乙女高原ファンクラブトップ > メールマガジン > 第265号(2012.2.6.)



□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
    乙女高原ファンクラブ 公認
 乙女高原メールマガジン 第265号 2012.2.6.
  発行者:植原 彰(乙女高原のある山梨市牧丘町在住)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
  ▲▼ も く じ ▼▲
NEW! 0.【ニュースニュース】
NEW! 1.【活動報告】第11回乙女高原フォーラム 1月29日(日)その2
   2.【活動案内】総会と座談会 3月11日(日)
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■

0.【ニュースニュース】
●1.いよいよ今号はフォーラムでの槐さんのお話特集です。乙女高原にとって,とても大切な提言も含まれています。じっくりお読みください。なお,この報告の文責はすべて植原にあります。槐さんが話されたことをそのまま文字にして報告する手もありますが,「聞いて,わかり易い話」と「読んで,わかり易い話」は,えてしてイコールではありません。ですから,槐さんのお話の趣旨を変えないように注意しながら,また,槐さんの「味」も残しながら,できるだけ「読んで,わかり易い話」に植原が「変換」したつもりです。変換したら趣旨が違ってしまったり,かえって分かりにくくなったとしたら,すべて植原の責任です。それを頭の隅に置きながら,お読みください(→1)

●2.フォーラムの前日,短い時間でしたが,乙女高原に行ってきました。乙女高原は全面真っ白。平均20〜30センチ,多いところで40センチの積雪でした。雪は積もっていましたが,雪合戦はできません。手でにぎっても,サラサラ雪なので,雪玉が作れないのです。雪をスノーシューで踏んでも,足が抵抗なく雪の中にフワッと入ってしまう感覚を楽しみました。写真を観察ブログに載せましたので,ぜひ,ご覧ください。
http://blog.goo.ne.jp/otomefc/d/20120128

●3.昨年11月の草刈りを取材したTBSテレビの番組【風の言葉】を動画投稿サイトで見つけました。草刈りの様子を短い時間で非常に印象的にまとめている,とてもいい番組だと思いました。ギターのBGMもアコースティックですごくいいです。
http://www.youtube.com/watch?v=uJ2YOJSOMbI

●4.(再掲)次回の乙女高原ファンクラブ世話人会は2月29日(水)午後7時半から9時まで牧丘総合会館で行います。ファンクラブ会員であれば世話人でなくても参加できます。おいでください。

●5.2月4日,公益財団法人・日本自然保護協会主催の「みんなでつくる生物多様性地域戦略」というシンポジウムに参加してきました。生物多様性を維持し,生物多様性のめぐみを持続的に活用していくためには地域地域で,地域の実情に応じた,自分たちの身の丈にあった戦略を作って,実行していかなければなりません。その先進事例を学んできました。
 じつは,山梨県は「都道府県版のレッドデータブックをまだ作っていない最後の3つの県」に入ってしまった不名誉な過去があります。生物多様性地域戦略の策定に関しては,この不名誉をぜひ挽回してもらいたいなーと思っています。
--------------------------------------------------------------

1.【活動報告】第11回乙女高原フォーラム 1月29日 その2

●槐さんの1時間目 ムシムシワークショップ(子ども向けのお話)
・(標本箱を見せて)ここにたくさんのクワガタがいます。この会場の周辺にはコクワガタというのがいるけど,こんなに大きくてカッコいいミヤマクワガタもいるのが乙女高原です。

・乙女高原には245種類の昆虫が見つかっています。

・(写真を見せながら)でっかく見ると怪獣みたいなこの虫,上のと下のとで違いがあるんだけど,どこかわかるかな(・・・と一人の子に指し棒を渡して,実際に指してもらったら・・・)おー,正解。おひげ(触角)の形が違います。膨らんでいるほうが男,膨らんでないのが女です。この虫は春先,地面を歩いているのが見つかります(ヒメツチハンミョウ)。

