やどりぎ


 [Situation:クリスマス・パーティー]
 [Card:風見ハヤトvs.葵今日子+加賀城太郎]

「――え?」
 あまりといえばあまりなことに、今日子は危うくシャンパングラスを取り落とすところだった。
 頬に残っている柔らかな余韻は、間違いなく唇の感触だ。問題は、その唇の持ち主が誰かということで。
「…あの……風見くん?」
「ダメですよ、今日子さん」
 当の持ち主は、今日子以上に困惑した顔をしている。
「そんなところにぼーっと立ってちゃ、……なんていうか、罪作りですよ?」
「……え?」
 思わず頬に手を当てながら、呟く。
 サーキットの帝王、風見ハヤトは、年齢よりも子どもっぽい顔に困ったような微笑を浮かべて、右手で上を指差した。
「ほら、あれ」
「あれ?」
「見えるでしょ? あそこに」
「…やどりぎ?」
「真下に立ってるんですよ、今日子さん」
「……えっと……」
「ヤドリギの下で出会ったら、キスをしなくちゃいけないでしょ? ……あすかにも加賀さんにも叱られたくないんで、ほっぺにしましたけど、それでよかったですか?」
「……『ヤドリギの下に立ってる女性は、キスを拒んではならない』だろーが」
「あれ? そうでしたっけ?」
 振り向くまでもない。地を這う声音を吐き出したのは加賀だ。びくりと体を強張らせた今日子と対照的に、ハヤトは無邪気に首を傾げた。
「日本に戻って長いから、ちょっと忘れかけてるのかなぁ」
「…んなワケあるか」
「あっ、もしかして、イギリスとアメリカじゃ微妙にやり方が違うとか!」
「……なんか誤魔化そーとしてんじゃねーだろな」
「してませんてー。あ、だったら、修さんか新条さんに訊いたらはっきりするんじゃないですか? ちょっと探してきましょうか!」
「………いいからちょっと、こっち来い」
「あ、ヤダな加賀さん、ちゃんと唇は避けたじゃないですかー」
「いいから来い!」
「えー」
「……、ったく、……」
「………も、…って……」
 遠ざかっていくふたりを見送りながら、今日子はぼんやりと頬に手を当てたまま突っ立っていた。
 そう、ぼんやりしていたから、気付くことができなかったのだ。
 ――今のやりとりを聞いていた男連中が、わくわくした顔で押し寄せてきている、その気配に。

 ハヤトを締め上げることに熱中していた加賀が、己の不注意を悔やんだのはそれから数十分後のことであったという……

 [Result:加賀城太郎、敗北(本末転倒極まりなし)]
 [Lesson:大事なものから目を離すな。]


[2011年12月]