おむすびころりん


1、風見さんちの丸いおむすび

 あすかの作るおむすびは丸い。やる気だけは人一倍だけれどそもそもが不器用な彼女に、きっちり三角形なんて初めっから望むべくもない。 塩気も日によってバラバラで、ムラになったり濃すぎたり、全然味がしなかったり。 中身が入ってなかったり、奇妙な具材が出て来たり。 けれど、形だけはだんだん上手になって、今ではキレイにまあるいおむすびが、風見家の定番だったりする。
 ――『お弁当の日』があるのだという。友だち同士で交換して、手作りのお弁当を食べるのだとか。だから練習したのだとか。 受話器の向こう、電波で繋がれた遠い時差の端で妻が楽しげに話すのを聞き流し、ハヤトはPC画面を見て頬を緩めた。 奇抜な色遣いのヘタクソな弁当の、真ん中に収まったおむすびが、やっぱりまんまるいかたちだったから。
 帰ったら作るっていうから、食べてあげてね。味まで母親譲りなのはちょっと、やだなぁ、なんて、内心で思ったのは勿論、内緒の出来事だ。


2、新条さんちの三角おむすび

“海外っぽいもの”に憧れる時期っての、一度くらいはあるでしょう? 洋楽だとか海外ドラマだとか、輸入コスメや外国のお菓子とか。 巾着に入ったお弁当じゃなくて紙袋に入ったサンドイッチ!って、駄々を捏ねたことも確かにあったと思う。 そもそも、なんだか知らないけど、お弁当のおにぎり比率が高すぎる。中身や形が多少変わったって、結局おにぎりはおにぎりなんだし。 昼になって巾着開けて、「またか!」って口走っちゃうのだって、思春期の身には無理からぬことでしょうよ。
 結局、おにぎりへの謎の執着は、両親の出逢いと初恋にまつわる甘酸っぱい思い出に起因するものだってことを後々知って、…尚更、勘弁してよと思うようになった最近だけど。 あ、やっぱりこの重箱も、この段全部おにぎりなワケね。うん、まあいいけどね、好きだから。 初恋の味がおにぎり味、なんて、様にならないハナシだけど、…本人たちがいいんなら、ま、いいかもね。うん。


3、加賀さんちのコンビニおむすび

 うちのオヤジの話はしつこい。ソレこないだ聞いた、っつっても、そっか?とか言って結局続けるんだからバカだろ。 商売柄外面はいいから、余所ではそんなつまらん真似はしない、らしく、うちでだけだから大目に見てあげて、っておい母さん、俺ら息子だぞ? 立場逆じゃね?
 その母親も今日は不在だ。男三人取り残されれば、夕飯がコンビニ調達になるのは当然、で、選択肢におにぎりがあるのも当然。 となると、お決まりの話がまた始まるのも、当然の流れなワケで。
 これさー、今日子さんがさー。…あー、ほら、やっぱし。兄貴と二人、諦め顔を見合わせる。 海苔巻くのがヘッタクソでさ、まあ今のこのパッケージより多少やりにくいのはあったけど、それにしたって何個開けてもビリビリになるんだもんな、思わず笑っちまってさー。
 で、この後、うまいやり方教えてやって、ちょっと尊敬の目で見られて嬉しかった、ってんだろ。あー、いっそ代わりに語ってやろうか!


[2015年4月]