一発逆転


「はい、コレv」
 満面の笑みでそれを手渡す。受け取る前から彼女の綺麗な眉が歪むのに気付いて、もう、内心楽しくてしょーがない。
「……なにこれ」
「首輪。しかも鎖付き」
「なんの」
「きょーこサンの」
「……なんで?」
「だってやっぱりー、イジメたいじゃん?」
 きゅ、と寄った眉の間に、不穏なオーラが漂い始める。あーそう、これこれ。正直これが、堪んない。
「悪趣味」
「んなコトねーって。ほら、こんなにグッズが出てるくらい、一般的な趣味だし?」
「大体、」
 ぱん、と首輪を伸ばして、彼女が目を眇める。うわぁ、女王様。ハマリすぎ。てかこっちのセリフ完全無視?
「こんなものを私に、しろっていうの? こんな無骨なものを?」
「似合うと思うけど?」
「男物じゃないの、こんなの」
「えー? 首輪に男物も女物もねーだろ、」
 と言い終わる前にするりと、首に貼り付く冷たい感触。
「……え?」
「男物よ。ほら、ぴったりじゃない」
 かちゃん、と小気味良い音を立てて、精緻に作られた金具が閉まる。――彼の、喉元で。
「……え? え? ちょっと?」
「ええ、ぴったり。似合うわよ、加賀くん?」
 微笑みはまるで、女神様。……っていうかやっぱり、女王様?
「あの、きょーこサン、」
「じゃあ次は、これかしら?」
 がちゃり、と少し重い音を立てて、今度は手首に冷たい感触。……どうみても、手錠だ。
 あれ? これ、まだ見せてなかったはずなんじゃ? ……てか、今、がちゃりって。……がちゃりって! おい!
「………………!」
 慌てて振り解こうとするが、取れない。しかも見た目より重い。うわ、なんか、ちょっとヤバイ。
「ちゃーんと鍵がかかるのね。よく出来てるわねぇ」
 笑顔はますます艶やかに、はっきり言って悪魔並み。見せ付けるように小さな鍵を閃かせて、するりと彼から遠ざかる。
「え、おい、ちょっと! きょーこサン!」
 一歩踏み出そうとして、がくんと何かに引き留められた。……首根っこをとっつかまえられた、ような。
 てことは、つまり。
「…………」
 恐る恐る振り向くと、首輪から伸びた鎖の端が、きっちりベッドに繋がれている。
 当たり前だ。さっき、彼が、繋いだんだから。
 てことは、つまり。
「……つまり、この状況は……」
 両手の自由を封じられ、首に鎖を付けられて、愛する彼女と二人きり、深夜のホテルで向かい合う。
 とっても魅惑的、というか、とっても恐ろしい、というか……
「とっても、楽しい状況ね、加賀くん?」
 ……にっこり笑う美貌の悪魔に魅入られて、彼は大きく唾を呑み込んだ。
 恐怖からか期待からか、妙にばくばく言い始めた心臓が、破れてしまわなければいいが、と思いながら。

[09年7月]