サービスしてよ
公式なレセプションでは比較的真面目な顔をしている分、チーム内の打ち上げでは思いっ切りはっちゃけたい。そんな風に常々思っている。
呑むのも騒ぐのも大好きだし、そのためなら自分自身でお膳立てするのも全く苦ではない。幹事権限で参加費を多少ピンハネするのも(内緒だけれど)役得だ。そんな訳で最近、加賀プロデュースのAOIの非公式飲み会は、賑やかで華やかなどんちゃん騒ぎになるのだった。
ドライバーを始めスタッフのほとんどは男性だし、且つ、何ごとにも豪華絢爛なのがAOIの気風ということもあって、マスコットギャルたちもこの非公式飲み会には参加したがることが多い。あまり好ましくは思っていないであろう今日子を宥めすかし、若干高めに設定した特別参加費をせしめては、毎回にやにやしている加賀である。
ま、華が多くて困るこたないだろう。時折嬌声の混じるフロアを眺めながら、今日も今日とてそんなことを思っていた。
が。
「やぁん、ミカうれしーっ! サービスしちゃぁう!」
一際高い嬌声が挙がり、目をやると。
着ていたジャケットを脱いでキャミソール姿になった女が目に入って、若干の苦々しさと不安を感じる。
……ちーっと、調子に乗りすぎだよなぁ、今回の女ども。いや、俺は別にいーんだけど。
「……今回はちょっと、やりすぎのようね」
軽い溜め息と共に隣に立つ気配。あ、やっぱしそう思う?と目だけで訊いて、続きは口に出して訊ねた。
「……きょーこサン、怒ってる?」
「呆れてるわ」
目線の先では「サービス」宣言をしたボブカットの女が、こともあろうに新条に腕を絡ませて、自慢の胸をぐいぐい押し付けている。
うっわ、ありゃマズイだろ。幸か不幸か極端に鈍い新条は、何がサービスなんだろうと言わんばかりに首を傾げていた。
「効果の薄いサービスね。相手が望むものを分かった上でなくちゃ、駆け引きにもなりゃしないのに」
呆れてる、というのはそこに対してか? 苦笑して肩を竦める。
「ま、アイツが相手じゃ薄いけど、世間的には充分効果があるんだぜ。そーやって今までも取り入って来たんだろーし」
言わずもがなのことを一応言ってみてから、付け加える。
「あんたもたまにゃやってみたら? あーいうサービスっての」
すっと冷えた視線を流して、今日子は言った。
「それをして私にどんなメリットがあるのかしら?」
「ねぇな、なんも」
悪びれずに言い切って、そのあとにやりと笑った。
「ま、オトコどもの士気は多少上がるかも知れねぇぜ? ――俺も含めて」
「それで勝てるというのなら、確かにメリットなのかも知れないけど」
またちょっと、溜め息。……大丈夫だ、微かにこもってしまった本気の響きには、たぶん気付きもしなかったろう。
「……そもそも、『あーいうサービス』ってどんなコトすればいいものなのかしら?」
はぁ?
生真面目に考え込む顔になった今日子を、眉を寄せて見つめる。
「『世間的には充分効果がある』って言ったわよね、さっき。『世間的』には、どんなことをすればどんな効果が得られるものなの?」
「え……っと……」
そう言われると、説明に困る。目線を彷徨わせて頬を掻く加賀に、今日子は焦れたように唇を尖らせた。
……きょーこサン、見た目よりだいぶ、酔ってんな。
「あんな風に言うからには、詳しいんでしょう、加賀くん。ねぇ、どうすればいいのよ?」
「あー、うーんと……だなぁ」
――手を握るとか腕を絡めるとか、胸を押し付けるとか軽く膝に触れるとか、そーいうボディタッチ系の具体例はパス。初心者の今日子は加減を知らないだろうから、やりすぎて相手をソノ気にさせてしまいかねない。
――ちょっと色っぽい話題を振るとか相手のオトコ的プライドをくすぐるとか、そーいう具体例もこれはこれで高度すぎる。仕事上の駆け引きの手腕は見事だが、この手の話にはとんと疎い女王さまなのだ。
慌しく頭の中を掻き回して、じっと目を覗き込んでくる今日子に意識を向けてしまうのを、避ける。
「……そーだな、まず……露出? かな?」
「ろしゅつ?」
「あの女が上着を脱いだみたいにさ、一枚だけ脱ぐんだよ。肌の露出度が脱ぐ前よりも上がるよーに」
一枚だけ、という言葉を必要以上に強調してそう言った。まあ、この程度なら――対個人ではなく対大多数だし――変に相手をソノ気にさせてしまうこともないだろう。
「肌の露出度……が、上がれば、いいの?」
「じゅーぶんだよ」
「そう。……それくらいなら、試せるかも知れないわね」
ま、いつか実践してみるんだな、俺でよければいつでもお相手――と軽口を叩きかけて、思わず加賀は持っていたグラスを落とした。
ガラスの砕ける澄んだ音に、思わず振り向いた皆が見たものは。
目を見開いて固まったまま、斜め下を見つめている加賀と。
その視線の先で、タイトスカートの裾を乱れさせて、立ったままストッキングを脱ごうとしている今日子と。
そしてその、薄いブラックの生地の下から現れた、白く滑らかな太腿と――
――今日子のサービス、さーびすぅ♪作戦は、男性スタッフにとっての多大なる目の保養と、女王様の貞操の危機と、そして加賀に対する絶大なダメージを残して終了した。
尚、正気に返った加賀が今日子を引きずって去った後、現場に残されたストッキングを巡って、一部で骨肉の争いが行われたという……。
→ま、タイトスカートにストッキングっていいですよね、という結論です。(そこかよ!)
[09年8月]