらえる?」
 凄まじいまでに良い笑顔で、くいっと扉を指し示す今日子。
 ――その後の酒盛りに今日子の姿はなく、残された面子は屍(比喩)になった加賀の為に、無言で杯を捧げたという。

[2013年1月]