ぎんのゆび(―― She has a ... thumb.)
「やっぱ、ダメかなぁ」
苦さの交じった声に顔をあげたら、窓際のみきが如雨露片手に溜め息を吐いた。
「なに?」
「ミント。やっぱ、枯れちゃったかなって」
水を与えられたばかりの鉢植えは、しかし干からびた茶色い色をしていた。先日までは辛うじて残っていた緑色の、最後の数枚の葉は落ちてしまったらしい。いや、枯れたのか。
「手に余るほど強いよ、って言われて買ったのになぁ……」
如雨露を置いたみきの指先が、かさついた茶色を撫でている。かさこそ、乾いた音がする。
「冬が近いからじゃないのか」
「えー? こんなにぱっさぱさになっちゃってんのに?」
「昔、実家に置いてた奴、冬はいつもこんなだったぞ。春になるとまた出てくるんだ」
「ちょっと信じらんないなぁ」
言いながらも鉢を窓際から動かさない辺り、一応温存することに決めたのだろう。見切りを付けたのならいつまでも不用品を置いておくようなみきではない。
「シクラメンとか、ポインセチアとか置いてみるか。冬の間はちょうどいいだろ」
「また枯らしそうでヤなんだよねぇ、」
才能ないのかなぁ、とぼやいているみきの指先を見ていたら、ぽつりと言葉が落ちてきた。
「a green thumb」
「え?」
「みどりのゆびをもっている、って言うんだ。草花を育てる才能がある人のこと」
「緑の指…」
まじまじと自分の指先を眺めて、それからみきは表情を緩めた。
「じゃ、あたしには無いや、それ。緑っていうより茶色か黒かってところだし」
「銀色だろ」
「…銀?」
「マシンを育てるのが上手いから」
「…………」
ふいと絡めた指先の、温度が少し上がった気がする。
「魔法使いの指、だもんな」
「…なんかそれ、すごい恥ずかしいよ」
「外では言わないよ」
でも此処でなら、言ったっていいだろ。おれの自慢の、魔法使い。
唇で魔法の指先に触れたら、銀色がさあっと桜色に染まった。
[2014年10月]