・(写真を見せながら)このチョウに名前を付けるとしたら,どんな名前にする? 目玉模様がクジャクの羽根のようなので,クジャクチョウといいます。でも,なかなかみつからないんだよ。なぜかというと,チョウは翅を閉じて止まっていることが多く,閉じると目玉もようのない翅の裏側が見えてしまうからです。モンシロチョウくらいの大きさです。

・今,この寒い時期にも乙女高原には虫がいるのかねえ。じつは,さっき話をしてくれたウエハラさんが中継で乙女高原に行ってくれています。もう中継が通じますかねえ・・・(と,昨年末に乙女高原で撮っておいたビデオを流す)

・寒いと虫は動けなくて,どこかに隠れています。なかなか見つからないんだけど,枝先にこんなのが見つかったんだよ(・・と子どもたちを集めて,見せる)。卵かなあ,繭かなあ・・・。
この中にはガのさなぎが入っていたんだよ。成虫はこんな姿。翅に白い丸が見えるけど,よく見ると,そこは透明。ウスタビガといいます。ウスタビガはここにもいると思うけど,乙女高原にしかいなくて,夏の1週間くらいしか見られないガもいます。

・乙女高原の建物(グリーンロッジ)の中に虫たちは避難していると思います。探してみたら,こんなのがいたよ(・・・とやっぱり子どもたちを集めて見せる)。これはちょうちょの仲間です。超拡大してみましょうか(・・・と双眼実体顕微鏡の画像をスクリーンに映す)。ザラザラしているように見えますね(翅に鱗粉があるから)

・せっかくだから,カメムシも超拡大してみよう。カメムシは臭いんじゃなくて,木や草の汁を吸っているので,ちょっと個性的な植物の匂いです。口を見ると,こんなふうに針みたいです。セミもアブラムシも似た口です。このカメムシはお家の中にいました。

・(2頭のアサギマダラの写真を見せながら)「違うところは?」と子どもたちに聞いたところ,やっぱり当たり! 翅の下に色の濃い部分があるのがオス,ないのがメスです。

・草原にはバッタの仲間がいっぱいいます。乙女高原に一番たくさんいるバッタはすごく大きな声で鳴くんだよ(と,鳴いている声も聞かせてくださいました)。ナキイナゴといいます。ナキイナゴのオスとメスの違いは,メスは体が大きくて,ほとんど翅がありません。オスはちゃんと長い翅があり,これで鳴きます。

・乙女高原にはほかにも鳴くバッタがたくさんいます。ヒロバネヒナバッタ,タカネヒナバッタです。ヒロバネ・・・は会場の近くにもいるかもしれないけど,タカネ・・・は乙女高原にしかいません。

・体に比べて触角がとても長いキリギリスの仲間もいます。ムサシセモンササキリモドキ。5年前に見つかった新種です。

・乙女高原は,人が草をきれいに刈ってるの。草なんて刈らないほうが自然でいいと思う人もいるんだけど,草を刈るからたくさんのお花が咲き,草を刈るからチョウチョも増えることがわかっています。だから,草を刈って,「これでチョウチョが増える!」って、みんなでバンザイしているんだよ。

・草を刈っていると,普通見られないようなチョウチョも見られるようになります。今年の夏はぜひ,お家の人といっしょに乙女高原に行ってみてください。たくさんのチョウチョが見られるよ。 (お話は終わり)

・(質問)「さっきの緑色のちょうちょの名前は?」
(槐さん)「スジボソヤマキチョウ(筋細山黄蝶)と言います」
(質問者)「え,緑色に見えるんだけど,なんで黄色いチョウなんですか?」
(槐さん)「標本にすると黄色くなるからだよ」



●槐さんの2時間目 希少昆虫の宝庫 乙女高原は今(大人向けのお話)

・槐(えんじゅ)の洋名はアカシア。珍しい名字のベスト10です。名字の絶滅危惧種です。

・この話は去年の3月13日にする予定でしたが,例の大震災があってできませんでした。今回はその仕切り直しのはずだったんですが・・・昨日の朝,大きな地震があったでしょ? 槐が来ると地震が来ると思われているのではないかと思います(笑)。

