ループ&ループ(―― Welcome to Our World.)


「テーマパークを作ったらいいかもな」
 首に貼られた湿布を気にしながら、加賀は言った。
「何の話?」
「アオイのテーマパーク。トップスピード500km超えるジェットコースターに、強烈な一回転つけて」
「貴方たちの世界を体感させてあげるってわけね」
「そ。経験者が監修する、めくるめく加速とクラッシュの世界」
 めくるめく、と言った加賀ではなくて今日子の方が、大袈裟にくるりと目を回した。
「実際、見事なもんだったわね。今回のクラッシュは」
「オドロキの大回転だったろ」
「見せてあげたかったくらいよ」
「マシンの中からだと大したことなかったんだけどな。確かに映像見たらすごかった。ありゃ悲鳴も上がるわ」
「またそんな他人事みたいな態度」
「まずい?」
「当事者でしょ。反省しなさい」
「けど今回は俺、どっちかっつーと被害者じゃねーの?」
「どっちもどっちよ。甘ったれないで」
「冗談なのにー」
「わかってるわよ」
 漸く笑顔を見せて、今日子は加賀の隣に腰を下ろした。頬についた擦り傷を労わるように撫でて、囁く。
「この程度で済んでよかったわ」
「うん」
「貴方が居なくならなくて、ほっとした」
「……泣かせないで済んで、ホッとした」
「充分、衝撃は受けたけどね」
「けど、もうやめて、なんつって泣き出したりはしねーだろ?」
「泣き崩れる女には辟易してる?」
「泣き喚かない恋人には感謝してる」
「近い過去は全部水に流してくれたのかしら?」
「あのときはトモダチ。今はコイビト」
「ご都合主義」
「いい主義だろ」
 そうね、と笑ってから不意に、今日子は真顔になった。
「――不安は、ゼロにはならないけど」
「ん?」
「信用はしてるわ。貴方のしぶとさは、並大抵じゃないもの」
「そーそー死にゃしませんて」
 きしし、と笑って、加賀は再度首筋に貼った湿布に手をやる。
「ま、死なないまでもソレナリに、痛い目には遭ったりするけどな」
「死なないまでもそれなりに、問題は残ったりするかも知れないしね」
「左腕切断とか?」
「片目失明とか」
「視神経障害とか?」
「恐怖症にかかるとか」
「頭ぶつけて記憶喪失とか?」
「あながち、無いとも言い切れないわね」
「もしなったら、どーすんの?」
「決まってるじゃない、」
 真顔を僅かに綻ばせて、今日子は囁く。
「契約書を読み直させるのよ」
「正解だな」
 首の怪我を忘れてうっかり肩を竦めた加賀が、痛ぇ!と声を上げたので、今日子は慌てて立ち上がった。
 派手なクラッシュを時々挟んで繰り返す、彼らの平穏な日常である。


[2011年3月]