帰りたくないの


「あのね、加賀くん。……私、今夜は、帰りたくないの……」
「今日子さん……」
「――ってゆーかここで帰っちゃったらアウトだって気がするのものすごくするの! 提出期限明日の12時なのよ今やらなかったら絶対寝ちゃうの間に合わないのよ!」
「…つまり徹夜で仕事するから手伝えって言ってんだな? そうだな?」
「ぴんぽーん正解ー! はい、じゃあまず名簿のチェックするから、コレの読み合せよろしく」
「ちっくしょう……せめて録音しとくんだった……!」
「? 何か言った?」
「いーえなんにも!」


「帰りたくないんだ、今夜は」
「加賀くん……」
「今日子さん……俺……」
「我侭言ってんじゃないわよ帰りなさい! 取材のひとつやふたつで何言ってんの!?」
「やだよやだやだあそこの取材キライなんだよぉ! 怖ぇんだよ早川女史のインタビュー! しかもこの特別企画『自宅公開』ってなんだよ聞いてねぇし!」
「言っとくけど二ヶ月前に書面にサインしたの貴方よ?」
「ぐああああ全く記憶にねぇぇぇぇ!」
「だからちゃんと読んでからにしなさいってあれほど」
「あーゴメンナサイ! 反省してる! 次からちゃんと読む、テキトーなコトも言わない、だから頼む、泊めて、匿ってくれよぉぉぉ!」
「契約金ゼロで来季も走ってくれる?」
「ぐうう……鬼……!」


「もーよせって今日子さん、それ以上飲むと帰れねーぞ」
「別にいいわ、帰らないから」
「は?」
「泊めてよ」
「…よく聞こえませんでしたが」
「加賀くんとこに泊めてよ」
「……お断りします」
「なによケチ! 床と毛布くらい貸してくれてもいいじゃない、減るもんじゃないんだし!」
「……いや、ケチとかそーゆー問題じゃなくて」
「じゃあどーゆー問題なのよ」
「お互いの名誉と純潔のためでしょーが」
「は? 何それ。私が酔いつぶれたら貴方の名誉に関わるの?」
「……分かんねー人だなアンタ……」
「もう、なんなの! 新条くんや風見くんなら泊めてあげる癖に、なんで私は駄目なのよ!」
「あいつらと自分を同列にすんな」
「うわーん! バカバカバカ、何よ私だけドライバーじゃないからって、バカにしてー!」
「いや、だから……俺も泣いてもいいですか……」


[2013年5月]