たばこのみ(Two smokers having something to do with her.)
抜き取った煙草を咥えたら、顔を顰めた彼女と目が合った。
意地っ張りで生意気なお嬢様だが、こんな時は実に素直に、実に嫌そうな顔をする。
心の中だけで苦笑して、咥えた煙草を口から離した。
「失礼。吸っても?」
「……結構ですわ」
結構ですわ、という表情には見えませんけどね。これも口には出さずに呟く。
けれど、不満そうに顔を顰めても彼女は綺麗だ。寧ろ、きゅっと寄せられた眉根は色っぽくて、よからぬ想像をしてしまいそうになる。
「ああ、そんなに嫌がらないで下さい。……喫煙者はお嫌いですか」
「そうですわね。煙草は嫌いですし、」
挑戦的な眼差しを真っ直ぐに向けて、続ける。
「煙草をお吸いになる方のことも、なかなか好きにはなれませんわ」
「ははっ、これは手厳しい。僕のことを好きになっては頂けない、ということですね」
「別に! 貴方のことをどうこう申し上げている訳ではありませんっ」
斬りつけるようだった視線をすっと流して、彼女は顔を背けた。それでも、一瞬高く跳ね上がってしまった声の印象は消せない。
好くとか、好かれるとか。そんな話には不慣れなのだ。こんなにも強かそうに、見えるのに。
動揺を隠すようにゆっくりと、彼女は更に言い募る。
「私は、ただ、……煙草をお吸いになる方は苦手です、と申し上げているだけですわ」
「おや、そうですか? 今の貴女にとって最も身近な男性も、確か喫煙者だったと思いますが」
些か親し過ぎるくらいに見える、AOIの日本人ドライバー。手懐けられない獣のような。
いつだって挑むように睨めつけてくる眼差しを思い出しながらそう言うと、彼女は不思議そうに首を傾げた。
「確かに、父も煙草は吸いますけれど、……物心ついた時から身近にいますもの、比較の対象になりませんでしょう」
「……ああ、そうですね」
呆れた。「最も身近な男性」というのが誰なのか、彼女にはとんと解っていないらしい。
咥え直した煙草に火を点け、溜め息を隠して呟く。
「ということは、喫煙者でも別に、貴女と家庭生活を営む分には不都合は無い訳ですね。
つまり貴女の、配偶者にだってなれるということだ」
「……煙草を吸う吸わない以前の問題ですわ。
そんなことより先に、気付かなければいけないことが幾つもあるんじゃなくて?」
それは多分、貴女もですよ。ねぇ、綺麗で残酷な女王様。
恋敵のはずの彼を少し哀れに思いつつ、名雲は苦い煙を吸い込んだ。
[2010年5月]