花火より火花の散る
ヤキモチも遠火で焼けよ焼くひとの胸も焦がさず味わいもよし。
加賀くんは本当はすっごくヤキモチ焼きだと思うんだよね、新条くん以上に(笑)。
負けず嫌いは嫉妬心に火を点けるし、ましてや「執着しない」ふりをずーっと続けて来た彼には、結構な反動があるんだと思うのです。
ハイシーズンである真夏に、日本で顔を合わせるなんて難しいけど、万障お繰り合わせの上是非、と。
AOIも大々的に協賛している海辺の納涼花火大会に、えっちらおっちらわいのわいのと集まったお馴染みの面々。
湿度の高さにげんなりしているアメリカンとか、日本情緒に目を細めているゲルマン人だとか、まあ若干国際色豊かだが、うん、やっぱり日本の夏の風物詩。
いつも通り地味で品のいい格好の新条くん、相変わらず露出度の高い派手な格好の加賀くん。
気合いの入った可愛らしい浴衣姿のあすかちゃんに、着せられてる感満載だよな!と大笑いされた渋い浴衣のハヤトくん。
珍しくふわふわした感じのサマードレスを着たみきちゃんは、スレンダーな肢体がなんとも魅力的で、赤面した新条くんと見詰め合って俯いて「ぽっ」てなったままなかなか動きません(笑)。
あれ? きょーこサンは? あ、さてはアレだなまた派っ手〜な浴衣着ようってんで着付けに四苦八苦してんだな?
と、いしし、と笑う加賀くんの背中に、氷のつぶてのような声。
あら、ご期待に副えなくて残念だわ。遅くなったのは仕事の都合で、浴衣の所為ではなくってよ。
……あら。そーでしたか。そいつぁ失敬……。…………。
……どうしたの加賀くん?
きょーこさん……そのカッコは、ちょっと……。
仕事の都合で遅くなった分、急いで駆けつけようとしたのだろう。
普段の今日子から想像される、手の込んだ上質な服ではなく、走りやすそうで動きやすそうで涼しそうな――限界まで布地が少なくて極端に切れ込みの深い――つまり、キャミソールとショートパンツに編み上げのローヒールサンダル、という格好の今日子に、一同ちょっとばかりびっくり。
いや、びっくりのあとに来たのは感心の溜め息。普段はびしっと着たスーツに隠れて分からないが、すらりと長いその脚の、白くむっちりとした太腿は、こうして露出されるとなかなか――。
……ちょっと、何よ。
……トシ相応じゃねぇっつーか、ほら、なぁ?
大袈裟に肩を竦める加賀くん。
ぴしり、と青筋を浮かべた今日子さんは、勢いよく彼の頭を張り倒し、大きなお世話よ、と呟きながら海側へと去っていく。
ああほんと、大きなお世話よ。せっかく急いで来たっていうのに。
波の上に零れる花火の欠片を見ながら、ひとりぷんすかし続ける今日子さん。
と、その横に、ことんと缶チューハイを置いて誰かが腰掛けた。
飲まないんですか、今日子さん。
……新条くん。
にっこり笑いかける可愛い元部下に、ちょっぴり赤面してしまう純情可憐な今日子さん。
もちろん、新条くんは気付きもしませんが(笑)、でも若干オトナになった彼は、空気読むとか気を遣うとかってこともわりかし出来るようになってきてるのです。
ハヤトが買って来てくれたんで、これもどうですか。
ほこほこのたこ焼きをビニール袋から取り出して、もう一度笑う。
……いいの? みきさんのところにいなくて。
ああ、それは。
ぽ、と赤くなって、照れるように新条くんは。
あんまり近くにいると、その。……緊張しちゃうから、俺。
……そうなの。
私には緊張してくれないのね、と思いつつも、赤面した彼の愛らしさに思わず微笑んでしまう。ああ、この子のことだけずっと好きでいられたら良かったのに。
正直言うと、今日子さんも、
え?
……その格好、すごく新鮮なんで。ちょっと緊張、してるんですけどね。ははは。
……やっぱり、年甲斐もなく、って思う?
呟いた声が自分でもびっくりするくらい落ち込んでいて、しまった、と後悔する。
きっと反応に困ってるだろうな、と、ちらりと新条くんを見ると、――意外にも彼は、おかしそうに笑いを噛み殺していた。
ちょっと、なんで笑うのよ。
……いや、すみません。あはは、そっか、そうなんだ。
だから、なんなのよ!
今日子さんでも、気付いてないことってあるんだな、と思って。
は?
問い返すと、ただおかしそうに笑っていただけの彼の顔が、悪戯っぽさを含んだ表情に変わった。
その顔に胸をどきりと鳴らした今日子さんに、す、と顔を寄せる新条くん。
そのまま、唇が触れそうなくらいの耳元で、囁く。
嘘に決まってますよ、加賀の台詞なんて。
え……
気付いてくださいよ。アイツ、ああ見えてものすごく、ヤキモチ焼きなんですよ?
(ヤキモチ?)
その言葉の意味が脳内に浸透するより早く、突風のように人影が走り寄ってきて、新条くんにド派手なヘッドロックをかました。
てめぇ新条、今なんか俺の悪口言ってただろ。ぜってーそーだろ! コラ!
いてててて、やめろよ加賀、と喚きながら、新条くんはにやりと今日子さんに目配せする。
ほら、飛んできたでしょう。俺たちに妬いて。
…………。
ヤキモチ。
囁かれた、その言葉の意味を考えて、ただ頬を熱くする今日子さんに――苛々している加賀くんは、気が付かないまま……。
[09年7月]