もしもそれが君のためなら


 そうもともと悩みってのは尽きないもんなんだってことくらいとっくの昔に知っていた筈なんだけれど、一体全体何がこんなに苦しいのかって 僕は彼女のことがほんとにほんとに好きなのに彼女の方は僕のことが嫌いで嫌いで仕方無いってことなんだ。
 一体何が気に入らないのかきっと彼女のほうでも全然分かっちゃいないんだけど とにかく嫌いなことだけは確かなわけで、それも生半可な嫌いじゃない もはや生理的嫌悪感と言ってもいいほど激しくて理不尽な嫌悪ときてる。悪いところをちょっとずつでも直していこうなんて思ったところで一体何が悪いのかすら誰にも分かりゃしないんだからほんと僕にはどうしようもなくて、けれど彼女が好きで好きで好きで好きでたまらないのも本当なんで 僕はすっかり参っちまった。

 毎日毎日悩みに悩んで結局僕はどうしたかって、露骨にイヤな顔してみせた彼女をどうにか宥めすかして学校の屋上に連れていったわけで、そしてさくりと訊いてみたんだ 僕のどこがいけないのかって。
「どこが、じゃなくて、全部よ、全部!」
 不機嫌を通り越して泣き出しちまいそうな顔で彼女は酷いこと叫ぶんだ。
「あんたって奴の何もかもまるごと全部イヤなのよ! どうしようもなくイヤなのよ! イヤなのよ! 同じ空気を吸ってるってだけでもうイヤよ!」
 ならずっと息止めてればって面白くもない揶揄いの台詞が頭の端を横切ったけれど 実際そんな下らないこともうほんとにどうでもよくて、
「それじゃ僕一体どうしたら良いのさ?」
 一言訊いたら彼女は声を震わせて、綺麗な顔を思い切り歪めて、
「消えちゃってよ」
とのたまった。

 まあこれが僕がどうして屋上から飛び降りたのかって質問に対するほんと大まかな説明で、こうして振り返るとたったこれだけのことなんだけれど ほんと僕には他にどうしようもなかったんだ。今だって思ってるんだよもしも彼女の為ならば、望みのままに何だってあげるって。
 彼女が望んだことならば、こんなココロも壊れたカラダも、
 何にも、
 何にも
 いらない って。

[09年7月]