仲間たちは証言する(――The crews crowed that they got a lot of clues. )
◆証言者1――風見ハヤト
え? 何ですか?
……ああ、なんだ、あの話ですか。知りませんよ、僕は。
そんながっかりした顔しないで下さいよ。大体、あの加賀さんが、僕にそんなコト話すと思います?
……ええ、まあ確かに、機嫌いいですよね。ここんとこ。
夜遊びに誘われることも、ぱったりなくなったし――うん、そうですね、「特定の誰か」ができたんだって聞いても驚きませんね、僕は。
ええ、もちろん、それが誰なのかなんてことは、僕はちーっとも知りませんけど、ね。
◆証言者2――ジャッキー・グーデリアン
は? 加賀ァ? なに、加賀チャンどーかしたの?
……え? ……えぇ!? ウソだろォ、そんなことになってんの!
あちゃー、そっか、それでか……。
あ、イヤね、加賀チャンてば最近、どーもノリが悪いのヨ。
せっかくミーが選りすぐりの女の子たち連れてきてるってのにさぁ、イマイチ反応に熱がナイみたいネー、と思ってたら、
そっかそっか、そーゆーコト!
……って、あら、そしたら女の子の紹介なんかしてたらマズイんじゃないの!?
ノー! そんな怖いこと、ミーは関わりたくないね! ノーコメントってことでヨロシク!
◆証言者3――エデリー・ブーツホルツ
……加賀が? そんなこと、俺が知っていると思うのか? ……参ったな、本当に俺は、そういう話は苦手なんだ。
え? 何か気付いたことなら何でもいい? ……「そういう話」でなくてもか?
……なら、ひとつ、気になっていることがあるには、ある。
最近、エレクトラが――ああ、うちのチームで飼っている猫だ。誰が連れて来たのか、いつの間にか住み着いていてな。
全員が父親代わりみたいなものだから、溺愛してくれるようにということでエレクトラと名前を付けたんだ。
ぱっと見にはロシアンブルーに見えなくもない、なかなかの美形だぞ。
初めは手分けして貰い手を探そうとしていたんだが、情が移るというんだろうな、そのうち誰も真剣には考えなくなって……
……あ、ああ、すまん、加賀の話だったな。そう、そのエレクトラが、加賀を酷く嫌っているようでね。
ちょっと前までは、懐かないにしても毛嫌いしている訳ではなくて……そう、敬遠している、というだけだったんだが、
最近は何が気に入らないのか、歯を剥いて唸ったりするようになってな。
……え? 他の猫のニオイがついているんじゃないかって? ……さあな、そうかも知れんが。
加賀は猫なぞ飼うようなタイプでもないだろうし、どこでそんなニオイがついてくるのかとなると、もう俺には判らないがね。
◆証言者4――レオン・アンハート
え? 加賀? 知らねーよ、オレ、ほとんど付き合いねーもん。
ああ見えてブーツホルツさんとはよく飲みに行くらしいけどな。
あー、そういや、フリッツの野郎とも仲よかったっけな……。…………。
……え? あ、いや、ちっと考えゴトだよ。アイツ最近、機嫌悪ぃよなーと思って。いやいや、加賀じゃなくてフリッツが。
そういやここんとこ、あんまり加賀と絡んでるカンジしねぇよな……前は時々、愚痴みてぇなもん聞かされたけど……。
え……? ……は!? マジかよソレ! あー、そーか、だからだよアイツが機嫌悪ぃの。ったく、だらしねーんだからなぁ……。
しょーがねぇ、今度飲みに誘ってやるか。女の4、5人も紹介してやりゃ気分もよくなるだろ。
え? 誰でも自分と同じだと思うな、ってどーいう意味だよコラ! おい、待ちやがれ!
◆証言者5――フィル・フリッツ
……加賀の話なら、話すことなんか何もないからね。
悪いけど他を当たって。
◆証言者6――新条直輝
……ああ、あの噂か。どうなんだろうな。
いや、おれはそーいう話って、疎いから……聞いてもあまり、参考にならないと思うぞ?
え? 変わったところ? ……あいつはもともと変わってるだろ。
……そういう意味じゃない? ああ、変化があったか、ってこと。そうか。
それなら……服装がちょっと、変わったかな。うん。
ほら、あいつ、いつも結構とんでもない服着てるだろ? 露出の高い、下品なやつ。
最近、あんまりああいう派手な服着てないな。もうちょっとまともな、っていうか……それなりの場所でも、通用しそうなやつ。
ブランド? そんなの、おれに判るわけないじゃないか。
……うん、でも、かなり高級なんじゃないかな。うん。たぶん。
◆証言者7――城之内みき
あー、あんたもあの噂の真相探りに来たクチ? やめときなよ、あんまりいい趣味じゃないよ……。
うん、分かってるけどさ、仕事だってのは。……プロってのはしんどいよね。
協力してやりたいとこだけど、あたしだってそんな、決定的な情報持ってるワケじゃないしねー。
……え? 最近加賀が変わったこと? ……どうかな、もともと掴みどころのないヤツじゃん、アイツって。
ああ……強いて言えば、遅刻が減ったくらいかも。
うん、そりゃレースに遅刻するようなことはもちろんなかったんだけど、会議とかイベントとかだと気を抜いて、
わりとちょくちょく遅刻してたんだよね。それが最近はほとんどなくなったかな。
え? 誰が起こしてやってるのかって? ……それをはっきりさせるのがあんたたちの仕事だろ。ほら、もう帰った帰った!
