イイ男、だよね(――He's so hot, isn't he?)
「で? 今日子さん、どーかしたの?」
「どっ……、どうかしたの、って?」
「……珍しいなーと思ったんだよね。ふたりだけで呑まないかなんて言っちゃって」
「……そ……、そんなに、珍しいかしら」
「うん。誕生日祝いだなんて口実でしょ。プレゼントだったらもう貰っちゃってるんだしさ」
「う…………」
「だから、てっきり何か相談事だと思ったんだけど、違う? なんか話があるんじゃないの?」
「は……話っていうか」
「うん」
「あの、……は、はしたない女だって思わないで欲しいのだけど、」
「ハシタナイ?」
「そのっ……経口避妊薬を、処方して貰おうと思ってるの、それでね、みきさんなら色々、知ってるんじゃないかと思って……っ」
「……え」
「あ、あの、違ったらごめんなさい、でもきっとみきさんは今後のキャリアのこと考えてもちゃんと避妊してるだろうし、
不特定のパートナーがいるってこともないだろうし、勿論新条くんだってそうだろうから、
たぶん使ってるなら避妊具じゃなくて薬だろうって思っただけで、あの、その、別に何か根拠があるとか色々調べたとかいう訳じゃ……」
「っと待って、落ち着いてよ今日子さん、」
「……ごっ、ごめんなさい、」
「別に、はしたないとも恥ずかしいとも思わないから、そんな焦んないでよ。らしくないよ」
「あ……、ええ、ありがとう……」
「えーと。つまり、避妊について、考えてるんだ?」
「……(こくん)」
「恋人が、できたんだよね?」
「…………(こくん)」
「加賀、乱暴なマネしなかった?」
「なっ……!」
「あは、ごめんごめん。やっぱ加賀なんだ」
「………………(こくん)」
「そっかそっかー、そうだったかー。うん、おめでと、今日子さん」
「……ありがとう」
「いつから?」
「7月の……半ばくらいから」
「っていうと……香港で?」
「呑んでたら、偶然会ったの、それで……」
「あー、なるほど。酔った勢いでくっついちゃったんだ」
「そっ、そんなんじゃ! ……ない、わよ……たぶん……」
「いいじゃん、キッカケなんかどーだってさ。で? それから、何回くらい?」
「うぅ……さ、3回だけ……」
「じゃ、月イチくらいってコトか。けっこーマメに来てんだ、加賀」
「……先月は北米自動車ショーがあって、私が向こうに行ったんだけど、」
「そーいやそうだったっけ。加賀んとこ泊まったの?」
「いえ、経費でホテル取ってるから、」
「あ、そっか。じゃー加賀が今日子さんとこに来たんだね。……ちょっと気兼ねしなかった?」
「きがね?」
「だって、……そーゆーホテルじゃないじゃん、今日子さんが泊まるのって。声とかさ、けっこー響くから」
「こえ……って……」
「あ、赤くなった」
「そっ……そんな無茶なこと、させないわよ。周りに気を遣うくらいの神経は、私だって持ち合わせてるわ」
「今日子さんはそうだろうけどさ。加賀はまあ、アレじゃん?」
「……うぅ、否定できない……」
「ま、多少ずうずうしいとこも含めて、加賀は加賀だからねー。
それでも、ここまでけっこー我慢してきただろうから、実際のトコなっかなか辛抱きかないんじゃないかと思ってさ」
「……我慢?」
「うん。だからちょっと、心配になっちゃったんだ。まさかとは思うんだけどさ、
乱暴なコトとか、気乗りしないのに強引にとか、されてない?」
「……されて、ないわ」
「そう? なら、いいけど」
「加賀くんは、……ちゃんと、してくれてるもの。痛くないかとか、苦しくないかとか、毎回ちゃんと気にかけてくれてるし、」
「うん」
「私が本当にいやがるようなことは、ぜったいしないって、わかってるから」
「……そっか。……大事にしてくれてんだね、加賀は」
