横顔


 そもそも、この横顔が悪い。
 睨んでみたところで気付きもしない、こんな女なんだから。
 いつだって明後日の方ばかり見ていて、隣にいるこちらのことなんか、用があるときしか見やしないのだ。
 振り向かないのは分かっているから、今更睨んでみようって気もない。
 代わりに目線の先を追って、彼女が見ているものを見る。

 いつも。
 遠くて、眩しいもの。強くて、輝くもの。
 彼女に似た、彼女に似合う、きらきらと美しいもの。

 それは大概、彼女が愛して止まない強烈な速度の世界だが、時々違うモノを見つめているのを知っている。
 いつも真っ直ぐで、冷たいくらい綺麗な横顔が、その時だけ少女のように澄んで。
 目の縁に淡い憧れを、白い頬に微かな紅色を滲ませて、届かない何かを見ている。

 馬鹿げてる。
 どうせ気付きもしないくせに、他の奴ばかり見ているくせに、それでもこうして彼女をばかり。

 だからやっぱり、この横顔が悪い。
 綺麗過ぎて、見惚れ過ぎて、もう暫くは振り向かなくてもいいかなんて思ってしまう、この横顔が。


[09年7月]