邂逅


 偶然すれ違っただけのその人が振り返って笑った。
 不意に口づけるみたいに素早く、鮮やかな瞳が閃く。

(ひさしぶり)
(あいたかった)
(げんきでね)
(あんたもね)
 聞いたことも無い声が頭の奥で舞い上がり、僕は人混みの中に立ち尽くした。

(あいたかった)。
 感情の破裂。

 気付いたら僕は泣いていた。
 夏の初めの、雨の日だった。


(生まれかわりって、信じる?)
 そう言って笑ってみせたのは誰だったろう。
 ずっと前から、そう、それこそ何百年も前から、こんな思いを知っていた。
 愛しくて、でも、恋ではない。
 だから、あんな約束を、した。

(生まれ変わったら、また 会おうね)
(恋人になるとか、そんなんじゃなくて さ)
(どこかで 偶然 擦れ違うの)
(そしたら 笑って 手を振ろう)
(ね?)

 兄弟? それとも、親友だろうか。
 かつての恋人同士? どちらかの、片想いだっただろうか。

 決して重ならない。けれど誰より近い。
 僕たちは、すれ違う。
 何度でも、巡り逢う。
 一瞬だけ交わった視線に、ありったけの想いを込めて。

「あなたがしあわせでいてくれますように」
「アナタがシアワセでいてくれますヨウニ」
「貴方が 幸せで いて くれますように」
 …………


 何百年も後、次の体で出逢う時には、僕の方から笑いかけよう。

 見上げた雲間に、青空が覗いた。

[09年7月]