「……ええ」
「よかった。ソレ聞いて安心した」
「ありがとう。だからね、私も、……出来る限り、応えてあげたいと、思って」
「え?」
「加賀くんがいつも、気にかけてくれてるから……私も、出来ることは全部、してあげたいし。
したいこともぜんぶ、させてあげたいし。その、……夜のことも、色々」
「いろいろ、って、……たとえば?」
「あ、あの……なかなか、頻繁に会えるっていうわけでもないから、」
「うん」
「なんていうか、その、……危険日だから駄目、とか、安全日だからしたい、とか、
そんな風には言いたく、ないの」
「はー……なるほど」
「でもそれ以上に、加賀くんを困らせたり、悩ませたりするようなことになったら、いけないから……
いちばん確実なのは、薬を処方してもらうことじゃないかと、思って」
「そっか。……えっと、今までピル使ったことは、ないんだよね?」
「ええ」
「生理をずらすのにも使ったことない?」
「ない……わ。そんな風にも、使えるの?」
「うん。……あー、そう、今日子さんの期待通り、あたしはピル使ってるんだけどさ。けっこー長いこと」
「ずっと?」
「うん、ずっと。……あたしもともと、生理不順が酷くてさ、CFの移動スケジュールとイキナリかち合ったりすんのがしんどくて、
それで処方してもらうようになったんだよね。だから実は、ナオキはあんまり、関係ない。事情は話してあるけどね」
「あ……そうなの……」
「ま、周期が整うとか生理痛が軽くなるとかいうのは副効用ってヤツで、本来の目的とはやっぱり違うんだけどさ。
でもずいぶん、楽になった。予定立てるのがね」
「……なにかデメリットって、あった?」
「薬の受け取りがちょっと手間かなっていう以外には、不都合感じたことはないなぁ、あたしは」
「処方してもらうのって、時間かかるのかしら」
「大したコトないよ。あたしがかかってるとこ、紹介しようか? さばさばした女の先生でさ、仕事早いし、カンジいい人だよ」
「助かるわ」
「加賀は知ってる? この話」
「まだ、言ってないけど……次に会ったら、話すわ」
「今までは、どうしてたの? ゴム?」
「……大体は」
「だいたい?」
「は、初めてのときはちょっと、たまたま持ち合わせがなくて……っ」
「あー……ごめん、答えにくいこと訊いちゃった?」
「いえ! いいんだけど、その、……ごめんなさい」
「ん、ごめんね。……それにしても、意外」
「え?」
「だってさ、そーゆーこと厳しそうなんだもん。今日子さんも加賀もさ。
手持ちがなかったら諦めるとかなんとか、しそうなもんなのに」
「…………」
「それだけ、ギリギリだったってことなのかな。……ホントはずっと、したかったんだ?」
「……な、なんかもう、自分でもよく、わからないんだけど……」
「加賀はたぶん、そうだったんだろうね。――たぶんね」
「そう……ね、たぶん……」
「ん?」
「……どきどき、したの」
「うん」
「余裕のない加賀くんなんて、滅多に見ないから。……すごく、緊張した」
「うんうん」
「……でも、ちゃんと、訊いてくれたのよ。このままでいいのかって、もう、すごく辛そうなのに、ちゃんと」
「うんうんうん」
「けど私が、そ、その、あ、安全日だったし、あの、なんていうかもう、我慢できなくって、よくわからなくなっちゃって、それで、」
「うんうんうんうん」
「そっ、……それで……」
「それで?」
「………………」
「……ふふー♪」
「な、なんで笑うのよ、」
「今日子さんてば、カワイイ」
「……っ」
「きもちよかったんでしょ?」
「…………」
「っていうか、うれしかったでしょ。すごく」
「……なんで、」
「うん。あたしもそうだったから」
「…………」
