空が青いなぁ。


『だって、ねえ、考えてもみて。恋に落ちるのに理由なんて要る?』


 付き合い始めて五ヶ月が過ぎても、保は時々訝しげな顔で訊く。
「本当に俺で良かったわけ?」
「一体どうして俺だったのさ?」
「心配性。だって、恋に落ちるのに理由なんて要る?」
 私はわざとらしく誇らしげな顔して言ってやる。これで私の勝ち。保は不満そうな顔して黙り込んでしまう。
 いい加減懲りても良さそうなくらい、繰り返されたやりとりだ。

 でも本当は、まだひとつだけ隠している。
 口に出したら減ってしまいそうで、なんだか勿体無くて言えない、保のこと大好きな理由。

 中間テスト中の昼休みだった。座席移動と最後の足掻きとカンニングの準備で皆忙しかった。カロリーメイトを流し込んだ後、くずかごに向かって思いっきり放り投げた缶コーヒーの空き缶が、見事に保の頭にヒットした。
(このクソ忙しい時に、漫画みたいに間抜けなぶつかり方しなくたっていいでしょ!?)
 理不尽な怒りにかられて私は怒鳴った。
「保! 何ぼーっとしてんの! 窓の外に何かあるわけ?」
「いや、無いけど」
「けど何?」
 律儀に空き缶を拾い上げ、しっかりくずかごにシュートを決めて、保は笑った。
「空」
「え?」
 窓の外にあるのは、ただ晴れ渡った空。
「凄い青さだろ?」

(あ。やられた)

 当たり前のことを当たり前の顔して言って笑っている保に、私はすっかり参ってしまったのだ……。


「一体どうして俺だったのさ?」
 何回訊かれても、本当のことは教えない。
「言ってるでしょ。恋に落ちるのに理由なんて要る?」
 何回訊かれても、同じ台詞ではぐらかす。
(しかし、いい加減気付いても良さそうなもんだわ。あんたが空を見て笑う度に、私がどんな顔してるか知らないの?)

「降ったねぇ、昨日は」
「梅雨にはまだまだ早いけどね」
「今日は一日晴れかな」
「さあね。知らない」
 開いた窓から緑の匂い。光の粒を撒き散らして、今年も五月がやって来る。

[09年7月]