四代目、それとも
「あれ? 悠のヤツまだ帰ってねーの?」
「お父さまのところに寄ってから帰るようにって言われてるんですって。夕飯までには戻ると思うけど」
「……じーさんとこに? なんで?」
「大学の話じゃないかしら」
「だってアイツ、K大に決めたんだろ?」
「学部を考え直せって説得されてるのよ。悠はあくまで理論を学ぶのに興味があるって言ってるんだけど、
お父さまとしてはもっと実践的な内容を学ばせたいんですって。
取れる資格はさっさと取って、早いところ現場に出て経験を積め、って」
「早いところったって……院まで進みたいって言ってなかったか?」
「途中に留学の予定まで入れてるわよ。……悠も譲らないし、平行線だと思うのよね」
「……商学部と経済学部ってそんな違うの?」
「正直、私にもよく判らないわ。悠が調べてそうだって言ってるんだから、そうなんじゃない?」
「大学なんて、俺らにゃ未知の世界だもんな」
「まあ確かに、生涯一学者、じゃちょっと勿体無いかも知れないけど。
子どもの頃から、あの子の経営的センスってずば抜けてるもの」
「昔っからしっかりしてるもんなぁ、アイツ」
「でも、学校の先生からも研究職を薦められてるのよね。
T大に進んでノーベル経済学賞を狙うべきだ、って真顔で言われたわよ、この前の三者面談」
「ソコまでのお墨付きがあってもまだ経営者に拘るんだな、じーさんは」
「……実はね」
「ん?」
「最近、お母さまがね、だいぶ株で儲かっちゃってるらしいの。で、悠のアドバイス通りにやってただけよ、って言うのよね」
「……だいぶ、って、どんくらい?」
「このくらい」
「げぇ! 高校生の動かす額じゃねーだろコレ!?」
「でしょ? それで、ますますお父さまも譲らなくなっちゃって……」
「すっげーな、誰に似たんだアイツ?」
「……加賀くんじゃない?」
「えー俺? 投機的才能ならむしろ今日子さんじゃねーの?」
「葵の血筋、なのかしら。だとしたらお祖父さま譲りってことね」
「ふーん、四代目の経営参画ねぇ。話題性もあるだろうし、わりと面白そーな気がするけどな」
「……他人の進路で勝手に面白がらないでくれる?」
「うわ! なんだお前いつの間に帰ってきてたんだよ!」
「あら、おかえりなさい。思ったより早かったわね」
「ただいま。平行線になると思ったから切り上げてきた。あれ、叶は?」
「あの子は今日遅いのよ、練習試合だから。……よくあのお父さまから逃げて来られたわね」
「ある程度付き合ってあげるのも孝行のうちだけどね。本気で説得されるつもりはなかったから」
「この際乗ってみるのも面白ぇと思うぞー、俺。試しに一年くらい経営参画してみちゃどーだ? 高卒で」
「だから他人の進路で勝手に面白がらないでってば。血筋に縛られるなんて真っ平だね、おれは」
「よっ、見上げた反骨精神っ!」
「はいはい、どうも」
「でもさー悠、血は争えないって言葉もあるんだぜー?」
「争わないよ。おれはいつでも『初代・葵悠一郎』のつもりでいるんだから」
「うっわ生意気! 図々しいなぁお前!」
「父さんに言われたくない」
「ふっふっふ。いいのかなー俺にそんな反抗的態度とったりして」
「……なんだよ」
「俺は知ってんだぞー、『早紀ちゃん』のコト♪」
「!!!!!」
「ふははははははは! 父親なめんな!」
「……っ、おれ、着替えてくるからっ」
「……すごい勢いでいなくなったわね」
「照れくさいんだろ」
「……誰なの、サキちゃんて?」
「ん? あ、知らね? 悠のカノジョ。おんなじクラスの」
「へぇ……。……なんで貴方がそんなこと知ってるのよ」
「いや、世間てけっこー狭いんですヨ。俺も最近知ったんだけど。
その早紀ちゃんの叔父さんってのがうちの広報の小宮山クンなんでしてね」
「え? 悠のクラスメイトの叔父さんがうちにいるの?」
「そそそそそ。ちょっとビックリだろ? そいでさ、話を聞くに、その早紀ちゃんてのがまたちょっと面白いんだわ」
「面白い?」
「ふふーん。聞きたい?」
「ええ。聞きたいわ」
「早紀ちゃんて子さ、気ィの強いきっつーい美人で、生まれも育ちもお嬢でさ、
しかも生徒会長なんかやってて、綽名が『女帝』ってんだってよ」
「……は?」
「誰かさんにソーックリだと思わねぇ?」
「……え?」
「そーいう女に惚れちゃうところ、いくら意地張ってもやーっぱ、俺の子だよなー!なんてね♪」
「はぁ……。葵の四代目っていうより、加賀くんの二代目ってこと、かしら」
「へへ。最愛の俺ソックリの息子ってな、可愛いだろ?」
「……図々しいところも確かに遺伝しているようね」
「頼もしい二代目がいて光栄です」
「大した初代だわ、まったく!」
[2010年5月]