・神奈川から乙女高原に虫を調べに来ているんですが・・・,実際は奥さんから「子どもをどこかに連れてって」と言われて,来ています。子守りのついでに昆虫を見ています。

・乙女高原の虫を調べ始めたので,山梨全体の虫のことも調べ始めました。ぼくの調べ方は「だれかが調べて書き記した記録(報告書など)」を調べるというやり方です。昆虫を調べた記録は,植物を調べた記録と同じくらいの歴史があります。

・岐阜県の名和昆虫研究所が出している「昆虫世界」という雑誌の中に「雑報」として山梨の虫が初めて口語文として紹介されています。メイガというイネの害虫の大発生の報告です。昆虫図鑑に載っている昆虫として初めて山梨の名前がでてきたのは今から80年前。オオチャイロハナムグリという珍しい虫です。ジャコウの匂いがし,大きな木の洞にしかいないんだそうです。国内で3番目の記録だそうです。

・戦後,虫の研究では甲州昆虫同好会という会が山梨県内の昆虫を調査して「山梨の昆虫」という雑誌に記録を残してくれています。「駿河の昆虫」もそうで,静岡の人が身延のほうから入ってきて,櫛形山あたりまでを調べて,記録を残しています。これらを読むと,山梨の昆虫のことがわかります。首都圏に近い山梨県には,神奈川や東京からも昆虫好きな人がたくさん訪れて,昆虫を観察し記録しています。

・昆虫をやっている人の中には,採ってはいけないところで採っている人も確かにいます。でも,こういう雑誌に昆虫の記録を書いてくれている人は,ルールを守ってやっている人です。ルールを守ってやっているから,報告ができるわけで,ルールを破ってやっている人は報告なんてできません。

・乙女高原には成城学園の生物部の山小屋があります。乙女高原グリーンロッジに成城学園の生物部の方たちが残してくれた標本箱がありました。それを見て,ぼくは背筋が凍りました。ぼくが3年通って,見たことのないチョウが半数あったからです。1960年代の標本でした。フタスジチョウ,オオミスジ,ヤマトスジグロシロチョウです。まさに今の乙女高原の状況を考えさせてくれる発見だったなあと思います。

・山梨県で虫を調べて記録した延べ日数を数えてみると,1970年代以降多くなっています。昆虫の同好会が盛り上がったり,一般の人も買える図鑑が出たりしたからだと思います。1990年代,2000年代と少なくなっているのですが,やっている人が年をとってきたからだと思っています。それでも年間に1000日以上の昆虫観察記録日がある1980年代以降のデータを使えば,何かしらの傾向が言えそうな気がします。ある虫が増えて,ある虫が減っているということは安易には言えないけれど,調査の数が多くなれば,比べられるだろうという仮定のもとで話をしています。

・ぼくがいろいろな報告書等を調べた結果,1980年代以降,山梨では昆虫観察記録がのべ8000日行われていて,報告に出てきた昆虫の種数は1540でした。1000種類を超えると多そうに聞こえますが,日本全国で4万種類,神奈川県だけでも1万種類を超えます。山梨ではまだまだ調べられていない昆虫が多いことがわかります。

・昆虫の種類を仲間別にグラフで表すと,チョウが一角を占めています。ですが,神奈川で同じようなグラフを作るとチョウはずっと少なくなり,コウチュウがもっとずっと多くなります。カメムシも多くなります。ですから,山梨の昆虫をもっと詳しく調べるためにはコウチュウの専門家とカメムシの専門家を投入するのが早道なのかもしれません。

・乙女高原を見てみると,245種類の昆虫の記録がありました。山梨市全体で329種類ですから,山梨市で記録された昆虫の3/4以上は乙女高原で記録されています。こういう自然の記録を集めていくと,特別に大切な場所の記録が多くなってきます。山梨市にはほとんど昆虫調査には入っていないのですが,それでも乙女高原の記録がダントツ多いということは,山梨市の中で乙女高原の自然というのはとても大切であるということを示しています。虫を愛でる人たちにとっては乙女高原はとても魅力的な場所であり,山梨市の中で,乙女高原のエリアが失われてしまったら,観光資源としても,生物多様性という観点からも大きな損失になると考えられます。

