限りなく0に近い勝率
「……つまり、買うなってコト?」
「そうじゃないですよ、1枚当たりの値段が150サッカ以下なら買った方が得をする可能性が高いです」
「でも現実には1枚300サッカだろ」
「そうですよ」
「だから買うなってコトだろ?」
「違いますってば。買ってもいいんですよ、当たるかも知れないです。損をする可能性の方が高いだけです」
「……だから買うなってコト」
「じゃ、ありませんってば。あんな買い方じゃ損をするに決まってます、って言ってるんです」
なにやら数字の書き散らかされた一枚の紙切れを挟んで、ルアリスとレンティーリアがやりあっている。
いや、やりあっているというよりは、頭を抱えているルアリスにレンティーリアが何ごとかを説いている。
どちらかというと他人からツッコミを入れられることの方が多い少女の意外な姿に、ギリアムはちょっと目を細めた。
「……何をしているんだ、あの二人」
「富くじの勝算について考えてるんだって」
「トミクジ?」
「あー、ギル、知らないか。大都市でしかやらないもんね。えーとね、簡単に言うと、壮大な博打」
「……全然簡単じゃない」
「まあ、レンティーリアが得意そうな分野だってことが分かればいいんじゃない?」
それなら解る、と呟いて、ギリアムもニコルの隣に腰を下ろした。
まだ侃々諤々とやりあっている会話に耳を澄ませば、
要するに「勝てる見込みのほとんどない博打にルアリスが大金を注ぎ込んだというのでレンティーリアがご立腹」ということらしい。
純真そうな見た目に反して酷い守銭奴でもあるこの少女は、お金が絡む話になると途端に目の色が変わってしまうのだ。
「それにしても、あんなにやりこめられてるルーってのは珍しいよね」
「……確かに」
「口も立つし腕も立つし、頭の回りもいいんだけどねぇ。どうにもレティに対してだけは弱いよね」
「って、ソコ!」
きっ、と擬音が聞こえてきそうな勢いで振り向いたルアリスが口を挟む。
「ミョーな誤解すんじゃねぇ! 単に確率計算とやらが苦手なだけだっ!」
「へぇー、ニガテなんだ」
そ知らぬ顔で嘯いていたニコルが、にやりと笑った。
「なるほどねぇ。あー、うん、納得した」
「……なんだよ」
険悪な眼差しになるルアリスに、余裕の笑みで一言。
「そんなだから、恋の勝率が限りなくゼロに近くても、果敢に想い続けていられるワケね、と思ってさ」
ってめぇ!と口走って立ち上がろうとしたルアリスの袖を、向かいのレンティーリアが掴んで止めた。
「ルーさん! まだ話は終わってませんよ! いいですか、今度買うときにはまず……」
「だー! もういい! 確率のハナシなんかクソ喰らえってんだよ畜生!」
耳まで真っ赤になりながら喚き立てるルアリスと、それに全く気付きもしないレンティーリアを見て、
ニコルはまたにやにやと笑い――ギリアムはちょっとだけ気の毒そうに、溜め息を吐いた。
[2010年4月]