欠落( ―― DEFECT. LOVER. COMPLEX.)


「あら、」
「おー。おつかれさん」
「こんなところにいたの? もうとっくに帰ったと思ってたのに」
「んー、出口んとこのあの人混みがどーにかなるまでと思ってさ」
「ああ……確かにね。出待ちは控えてくれるように言ってはあるんだけど」
「まーアレも華ではあるからな。別にキライじゃねーんだけど、疲れてる時はちとしんどい」
「どっちかっていうとサービスはいい方よね、加賀くんは」
「優秀な広告塔だろー?」
「自分で言わなきゃもっといいわね」
「おっと失言!」
「で、どうしてこんなところにいるの?」
「今日子さんこそ」
「落ち着くから。ここだと」
「あー、んじゃ、同じくだわ」
「この時間帯がいちばん好きなの。アスファルトが綺麗なオレンジ色になって」
「うん。朝もいいよな。誰もいない時間帯の、あーいう静かなカンジってのも落ち着く」
「そんな早くから来てるの? 貴方が?」
「今言外に『しょっちゅう寝坊で遅刻する癖に?』って聞こえたんですけど」
「いい耳をしてるのねぇ!」
「ひでぇ言い草ー」
「冗談よ、勿論」
「デスヨネー?」
「……好きなのね、」
「ん?」
「サーキットが。……いえ、レースが、と言うべき?」
「アンタだって、他人のこたぁ言えないでしょーが」
「それは、……その通りだけど」
「言われてるぜー? アオイの女王様は、仕事と結婚してんじゃない、レースと結婚してんだってさ」
「貴方が言うの? それこそ、他人のことは言えないでしょうに」
「えー? そっか?」
「そうよ。大体加賀くんだって、恋人がいたことなんて、ある?」
「はぁ?」
「恋人がいたことがあるか、って訊いてるの」
「……出くわしたコトとか、何度かあったろ」
「うん、そうなんだけど。……単にオンナノコとかカノジョとかって意味じゃなくて、恋人のことを訊いてるのよ」
「同じよーなもんじゃねーの?」
「違うわ、そうじゃないのよ。なんていうか、貴方って……」
「俺って?」
「生身の女を愛せるようには見えないんだもの」
「え? なにそれ俺どっか欠陥があるような扱い?」
「というより、」
「何だよ」
「レース『以上』の女の子になんか、出会えないんじゃないかって気がしてね」
「…それは、否定しにくいな」
「でしょ?」
「ま、それはアンタもだろうけど」
「異議無し」
「……楽しみだよな、明日」
「ええ。遠慮なくPPかっさらってらっしゃい」
「おうよ」
「…あ、もうこんな時間? そろそろ出口も空いたかしら」
「ぼちぼち行ってみるかなー。そーいや今日子さん夕飯どーすんの?」
「予定ないから付き合うわよ。ついでに明日の朝のミーティングのことでちょっと……」

 よく似た欠落を埋め合う近しい二人のおはなし。
[2014年6月]