受取拒否


「……喜ぶべきか、憂うべきか」
「"This is the question."ってか?」
「人生賭ける程のつもりはないけどね」
 答えた語尾に、溜め息が混じった。
 うちのドライバーは、素晴らしくいい男だ。だから、多くに愛される。それは当然。織り込み済み。
 けれど偶に、もっと言えば年に数回、過剰な愛が物理的な負担になって押し寄せることがある訳で。
 その好例が今、目の前に山積みになっている段ボールの山なのだ。
「……どうするの、これ」
「んー? テキトーに配る」
「適当にって、」
「別にいーだろ、向こうにバレるワケでもねーんだし。渡せたってだけで満足してるはずだし?」
「………、」
 呆れて、思わずもうひとつ溜め息。
 うちのドライバーは、本当にいい男だ。だって、周りを大切にする。それが当然。いつも通り。
 けれど偶に、困ったことに徹底的に、あっさり関係を切り捨ててしまうこともあったりして。
「つーか、顔も覚えてねえ相手に気ぃ遣ってやる必要自体ねーんじゃねーの? 間違ってっか?」
「……ファンが多いのは喜ばしいことなんだけど」
「うん。喜んどけば?」
「貴方のそういう態度を目の当たりにすることになるの、私は正直、厭なのよね」
「なんで?」
「誰からも愛されるブリード加賀、で居てほしいじゃない」
「なんで?」
「………」
 しつこい。苛立ちをこめてぐいっと眉を吊り上げると、茶化すように視線の先の瞳が微笑んだ。
「だからー、なんで、『誰からも愛されるブリード加賀』でいてほしいんデスカって訊いてんですよ、きょーこサン?」
 チェシャ猫の目はきっとこんな風だ。きらきら、にやにや、ぞくりと背中を震わせる。
 アリスよりは遥かに可愛げのないだろう視線を突き刺してやっても、軽薄な笑みは揺らがない。
「……商品価値を落としたくないの」
「へーえ。『商品価値』?」
「ええ」
「俺は、」
 左手で頬杖をついたまま、右手がすい、とこちらを指す。不敵な視線。弧を描く唇。
「『商品』なんかに収まってるつもりはナイんですけど?」
「……知ってるわ」
「じゃあ言ってくれよ」
「何を、」
 誰に。引き結んだ唇を、伸ばされた指先が掠める。不遜な態度。低く響く声。
「『ブリード加賀には心に決めた女性がいるので、バレンタインデーの贈り物はスベテ辞退します、』」
「そんなの」
 自分で言いなさいよ、と吐き捨てかけた唇をきゅっと、封じられて。
「『――但し、ご自分が私以上だとお思いなら、直接挑んで下さっても結構です』」
 至近距離に瞳。チェシャ猫。アリスは、穴の底。
「莫迦なこと、」
 言いかけたところを今度は唇で塞がれて、室内からは声が消えた。

[2013年2月]