おてがみ


ナイトへ

 はじめてお手紙を書きます。宛先になんて書けばいいかわからないから、書くだけで、出すつもりはないんだけど。
 今日、国語の授業で和歌っていうのを習って、昔の人は、相手のことをすごく強く思うと相手が自分の夢を見るって信じてた、っていうのを知りました。
 一生懸命思えば、ナイトはぼくの夢を見てくれるかもしれない。だから、ナイトに伝えたいことを強く強く思うために、ぼくはお手紙を書くことにしました。
 はじめてだからうまく書けないかも知れないけど、笑わないでね。

 ぼくは毎日、すごく元気です。ルリさんのうちは広くて、とってもきれいで、メイドさんがたくさんいて、ご飯がすごくおいしいです。 ナイトも一緒にいられればよかったのにって思います。
 ルリさんはやさしくって、ときどきおもしろいです。ここに来てもう半年以上経つけど、ナイトが心配してたようなことは、なんにもありませんでした。
 ぼくは、戸籍っていうのがちゃんと作り直せたので(鏡さんが、ナイトの分もちゃんと回復できたって言ってました)、アオイさんと一緒に中学校に通っています。
 アオイさんはルリさんみたいにやさしい感じじゃないけれど、てきぱきしてて頭がよくて、とっても楽しい人です。 ぼくはまだわからないことがたくさんあるから、アオイさんに勉強を教えてもらうこともよくあります。
 アオイさんでもわからないときは、鏡さんが教えてくれます。鏡さんは教えるのが上手で、とっても頼りになる感じがします。 アオイさんも、鏡さんに教えてもらうのはうれしいみたいです。

 研究所では、知能検査に使うための勉強しかさせてもらえなかったから、中学校でする勉強は、はじめてのことがたくさんあってすごくおもしろいです。 特に社会とか音楽とかが楽しいです。地図帳を見て、ナイトは今ごろこんなところにいるのかななんて考えるのが好きです。
 本を読むのも楽しいです。新しい言葉もたくさん覚えました。ナイトって名前は、まっくらな夜のことだってナイトは言ってたけど、 王様やお姫様を守る騎士もナイトっていうんだって。すごくかっこよくて、ナイトにぴったりだと思いました。
『騎士道物語』っていうのを読んで、面白いお話をたくさん覚えました。ナイトが帰ってきたら話してあげたいです。

 ぼくは最近、背がすごく伸びました。今はもうルリさんよりちょっと大きいくらいです。顔色もよくなってきたってメイドさんたちが言います。 足りてなかった分の栄養がちゃんととれるようになって、成長が年齢に追いついてきたんだろうって鏡さんが言ってました。
 ぼくと同じくらいだったアオイさんの背もちょっとずつ高くなってきました。でも、たぶんルリさんと同じくらいの身長で止まるだろうって言ってます。
 ぼくがどれくらい大きくなるかはわからないけど、兄さんはナイトと同じくらい背が高かったから、ぼくも大きくなれるかな。 もしアルマさんくらい大きくなったら、ナイトはぼくと話すとき、首が痛くなっちゃうかも知れないよね。ナイトと同じくらいの背の高さになれるといいなって思います。

 アルマさんはあいかわらず背が高くて、よくいろんなところに頭をぶつけてます。けっこうそそっかしくて、ぼんやりしてるところもあって、おもしろい人だなって思います。
 けど、誰かが普段と違う様子だったりすると、すぐに気付いて心配してくれます。やさしい人です。ナイトのことも心配みたいで、よくナイトのことを聞かれます。 ぼくにだって、今ナイトがどうしているかはわからないんだけど。
 でも、昔の話とか、研究所から一緒に逃げた後のこととか、いろいろ話しました。そしたら、今度会ったらナイトと仲良くなれそうだって言って笑ってた。 ルリさんもアオイさんも、鏡さんもみんなも、同じようにナイトのことを聞きたがります。帰ってきたら、いっぱい話をしてあげてね。

 アルマさんはルリさんととっても仲がよくて、しょっちゅううちに遊びに来ます。ときどきふたりでお出掛けしてます。 たまにぼくも一緒に連れていってくれます。アオイさんと一緒に出掛けることもあります。 アオイさんはぼくにかわいい服ばっかり着せたがるのでちょっと困るけど、でも、やっぱりアオイさんは元気でかわいいです。
 たまに、あまり強くないアシが市内に出てくることがあって、そんなときはアルマさんとルリさんと、アオイさんと鏡さんと、ぼくと何人かのメイドさんたちで退治しに行きます。 鬼瓦も一緒です。でも、ぼくはただのお手伝いって感じだから、見てることの方が多いです。
 アシと戦ってるときのアルマさんはすごくかっこいい。ルリさんも、いつものやさしい感じじゃなくてかっこよくなります。鏡さんたちも。

