お手!


「加賀くん」
「はい?」
 むぎゅー。
「っててててて! ど、どーして!? なぜにイキナリ人の頬っぺた引っ張るんですか!?」
「苛々しているの」
「うわ八つ当たり!?」
「……また飼い犬に手を噛まれることになりゃしませんかね、ですって」
「へ?」
「経営陣のオヤジどもが」
「へー」
「貴方の所為」
「えー?」
「前歴がある、って言われ続けるの」
「そりゃ、俺だけのせいじゃ」
 むぎゅー。
「ってててててて痛ぇってば! ああゴメンナサイ俺が全面的に悪かったですぅ!」
「宜しい」
「……オニ」
「ご主人さまと仰い」
「女王サマ」
「ご主人さま」
「わん!」
「ついでに三遍回ってみる?」
「えー」
「なら鳴くな」
「ハイ」
「珍しく素直ね」
「いつもがひねくれてるとでも」
「飼い犬にしてはね」
「飼われてんの?」
「飼われてるつもり?」
「どーかな」
「雇われてるつもり?」
「そーかも」
「飼ってる、ってほどじゃないわよね」
「ちゃんとおいしーエサくれたら飼われてもいーんですけどぉ」
「却下」
「うわまだ何も具体的なコト言ってねーのに!」
「目付きがイヤらしい」
「信用ねーな」
「でもそういうこと考えてたでしょ」
「ハイ」
「そこ認めちゃうのね」
「素直なイイコにご褒美くれる?」
「却下」
「……せめて撫でるだけでも」
「遊んではあげる。可愛がってはあげない」
「うう、所詮雇い犬」
「泣かない。はい、おすわり」
 すとん。
「よしよし。お手」
 ぽふ。
「いい子ね。あご」
 にじにじにじ。ぽふ。
「あら」
「ん?」
「剃り残し」
「お」
「抜いていい?」
「エサくれたら」
「じゃあいいわ」
「えー」
「どっちなのよ」
「抜いてください」
「痛いわよ」
「どーぞいたぶってください」
「泣く?」
「わん!」
「バカね」
「そこがカワイイんでして」
「可愛がってはあげない」
「うう、オニ」
「ご主人さまと仰い」
「ごしゅじんさまー」
「宜しい」
「って、コレ」
「なに?」
「やっぱ飼われてる?」
「飼われたいの?」
「エサください」
「却下」
「……オニ!」

[09年7月]