あと二杯


 大して強くもないクセに、と、呆れとからかいの混じった顔でニコルは笑う。 既にだいぶ酔いの回った、蕩けた瞳と赤い頬。
 強くもないのはどっちだ、と思いながら、口には出せずにグラスを空ける。
 ほらまたそんなムリしちゃって。ったく、図体はでかいクセに酒には弱いんだから。
 くすくす笑って背を叩く彼女の手のひらは熱くて、ああこれは大分回ってるな、そろそろ止めさせないと拙い、と考える。
 5人からなる一行の中で、ギリアムとニコルの立ち位置は中堅に当たる。 リーダー格のイシュレアはともかく、若手であるルアリスとレンティーリアはまだ十代で、 呑むにせよ騒ぐにせよいつも気恥ずかしいほど元気がいい。 それはそれで悪くはないが、少し落ち着いて呑みたい時は、自然ギリアムとニコルとで出掛けることが多かった。
 おかげで、積み重ねた経験値はかなりのもの。 どれくらいの量をどれくらいのペースで呑めばニコルが潰れるのか、ギリアムは今やかなりの精度で把握している。
 その高精度なセンサーを以って、上機嫌のニコルにラストオーダーの指示を出した。む、と不満げに寄せられる眉。
 なんでよ。まだそんな時間でもないじゃん。
 ……時刻の問題じゃないだろう。それだけ酔えばもう充分だ。
 全っ然! じゅーぶんなんかじゃないって! ギルってば、自分が弱いからって同じ基準で考えるのよしてよねー!
 別に、酒に弱い訳じゃない。
 うそ、弱いでしょ? いっつもアタシより早く切り上げちゃうじゃん。
 ……それは。
 それは別に、酒に酔っているからじゃないんだ。 ルーと呑むなら、或いはイシュやレティとなら、そんな風にはならないんだ。
 惑わせるのはいつだって、……酔わせるのはいつだって、至近距離で笑うあんたなんだ。
 ……なんてことは、言えない。結局黙って溜め息。
 沈黙は肯定、と解釈したらしいニコルは、なんの悪気もない笑顔でまたギリアムの肩を抱く。
 ほーらやっぱり、弱いんじゃん。もう、ムリしなくていいからさ、酔ったんだったら帰っていいよ。アタシはあと1杯だけ呑んでくから。 ね、マスター、水割りもう1杯!
 ああ、この酔っ払いめ。額に手を当て、項垂れる。数秒の沈思黙考の後、力なく手を上げて、親父、あと2杯だ、と訂正する。
 え? なんで?
 俺も呑む。
 短く言い切ったその横顔に、なんだギルってば、負けず嫌いなんだから、なんて勘違いの納得をしてまた笑う。
 ああ全く、堪らないな。幸せなような不幸せなような溜め息をまた吐き出して、ギリアムは最後のグラスを受け取った。

[2010年4月]