 だけどぼくは、ナイトの方がもっともっとかっこいいのにって思いながら見てしまいます。そして、少し心配になります。
 ナイトは、アシに襲われたりしてないかな。ひとりで戦うのは、大変じゃないかな。
 ぼくが心配するといつもアオイさんが、大丈夫よって言ってくれます。 アルマさんと同じで今のナイトにはセイクリッドセブンの力がぜんぶ入ってるから、前みたいに暴走したり、すごく苦しかったりすることはないはずだって。 でもナイトひとりだと自由に力を使うことはできないから、本当はぼくも一緒に行きたかった。
 アオイさんが、鬼瓦はアシのいる場所がわかるから、もしかしたらナイトのいるところもわかってるかも知れないって言いました。 わかったら会いにいきたいかって聞かれたけど、がまんして待ってるって答えました。 ぼくがひとりでもがんばれるように、ナイトも、ひとりでも大丈夫になるためにいなくなったんだって、ちゃんとわかってるから。
 そう言ったらアオイさんが、そうだねって言ってくれました。ルリさんと、アルマさんも。ちょっとうれしかったよ。

 ぼくは今、学校での勉強以外に、アオイさんと一緒にセイクリッドの力の使い方についても勉強しています。 研究所に残ってた資料を使って、鏡さんが教科書みたいなものを作ってくれたんだけど、その教科書を渡す前に、ルリさんがすごく真面目な顔をして言いました。
 この資料の半分以上は研美博士の研究から得られたデータがもとになっています、って。 ナイトさんやあなたや、あなたのお兄さんたちを犠牲にして行われた、本当はやってはいけなかった研究の成果です、 だからもしあなたが望むなら、私はこの資料をすべて破棄するつもりです、って。
 でもぼくは、捨てないでくださいって言ったんだ。研究所は怖くて、つらかったけど、思い出すのはすごくイヤだったけど、 そのつらかったことがぜんぶ無駄になってしまうのはもっとイヤだと思ったから。
 ナイトはもしかしたら捨てさせろって怒るかも知れないけど、怒ってもいいけど、許してね。
 これからも強いアシは出てくるかも知れないし、昔のぼくたちみたいにどこかでこっそり実験されてる人たちもいるのかも知れない。 セイクリッドの力をちゃんと使える人が必要なんだとぼくは思います。
 研究所で苦しかった分、ここでいっぱい勉強して役に立てたいから、ナイトがいなくってもぼくはがんばるよ。

 ナイトがいなくなってから、考えたことがあります。アルマさんと話をしていて気付いたんだ。
 ぼくはいつもナイトを守りたいって、一緒に戦いたいって言ってたのに、ナイトはずっと許してくれなかったよね。 それはぼくが弱くて足手まといだからだって思ってたけど、そうじゃないんだって。 ぼくを守ることを理由にして戦っていたから、だからぼくに頼ることができなかったんだって、そんな気がしました。

 でもぼくは、アルマさんとルリさんを見ていて思いました。お互いに守る守られるっていうんじゃなくて、助け合って強くなることもできるんだって。
 だからぼくは、ナイトを守るためにじゃなくて、ナイトと助け合えるようになるために強くなりたい。
 ナイトと一緒にいられないのは、さびしくってちょっと悔しいです。でも、アオイさんが言ってました。 ナイトはぼくと同じように、守ろうとするだけじゃなくって、助け合えるようになるために出て行ったんだって。
 ぼくがいるのとは違う場所で、ぼくとは違ういろんなものを見て、知って、考えて、そしていつか戻ってきたら、 今までとは違うかたちでまた一緒に戦えるようになるんだって。きっとそうだなって、ぼくも思います。
 だからぼくも、がんばって待ってます。がんばってナイトを応援してます。ナイトのことを思ってます。
 強く思うことは相手の夢に出るだけじゃなくて、相手を守ることにもなるんだってルリさんが教えてくれたから。

 ナイトが、アシに襲われたりしませんように。
 病気になって動けなくなったりしませんように。
 知らないところで迷子になりませんように。
 毎日元気でいてくれますように。
 いろんなことを楽しいと思っていてくれますように。
 夜はよく眠れますように。
 ぼくのことを忘れてしまいませんように。
 早く帰ってきてくれますように。
 また、ナイトと一緒にいられるように、なりますように。
 ぼくはいつも、思っています。

 はじめて書いたからあんまり上手じゃないけど、ナイトが帰ってきたら、このお手紙を読んでほしいな。
 ルリさんにもらった封筒に入れて、机の中にしまっておくから、早く読みに帰ってきてね。またお手紙を書きます。
 じゃあね、ナイト。元気でね。ぼくもがんばります。


劉翡翠より

[2011年10月]