おいくらですか
オーナーたる葵今日子の呼び出しに応じて現れたのは、酷く現実離れした外見のレーサーだった。
色々なスポーツ選手を撮ってきたが、こんなにも派手なビジュアルは初めてだ。
自己紹介を終えても面食らったままの彩の目の前で、取材概要を軽く説明する今日子に、
加賀というそのレーサーは早速噛み付いている。
「俺の特集ぅ!? 何だよソレ、聞いてねーぞそんな話!」
「言ったって忘れるか嫌がるかのどっちかでしょ、いっつも。
これでも貴方への取材は少なくしてあげてるんだから、偶にはこっちの言うことも聞いてよね」
「ちぃ、何だよソレ……」
反論をばっさり切り捨てられて顔をしかめる加賀に、涼しい顔で今日子が畳み掛ける。
「大体、『レースに支障のない限り、指示された取材には真摯に応じる』っていうのは契約事項にあったでしょ。
これはれっきとした取材よ、拒否出来る理由なんてあって?」
「うげぇ……」
げんなりした顔で天を仰ぎ、少し考えてから、半分諦めたように訊いた。
「……てコトは、コレ、断ったら」
「違約金ね」
「……どれくらい?」
「これくらい」
さらさらさら、とメモ用紙に書き付けられた0の多さに、思わず目を覆う加賀。今日子の方は冷徹な眼差しで反応を待っている。
「……しゃーない、」
数秒後、加賀の口から零されたのは一見、承諾の台詞のようだったが。
やれやれといった顔で息を吐いた今日子の肩を不意に掴んで、彼は言った。
「きょーこサン、」
「……なに?」
「俺、考えたんだけど、」
「だから、何」
真剣な眼差しで、僅かに顔を近付けて、口を開く。
「その違約金、カラダで払うってコトで」
「……………………」
ゆっくりとひとつ瞬きをして、今日子は加賀を見つめた。
それからふいと視線を上げて、大袈裟な仕草で目を眇めた。
髪の先から、顔、首、胸。
腹筋、腰骨、ついで太腿。
膝、脛、足の、先の先まで視線を下ろして、そして再び目を上げる。
「……250回払いってとこかしら」
「ってちょっと一晩いくらで換算したですかソレ!?」
予想外の安さに崩れ落ちる加賀に、醒めた眼差しを注ぎ続ける今日子。
それがあまりにも絵になる光景だったので、思わずシャッターを切ってしまった彩は、
加賀から恨みがましい視線を受けて、ちょっと身を竦ませたのだった。
[09年9月]