「拒まなくちゃいけないなんてのは理性の部分じゃん? そういうの、ふっ飛んじゃうよね」
「ふっとんじゃう……?」
「だって、わかるんだもん。あたしをほしがってるってコトも、……あたしが、ほしがってるってコトも。
理性とか理屈とか抜きにして、イキナリぜんぶ、わかっちゃうからさ」
「……ええ……そうね」
「お互いのしたいことがぴったり重なっててさ、しかもそれを、していいって言ってもらえたら
――そりゃ、きもちいいよ。細胞ぜんぶ、うれしすぎて燃え尽きちゃうかと思った。……泣きそうなくらい、うれしかった」
「……わかる、わ……」
「だからもしピル飲んでなくても、断れなくなっちゃってたと思うよ、あたし。
今日子さんもたぶん、そうだったんじゃない?」
「……『そう』って?」
「もし危険日だったとしても、加賀には、ダメ、って言えなかったんじゃないかな、ってコト」
「……け、けど、」
「うん、わかるよ。……今日子さんが断らなくても、もしそうなら加賀は態度で気付くだろうし、そしたらソコで止めてるよね」
「……ええ、きっと」
「そういう我慢を、させたくないってコト、だよね?」
「ええ」
「いいね。幸せもんだよ、加賀。……今日子さんがアイツを好きになってくれて、うれしい」
「……で、でも私、」
「ん?」
「……ほんとは、ずっと、恥ずかしくって、……死にそうで……」
「……なんで?」
「だって! ……か、加賀くんなのよ?」
「うん」
「ずっと、友達だったのよ。みっともないとこもたくさん見せたし、……私が、誰と付き合って、なんで別れたのかも知ってるし、」
「うんうん」
「私だって、加賀くんがどんな女の子と、どんな風に付き合ってきたか、知ってるんだし、ていうか、周りのみんなが、
……みんなが、わ、私たちのこと知ってるのに、どうしようって、今度からどんな顔すればいいのかって、」
「うんうんうん」
「……どうしよう、みきさん、私、まだ分からないの、毎日、どきどきしてるの、だって、みんなに知られちゃったら!」
「今更じゃない?」
「え?」
「いや、だから。今更じゃない? 多分みんな、とっくに知ってるよ」
「……それ、本当?」
「うん。本当。ずーっと前から、正直バレバレだったもん、加賀の気持ち」
「そ……そうなの……」
「それにしたって、本当にくっつくとは思ってなかった人が大半だろうけどね」
「……何してるのかしらね、私。何もあんな厄介な人を、選ばなくったってよかったのに……」
「ぷ、」
「ま、また笑うの?」
「あは、ごめんごめん」
「もう、みきさんたら、」
「だってさ、なんだかんだ言って今日子さん、ホントは加賀にベタ惚れでしょー?」
「…………」
「……イイ男だよね、加賀は」
「……そう、ね」
「それにすごく、いいヤツだしさ。……ずっと、大事にしてやってね」
「ええ。……でも、みきさん、」
「え?」
「私、新条くんもすごく、いい男だと思うわ」
「……」
「もちろんとっても、いい子だし。……大事にしないと、承知しないわよ?」
「…………」
「ね、わかった?」
「……もー、今日子さんてば……ホンっト負けず嫌いだよね……」
「あら、お互いさまでしょう? ……それにしても、」
「え?」
「こんな会話、とても他人には聞かせられないわね」
「そうだね。でも、」
「?」
「加賀にはこっそり、聞かせてやっちゃおうかな〜」
「なっ……」
「ね、どんな反応するか、賭けない?」
「……もう! 加賀くんじゃあるまいし!」
「冗談だってば、冗談。……じゃ、ここだけの話ってコトで」
「ええ。内緒にしてね」
「……でも、」
「え?」
「また、いつでも聴くからさ。……あたしのも時々、聴いてくれる?」
「……ええ、勿論よ。喜んで聴くわ」
「……へへ、」
「ふふっ」
[2010年11月]