もう口利かない!


 ――始まりはそりゃあもうごくごく些細な口喧嘩だったのだけれど。

 初日
「……貴方とは当分口を利きたくないわね」
「…………言ってろ!」

 2日目
「……(彼を見て冷笑する)」
「…………(そんな彼女を睨め付ける)」

 3日目
「……(目が合うなりそっぽを向く)」
「…………(その後ろ姿に向かって舌を突き出す)」

 4日目
「……(顔を見るなり追いやる仕草)」
「…………(全力であかんべ)」

「……ね、何やってんのあのひとたち」
「あのひとたち?」
「や、だから。あそこ」
「あー、加賀さんたち」
「喧嘩中なんだって」
「当分、口も利きたくないんだそーですよ」
「……小学生?」

 5日目
「……(用もないのに何しに来たの?と言わんばかりの視線)」
「…………(許してやっからいい加減折れろよ、と目顔で言いつつ仏頂面)」
「……(おあいにくさまだわね、と冷笑)」
「…………(調子に乗んなこのアマ、と詰め寄る)」
「……(あら、私は冷静だけど?と傲然)」
「…………(引っ叩くぞ畜生)」
「……(噛み付き返してやるわよ)」
「…………(冗談抜かせ)」
「……(冗談に見えて?)」
「…………(てめぇいい加減に)」
「……(こっちの台詞だわ)」
「…………(可愛げのねぇ!)」
「……(器の小さいこと!)」
「…………(犯るぞコラ!)」
「……(やれるもんならやってみなさいよ!)」

「……あ、とうとう中指突っ立てたぞ」
「やれるもんならやってみろ、って返しちゃってないか? あれ」
「うわぁたいへん、きょーこさんが犯られちゃうー」
「……アンタ全然大変だと思ってないでしょ」
「ん、思ってない」
「だって、あれって」
「あ」
「……そうか」
「もしかして、わざと?」

 ――なんて、ひそひそざわめく周囲を余所に。

 彼は本気で彼女を犯しそうな勢いで、けれど楽しげにきらきらする目で、噛み付くようなキスをして。

 彼女は彼女で、呆れた人だわ貴方って、と、目だけで笑ってやったのだった。

[09年11月/2010年6月再録]