神のご加護が、ありますように
「もう、はじめちゃんてば、いいかげんしゃきっとしてよ!」
「ったって、」
反論する声がもう欠伸でふやけている。
何しろ、明け方5時過ぎまで布団の中でゲームに興じていたのだ。
普段だったらそりゃ誰に叱られても仕方ない、とは思えるが、そもそも完全な寝正月を決め込む予定だった元旦くらい、起き出して来るまで放っておいて欲しかった。
「……ねみィんだよ、まだ9時だぞ? しかもこんな混んでるし。ぼーっとつったってりゃアクビくらい、しゃーねーだろ……」
間髪入れずに二つ目の欠伸。美雪が、もう、と顔を顰める。
「せっかくの初詣なのよ。ちゃんとして、しっかりお祈りしなきゃ」
「したけりゃオメーだけ勝手にすりゃいいだろォ? なんでオレまで……」
「あーら、アタシははじめちゃんのために言ってあげてるんですけど! 神頼みしたいこと、いーっぱいあるでしょ?」
「んなの、」
「例えば今度の、学年末試験とか。進級かかってる補習の出席日数とか」
「ぐっ……」
思わず言葉に詰まるはじめを前に、学年トップクラスの成績を誇る幼馴染みは、ふふーん、と誇らしげな顔をする。
「……んなの、オメーにゃ関係ねーだろが」
「あるわよ! はじめちゃんが追試になるたびに、アタシが試験勉強みてあげなきゃいけないんだから」
頼んでねーよ、と言いかけたはじめは、誇らしげだった美雪の顔が、嬉しげに変わっているのを見て言葉を変えた。
「……にしたって、なんでわざわざこんな遠くの神社なんだ? ウチの町内にあるヤツで済ませりゃいーのに」
「せっかくお参りするんだから、ご利益のあるところに行きたいじゃない」
「……なんのご利益があんの? ココ」
「厄除けよ」
「やくよけェ? じゃ、進級できますよーにとか、今年こそカノジョができますよーにとか、カンケーねーじゃん!」
「あーもう、うるさいっ!」
耳元で喚いたはじめをぺしんと叩いて、美雪はちょっと唇を尖らせた。
「……はじめちゃんにいちばん必要なのは、絶対これだと思うもの」
「なんで、」
「だって」
不満そうに言いかけたはじめを遮って、彼女は言う。真顔で。
「今年もまた、危ないことにいっぱい、首つっこむ気でしょ?」
「…………」
黙って、小さく頭を掻く。
首を突っ込んでいるつもりはない。どちらかというと巻き込まれている。
けれど、謎めいた厄介ごとから距離を置く気もさらさらない、のだ。
「だから、しっかりお祈りしようって言ってるの! あ、あとでお守りも買うからね?」
「……へーい」
「ほら、しゃきっとして!」
ふやけた返事に眉を寄せた幼馴染みに叩かれながら、ぼんやりと考える。
厄介ごとや哀しいことに関わってばかりいる自分は、どちらかというと疫病神の方に近しいのではないかと思う。
それでも、美雪ははじめから遠ざかろうとはしない。はじめを遠ざけようともしない。代わりに、はじめを守り、はじめの手助けをしようと一生懸命だ。
推理小説を読み漁ってみたり。悲惨な現場にまでくっついてきたり。
――こんな風に、厄除け祈願なんてさせようとしてみたり。
「…………」
「? どうしたの、はじめちゃん、」
突然自分の方を向いて手を合わせた幼馴染みに、美雪が怪訝な顔をする。
「かけまくもかしこき、みゆきだいみょーじんさま」
「え?」
「今年もよろしく、おねがいします」
「ちょっと、なに?」
「……おし、初詣終わり! 美雪ィ、いつまでも並んでねーで、甘酒かなんか買って帰ろーぜ〜♪」
「あっ、こら! 逃げるな! ちゃんとお祈りしてって言ったじゃない、ちょっと、はじめちゃん!」
お守りも買って帰るんだからー!と背後から追い駆けてくる声を聞きながら、はじめは小さく、神様ってやつに感謝した。
[2011年1月初出/2014年4月再録]