幸せな愛を!(―― May your Christmas be happy.)


「……? 加賀?」
 思わず怪訝そうな声になってしまった。だってそうだろう。ガレージの扉を潜ったら、見慣れた人影が怪しげな態度で戸棚を漁っているのだ。
「お、みきちゃん。おひさ」
「一昨日も会ったっしょー。ナニやってんの、こんなとこで……なにコレ?」
「空港の花屋で見付けてさ。かわいーだろ」
「……ホントだ。可愛い」
 足元に置かれていた小ぶりな鉢植えを取り上げてまじまじと見つめる。ちゃんと小さな円錐形になっているが、木と言うよりは草だろうか。 真冬だというのに、一面にびっしりと白い花がついているのがなんだか不思議だ。
「クリスマスエリカ? っつんだっけな? クリスマスツリーの代わりにするんだと。ちっとおもしれーかなと思って」
「エリカなんだ、なるほど。で、コレ、どーすんの?」
 自宅に持って帰る気ではないのだろう。そもそも、加賀の部屋に鉢植えだなんて似合わないことこの上ないし。 いや、どんな部屋かなんて知らないけどね。行ったことないから。
「んー、まあ、どっかその辺に飾ろっかなーっと」
「……へぇ」
 言いながら、加賀の手は戸棚の中をあれこれ掻き回すのを止めない。箱を引っ張り出しては蓋を開け、覗き込んでは顔を顰め、ぱたりと閉じて元へ返す、そんなことばかりやっている。
「……で、ナニ探してんの」
「や、なんかこう、キラキラしててヒラヒラしてるもん。もーちっとクリスマスツリーっぽくしたいんだよな」
「そんなの、ガレージで探してどーすんの。もっとありそうなトコ探せばいいじゃん」
「えー? 例えば?」
「今日子オーナーのとことかさ」
 ああ見えて(って失礼か?)、こまごましたかわいいものが好きな人だ。 本人がやたらゴージャスで派手な雰囲気を持っている関係で、服もアクセサリーも「カワイイ」というカンジではないのだが、 その分の鬱憤を晴らそうとでもするかのように、執務室の中にはそこここに可愛らしさが散りばめられている。 こんな可愛らしい鉢植えなんか持って行ったら、それだけできゃいきゃいはしゃいで、モールだのリボンだので飾り立ててくれそうではないか。
 なのに、加賀は変な顔をした。いや、変な顔っていうか、しまった!ってカオっていうか、困ったような、照れたような、恥じるような、焦るような、ん、違うな、なんていうか……
「……あー、」
 うん、そっか、わかった。なるほど、そうか、そーなんだね。
「……第三倉庫の左側の棚にさ、段ボールがつっこんであって」
 珍しくも黙ったまま、みきのセリフに加賀が頷く。
「そん中のどれかに、去年の忘年会で使ったデコレーションがそのまんま、残ってると思うんだよね」
 見てらんなくて視線を逸らし、誤魔化すように頭を掻く。うん、ごめんね加賀、これ以上見てると笑っちゃいそうだ。だって、わかった、アンタの今のその顔ってさ。
「ソレでも使って可愛くてしてさ、机にでも置いといてあげたらきっと、……喜ぶと思うよ、今日子オーナー」
「       」
 赤面した、としか言いようのない顔のまま、加賀が口をぱくぱくさせているのが視界の隅に映る。彷徨わせた視線の先で、白いエリカの花が咲き零れていた。


エリカの代表的な花言葉:「孤独」「謙遜」「休息」「裏切り」
白いエリカの花言葉:「幸せな愛を」「幸福の予感」

[2013年12月]