第三者


 花びらのように柔らかな薄桃色を纏って、ニコルはルアリスに向き合った。 ひらりと裾をつまんで、小首を傾げる。
「どう思う?」
「似合わねぇ」
 きっぱりとルアリス。
「だよねー」
 にっこりとニコル。
「あー、残念、裾の形は気に入ってるんだけどなぁ」
「どーせならそっちの、紅いヤツのほーがいいと思う」
「やっぱし? でもこれ、ちょっと袖が短かすぎるんだよね。二の腕全開になっちゃうし。ほら」
「それでもこっちより断然いい。絶対」
 そだね、と頷いて、ニコルは薄いカーテンの陰に引っ込んだ。
 どれにしようかなー、などと呟きながら試着室に持ち込んだ服は3点。 恐らくニコル自身も予測していることだっただろうが、やはり結論はこの服に落ち着いた。
 ニコルには、淡い、可愛らしい色は似合わない。もっと深い、渋みのある色の方が似合うのだ。
「しっかし、お前もわかんねーヤツだよな」
「なにがー?」
 ごそごそいう衣擦れの音に雑じって返ってくるニコルの声。
「フツーこーいう感想は、女同士でやりとりするもんなんじゃねーの?」
「だって、」
 何を想像したのやら、面白がっているような苦笑。
「女の子、って、レティだよ? 参考にならないってば」
「なんで?」
「素直だし過剰に前向きだからさー。何着ても、『素敵ですニコルさん! すっごく似合います!』って言うに決まってるもん」
「アイツ、お前のこと大っ好きだもんな」
「妬いた?」
「誰が!」
 怒鳴った途端、カーテンをめくった隙間から、にやにや笑いが現れた。
「んふふ、怒らない怒らなーい。ま、そんなだしさ。こーいうことにはレティ、駄目だよ」
「それにしたって、いっつもオレじゃねーか……たまにゃギルも呼んでやれよ」
「もっと駄目でしょ」
 くるりと目を回して、肩を竦める。
「だいたい想像ついちゃうもん。何を見せても、『良いと思う』しか言わないよ、絶対」
「それも、言い出すまでに十何秒もタメてな」
「ギルも控えめだからねー」
「…………まーな」
 確かにギリアムは慎重で控えめな性質だが、そこの問題じゃねぇっつの、と、ルアリスは思う。 感想を訊いてくるのがレンティーリアなら、彼なりの審美眼で感想を述べてくれるだろう。
 ニコルだから、駄目なのだ。何を着たって、どんな表情だって、ギリアムには目も眩むほどに映っているのに違いないのだから。
「さて、と、これ買ってきちゃおうかな。ルーは? なんか見ないの?」
「ん、別にない」
「レティになんか買ってってあげればー? ほらっ、そこの髪飾りなんか、似合いそうだしお手頃価格だし〜」
 にやにや笑うニコルに裏拳をかまして、ルアリスは片手を振った。
「さっさと清算していらっしゃいマセ、お嬢さん! ここで待ってて差し上げます!」
「はいはーい」
 おどけた返事を投げて、長身は通路の向こうへ去って行く。
 ……全く、他人のコトはあんだけからかう余裕があるクセに。ギルも厄介な女にハマったよな。 呆れて溜め息が出た。
 ……ってオレも、他人のこた言えねぇか。 更に深い溜め息が出た。
 正直なところ、ルアリスはそれが恋愛感情だとは認めたくないし、考えたくもない。 だが、レンティーリアに「どうです?」と小首を傾げられたら、 審美眼を発揮するどころか心にもないことばかり言い立ててしまうだろうことは分かっている。
「……なんだかんだ言って、オレってば繊細」
 何しろ、彼らの仲間たる女性陣ふたりは、鈍い。対して彼ら男性陣は、自分でも意外なくらいに敏感だし、純情なのだ。
 だからこうなる。第三者同士。ルアリスとニコル、ギリアムとレンティーリア。 何かしようと思ったら、いっつもその組み合わせだ。
 それはそれで気楽だし、楽しめるのだが、……肝心要のところには、全く踏み込めていないように思うのだ。
 レンティーリアに似合いそうな、明るい水色の髪飾りを眺めながら、ルアリスはもう一度、溜め息を吐いた。

[2010年7月]