てぶくろをかいに


「えっ、」
 聞き返したのは、別によく聞こえなかったからじゃないのだ。頼みごとの内容が、いくらか意外だったから。
「いや、だから、」
 二度も口に出すのは尚更恥ずかしいらしく、むぐっと一旦何かを呑み込むみたいにして言い直す。
「買い物に、付き合ってほしいんだけど、……駄目かな」
「構わないけど、」
 首を傾げて、目の前で困った顔をしている、よそのチームのエースドライバーをまじまじと見る。赤い頬、落ち着かない視線、懸命に抑えた、けれど幾分上擦った声音。 ははぁ、これは、つまり。
「……みきさんね?」
 ぐぅ、とよく判らない声を溢して、新条が頷く。 そうだろう、鈍感と罵られるくらいに普段は揺るぎないマイペースの、整った顔がこんな風になるのは、あすかの大事な友人の、城之内みきに関する話の時だけだ。
「……クリスマスだから、」
「そうね」
「手袋を、買いたくて。いつも、すごい冷たい手してるから、そういうのがいいかなと」
「てぶくろかぁ」
 なるほど。あまり女性の好みに敏感なようではないし、身につけるものを贈るとなると、誰かしらアドバイスをくれる人にいて欲しいのだろう。
「いいわ、わかった。今週末なら空いてるわよ」
 ぱっと新条の顔が明るくなる。ほっとした!とでっかく書かれているような表情だ。なんだかかっわいー、なんて思ってくすくす笑う。
「じゃあ、また近付いたら連絡取り合いましょ」
「すまない、正直助かる!」
 ぱん!と拝むように手を合わせて、それから慌ただしく去って行く。遠ざかる背中が嬉しそうだ。
「忙しそうだね、新条さん」
「半分は照れ隠しだと思うわー」
 年下の恋人の呟きに返して、それからふと向き直る。
「ハヤト、怒ってない?」
「なんで?」
「だって、お買い物デートよ。可愛い恋人が、別の男の人と」
「まさか!」
 ぷくく、と笑うハヤトの顔は、強がりでも鈍感でもない。
「新条さんだろ? 『デート』なんて雰囲気、なるはずないよ」
「なによその信頼」
「だってさ、」
 言いながら、あすかの手を取る。さらりと馴染んだ仕草で手を繋いで、ハヤトは笑う。
「新条さんさ、知ってるんだ。みきさんの手が冷たいってこと」
「あ。気付いた?」
 頷くハヤトに笑い返してみせる。
「みきさんたちがこんな風にしてるなんて、信じられない」
「いつの間にそんな親しくなったんだろうなぁ」
「よかったわね」
「だね」
 特別な人の、特別な体温。彼らのそれがどう混じり合うのかを考えながら、あすかは絡ませた指をぎゅっと握った。

[2013年12月]