付き合ってるっていうのはさ
それは全国規模の模試を受け終えた、土曜日の昼下がり。美雪ちゃんを含む仲良し女子高生軍団は、おやつとお喋りを一辺に楽しもうと学生向けカフェの扉を潜る。
というのもね、メンバーのひとり由果ちゃんが、何か話したそうにもじもじしているから、さぁ白状させよう!ってコトに今日のお昼に決まったんです。
で?と詰め寄られて、ぽっと頬を染めて由果ちゃん、
「……高石くんから、付き合おうってメールが来て……」
マジでー!? 一気にテンション急上昇の女子たち。で?で?と問い詰められて、おろおろおどおどしながら由果ちゃん、
「でっ、でも、あたし今まで付き合ったことなんてないし、高石くんもそう言ってたから、なんか……どんな顔して一緒にいればいいか分かんなくて……」
だからなんか、せっかく付き合いだしたのにぎくしゃくしてしまっているのだと、半泣き。うーん、としたり顔で頷いてみせる周囲の女子たち。
「つまり、『付き合う』ってのがどんな感じなのかよく分かんないんだ?」
亜由美ちゃんの確認に、こくこくと頷く由果ちゃん。
「やーん何かイイじゃん初々しくて!」
「うんうん、じゃあまずはやっぱり王道からでしょ」
「うん、一緒に登下校! コレだね!」
「一緒に、って……」
でも高石くんちって反対方向だし……と呟く由果ちゃんに、何言ってんの遠回りさせてでも付き合わせなさい!とご意見びしびし。
「初めは緊張するだろうけど、そのうち手とか繋ぐようになっちゃうんだから!」
「一緒に寄り道してさ、スタバとかマックとかアイス屋とかでどーでもいいようなお喋りをして帰るんだよ」
「休日はなんてったってデート! 一緒に出掛ければ、どこ行ったって楽しい!」
「そんな大袈裟でなくてもいいから、映画とか買い物とか、ライブとかね」
「もっと馴染んで来たら、おうちデートもいいんじゃん? どっちかの部屋でおやつ食べて、DVDなんか観て、一緒にゲームしたりして」
「まったりだしらぶらぶだし♪ ちょっとえっちでもあるしー」
そこで、やっだぁー!と嬌声。あはは、と笑いながら、何かちょーっと引っ掛かるのよねぇ何でだろう、なんてぼんやりしてる美雪ちゃん。
「偶にはお弁当作って来てみるとかー?」
「で、一緒に食べるんだぁ」
「周りに冷やかされながらね」
冷やかされるなんてヤダ、とおろおろの由果ちゃんに、女子総ツッコミ。
「何言ってんの! それが『公認』ってコトでしょー?」
「そうそう、思う存分見せびらかせばいいって!」
「そしたら冬休み頃にはすっかり公認カップルだし」
「なら、一緒に旅行なんかも行けるんじゃん?」
「親には女の子と行くって嘘ついてさ」
「友達に、ニセの電話でアリバイ作ってもらったりしてさ」
「で、実のところは二人っきりで……♪」
きゃー! えっちー! とまたもや嬌声。
「冬休みって言えばイベントも目白押しじゃーん?」
「クリスマスでしょ、年始は一緒に初詣でしょ、バレンタインもすぐあるし」
「てか、高石くんて天秤座じゃない? 秋には誕生日だよ、プレゼントあげなきゃ!」
「イキナリ手編みのマフラーなんかあげちゃったりしてー?」
「寧ろ、プレゼントに由果が欲しいと思ってるかもよ!」
いやーんどっきどきー! 盛り上がる女子たち。うきうきした調子に合わせながら、やっぱり何か引っ掛かるものを感じている美雪ちゃん。
どうしてだろう、なんなんだろう……ともすれば遠く漂って行ってしまう意識を、ポケットの中の振動が引き戻した。
「あ、ごめん電話……」
「……あ」
美雪が電話を取ったのと、亜由美ちゃんらがガラスの向こうを見て目をぱちくりしたのとは殆ど同時。
[……何やってんだよ美雪ィ]
「はじめちゃん……!」
電話から聞こえるちょっと不機嫌な声は、間違いなくガラス越しの彼から発せられているもので。
[映画観てこうって誘ったのオマエだろ? どこ捜してもいねぇと思ったらとっくに下校してやがるし、何だよ呑気にコーヒーなんざ……]
そうだった。由果ちゃんの赤面に流されて、すっかりそれを忘れていたのだ。美雪ちゃんが遅刻するとかすっぽかすなんてことは滅多にないことだから、彼の方も不機嫌半分、物珍しさ半分なのか、ぶーたれた顔をしていても、声の表情は険悪ではない。
「やっ……ご、ごめん! すぐ行くから!」
[いーよ、次の回6時半だし。いまさら焦る必要ねーし]
「いーから! 待ってて、すぐ出る!」
どたばたと立ち上がり、ばたばたと鞄を抱えて、女子たちにゴメンと頭を下げる。
「騒がせてごめんね! また来週! あ、由果ちゃん、ガンバッテね!」
ばいばーい、と手を振る友人たちも殆ど見えていない様子で、外へ走っていく彼女。
無造作に括った長髪の隣に、ひょこんと収まった後ろ姿は嬉しそうで。ガラス越しに眺めて、女子たちは嘆息する。
「……つまり、あーいうのを『付き合ってる』って言うんだと思うんだけどねぇ」
一緒に登下校だし、手作りのお弁当だし。気合いの入ったプレゼント、どこに行くにも二人一緒。代表して呟いた亜由美ちゃんに、うんうんと頷くその他多数。
「……まだ認めてないの? あの子ら……」
「うーん。てコトは村上くんにもまだ一応可能性はあるのかしら……」
「いや、ナイでしょ。あんなに嬉しげだし」
「うん。嬉しげだよね。ものすごく」
「何でだろーね。村上くんのがイイじゃん断然」
「そおー? 地味すぎじゃん村上くんって。アタシけっこーイイと思ってるけどな金田一くん」
「えー! マジ? そんなこと思ってたの?」
「ありえなーい!」
なんて会話が、繰り広げられてるとは知る由もなく。
擦れ違う他校の女生徒にいちいち振り返る彼の手を引いて、美雪ちゃんは今日もぷんすかと、思う存分嬉しげに、客観的に見たらしっかりデートな休日を過ごすのでした。
[09年7月]