◆証言者8――菅生修
加賀の件か? ああ、そうだろうと思っていたんだ。
ん? 何か気付いていたことでもあるのかって? よく訊いてくれた。あるさ、あるとも、大ありだ。
実はな、――においなんだ。そう。匂い。
いつだったか……カナダGPか、パドックを歩いていたらふと甘い香りがしてな。華やかな中にも気品のある、ひどく高級な香りだった。
まぁ、正直、キャンギャルやコンパニオンたちはまず使わないだろうというようなね。
これは間違いなくどこかのセレブリティだと思って振り返ったら、こともあろうに加賀。
しかも、シャンプーの匂いだったんだ、それは。
解るだろう? そこらへんのお手軽なホテルには、あんな高級な香りのするシャンプーは置いてない。
ということは、……だ。……そうなんだろう?
……やはり、そうか? そうなんだな。…………。
……え? 顔が怖い? あ、ああ、すまない。何故だか無性に腹が立ったものだから。
……そうか、本当にそうだったのか……。加賀か……ああいうのが好みだったとは……うーん……。
◆証言者9――菅生あすか
加賀さん? ああ、そういえば最近、あんまりハヤトをからかいに来ないわね。
来たら来たでいつもどおり楽しそうだし、別に何かおかしいってことはないんだけど……。
あ、でもこの間、あれ?って思うことがあったのよ。ハヤトに頼まれて紅茶を持ってったら、加賀さんがちょっと渋い顔したの。
それがね、この紅茶って祁門だろ、もーちょっと早く注ぎ切った方がよかったんじゃねーの?って。
おかしいでしょ? あの加賀さんが、祁門なんて紅茶の名前を知ってて、しかも淹れ方に文句をつけるなんて。
誰かに教えてもらったんでもなければ、そんなの知ってるはず……。
……あ、もしかして、そういうこと? ……そういうことなのね? だからあちこち聞いて回ってるの?
……やっぱり、そうなの! やだ、アタシったら、全っ然気が付かなかった!
え、これってまだ、本人たちには内緒? 分かったわ、もうしばらく、こっそり見てみる。
……ちょっとわくわくしちゃうわね、こういうの♪
◆証言者10――フランツ・ハイネル
ふん、ご苦労なことだな。スポーツ誌の記者がゴシップに振り回されて証言集めとは。
まあいい。ちゃんと、時間帯は選んで来ているようだしな。
それで? ……やはり加賀か。彼奴のプライベートなど、碌に知らんぞ。
しょっちゅう一緒に飲み歩いているグーデリアンの方が詳しかろう。
……ああ、もう聞いてきたのか。彼奴が知らないというんなら、尚更私が知っている筈がないだろう?
……何でもいいから気付いたことを話してくれ? それはそれは、随分切羽詰っているようだな……
断っておくが、大した情報は出ないぞ。
私が知っているのは精々、最近の加賀が今までにも増して機嫌がいいということと、
やけに業界内の事情に詳しくなっているということくらいだ。
まあ、どこに人脈があるんだか分からん奴だから、怪しむほどのことでもないんだろうが……
誰か同業のお偉方と、かなり親しい関係なんじゃないかという気はするな。
いつどこでどうやって話しているのか、そんなことまでは知らないが。ああ。
◆証言者11――カール・リヒター・フォン・ランドル
加賀を探しているのか? なんだ、あんな目立つ男が見付けられないほど無能か、お前たちは。
……え? 本人には内緒? どういうことだ? ……ああ、そうか。あの噂だな。
ま、あいつみたいに下品な男には、それなりに似合いの話題なのかも知れない。
しかし僕に言わせれば、お相手の彼女にまでこんなゴシップ紛いの評判を押し付けるのは考えものだな。
……なんだ? 僕がフロイライン・あすか以外を庇うとは驚きだって?
心外だな、僕は彼女とはそれなりに解り合えているつもりだよ。
このサーキット内にいる人間の中で、僕の弾く協奏曲を正しく解してくれるのは、ヘル・ハイネルと彼女くらいのものだからね。
……ああ、そういえば先日、『美しく青きドナウ』を弾いていたら、
加賀が「ヨハン・シュトラウスはやっぱ1世だろ」などと言い出したので驚いたな。
あの男がシュトラウスを知っているとは、それこそ意外だったんだが……あれはもしかすると、彼女の影響で……。
……ああ、やめだやめ! 僕まで下世話な話題に巻き込まれたくはないね。すまないが、これで失礼するよ。
◆証言者12――クレア・フォートラン
あらあら、もう証言集めはおしまいですの? で、どうでした?
……まあ、そうですの。やっぱりみんな、気になっていたのね。
え? ええ、それはもちろん、私も。だって彼女は、とても綺麗になりましたものね。
うふふ、そうね、加賀さんの方が、ぼろを出した――というのかしら、みんなに気付かれてしまうような行動は多かったでしょうね。
でも、女には女同士の変化の方が、よく判るものですから。
ええ、だから、決定的な証拠が欲しいなら、彼女の方を当たってみたらどうかしら?
案外、直接訊いてみたらはっきり答えてくれるかも知れないし……え、そんなはずない?
いいえ、それこそ、そんなはずないわ。女の子同士のおしゃべりで、自分の恋人が話題にのぼるのは嬉しいものよ。
ええ、もちろん、彼女は立場も節度も弁えているでしょうし、恋人のことを話してくれ、って頼むのはちょっと、
直接的すぎるかも知れませんわね。
そうね、じゃあ、こんな風に切り出してみたらどうかしら――
「あなたのチームの大切なドライバー、そしてあなた個人の大切な人であるブリード加賀について、
お話を伺えたら光栄なのですが」ってね。
[2010年10月]