冬七題


1、ラーメン
 ラーメンが食べたい、キムチラーメン、なんて突然言うからぎょっとした。え、待って、今日子さんそういうキャラだったっけ。 いつも通りの早足でずんずん進む裏通り、バッグの底から髪ゴムが出て来て、用意のよさにまた驚く。 誰の影響? 食券ボタン押しながら訊いたら、ご自由に、って微笑まれた。


2、晴れ着
「んー、着物なぁ」「気に入らない?」「いや? 似合うし、そそられるんだけど」「……」「けど、ある意味鉄壁の邪魔者だよなーと。思って」「どういう意味よ」 「脱がせちまったら戻せないだろ」「見くびらないでよ、これっくらい自分で着られます!」「え、誘ってる?」「ちょ、どこ触ってるの!」


3、寒昴
 突き刺さるみたいな月明かりだ。皓々と冴える下弦の月。吐く息の白ささえ銀色の、真夜中、静寂、満天の星。身を寄せ合った寒昴。カシオペイアの五つ星。じぐざぐ探って、北極星。 揺るぎないはずのポラリスが消えて、これから、何処に行けばいい? 気配を感じて振り向いた、隣にはもう、誰もいない。


4、粉雪
 伸ばされた手は迷いなく今日子に向かった。氷点下の気温に手袋もない、剥き出しの感触、指先の体温。 小さな子どもを慈しむみたいに、泣いている誰かを慰めようとするみたいに、やけに生真面目な顔で頭を撫でてくる。 雪積もってんぞ、と彼が呟いてやっと、待ち合わせ時刻を過ぎていることに気が付いた。


5、指先
 寒がりなのは知ってたけど、冷え性だってのは初めて知った。通話ボタンひとつ押せないレベルの凍え方ってどんなだよ、興味本位で握ったら、ひやり、ぎくりと心臓が跳ねた。 あー、だって、知らなかった。こんなに小さい手のひらだなんて。強く握ったら壊れそうだな、とか、思ったら余計に力が入った。


6、ダイヤモンドダスト
 ダイヤモンド・ダスト、きらきら光の粒。冷たすぎて涙が出る。さっむ!なんて言いながら彼は嬉しそうだから、言いかけた不満も一応呑み込む。 「Priceless」「何が」「こんな時間に一緒にいる、コト」 なんか、夜明けのコーヒー的な? ふざけた台詞に眉を寄せたら、彼は余計に嬉しげに笑った。


7、鍋物
 ぴしっ。カルタの札を取るように、今日子さんが加賀の手を引っ叩く。「何度言ったら分かるの! 椎茸を勝手に取り出さない!」 「きょーこさんこそ、俺がキノコ苦手だって、何度言ったら分かんの!?」「知りません!」「知ってるクセに!」確か去年もやってたな、コレ。ああ、仲好きことは美しき哉。


[2015年1月]