チョコレートの君


 困るんだよな、実際。そんな風に笑われても。こっちにはこっちの都合ってもんがある。お腹が一杯の時だってあるし、甘いものが食べたくない時もある。
 俺だっていつも機嫌がいいわけじゃないし、ましてやお前は典型的な「女」だろ?
 嫌な顔してみせればすぐ落ち込む、って、分かってるから妙に腹が立ってきて、で、思いっきり嫌そうな顔をしてしまう。
 暫く経って、後悔する。
「ごめん」。
 心の中で何呟いたって、勿論聞こえやしないんだけれど、さ。

 俺の彼女は甘いものが大好きだ。食べるのも、作るのも、恐ろしいことに見るのも好きらしい。
 だからって、俺まで甘いものが大好きだなんて思われちゃ困る。
 それくらい誰にでも分かる。
 筈なのに、ああ……。
「今日のデザートはマドレーヌだよ」? 甘いフレンチトーストの昼食にも呆れたけど、その後がこれか?
「勘弁してくれ!」

 勿論、甘いものが嫌いなんじゃない。だけどこう続けてじゃつらすぎる。
 虫歯にしみるのは結構嫌だし、食べすぎは多分体に悪い。
 だから、困るんだよな。いつも、いつも、いつも……。

 だけどなかったら淋しすぎるし、甘いものが無性に食べたい時もある。
 だから、その、少し甘すぎるチョコレートみたいな性格は……癖になるくらい甘ったるいお前は、やっぱり、俺には手放せないんだな、なんて、ほんとは思っていたりする。
「ありがと」。
 口に出さずに何思ったって、勿論聞こえやしないんだけれど、な。

[09年7月]