・乙女高原の昆虫の構成を見ると,やはりチョウとかガが多いです。愛好者が多いですからね。ぼくの先輩の原さんというチョウをやっている80歳くらいの方がいるんですけど,電話をして「原さん,乙女高原って知ってますか?」とお聞きしたら,「おまえはまたっくなってない。チョウをやっている人で乙女高原の名前を知らないヤツはもぐりだ」と言われました。それだけ,チョウチョをやっている人にとって,乙女高原は聖地なんです。

・確かにチョウチョは多いですが,ぼくの専門であるバッタやカメムシを見てみても,天然記念物にしてもいいくらいのものがいます。

・2005年に山梨県のレッドデータブックが出ました。絶滅危惧種のリストなんですが,乙女高原の昆虫の中で,このレッドデータブックに載っているのは8種類ありました。山梨市全体では12種類です。

・ぼくは韮崎市も好きでよく行くんですが,韮崎市の絶滅危惧種をひろってみたら,15種類でした。この差は高山のチョウの差でした。南アルプスの高い尾根にいるベニヒカゲやクモマベニヒカゲ,タカネヒカゲです。これを除けば,絶滅危惧昆虫という視点でみると,韮崎市も山梨市も同等の自然の豊かさであるといえます。

・その中でも乙女高原は絶滅危惧種が多い場所です。たかだか8種類と思わないでください。8種類もいるんです。ぼくが調べている神奈川県のフィールドでは5種類だけですから。乙女高原には絶滅が危惧される昆虫がいるのですから,そのバックグラウンドとして,ほかの昆虫たちもいっぱいいる場所だということです。

・「バッタのためには,草原の草刈りなんてしないほうがいいよね?」と聞かれることがあります。「そうだよね・・・」と答えてしまうんですが,本当のところはどうなんでしょうか。経験的には,草を刈らないところより毎年刈ったところのほうがバッタが多く,チョウチョも含めたほかの昆虫も多いです。この経験則は,昆虫を観察している人が異口同音に言うことです。

・それは経験的に言えるだけでなく,それを支持する研究結果も出ています。刈ったところと刈らないところを科学的にちゃんと比べるという研究です。山梨県の環境科学研究所の北原先生は,富士山麓の刈った草原と刈らない草原でチョウチョの種類がどう違ってくるかを長年に渡って研究されています。それによると,草刈りの度合いが大きくなれば,チョウの種類数が多くなっています。チョウの種類を増やすためには,草刈りが効果的なんです。

・草原のチョウというのは@草原専門のチョウと, Aたまたま草原にいたチョウと,B草原と林を行ったり来たりしているチョウの3パターンあるんです。いくら草刈りするとチョウの種類が増えるといっても,詳しく調べてみると,もしかしたら,@草原専門のチョウは減っているかもしれません。北原先生はそれを心配して,@草原専門のチョウについて調べられました。草刈りをしないと@草原専門のチョウは増えるかというと,増えません。アンハッピーです。草を一生懸命刈ったところのほうが数が増えています。

・今年の草刈りで,刈った草をよそに持ち出すということをしたそうですね。それがいいか悪いかという議論もあるそうですが,その点についても研究されています。草を持っていった場合とそうでない場合を比べると,大差ないそうです。大差ないけど,あえて言えば持っていったほうがいいと,おっしゃっていました。

・以上のことをまとめると,今,皆さんが乙女高原でやられている草原の管理というのは,まったく理にかなっていると自信をもっていただけると思います。それは,北原先生の研究成果からも言えますし,静岡昆虫同好会の方も富士市で同様の研究をし,同様の結果がでていますし,阿蘇山での研究でも同じ結果がでていますので,おそらくこれは場所によって結果が違ってくるという性格のものではなく,人間がかかわってきた草原という環境では秋口に草刈りをして,そこの自然をリセットするということが,そこの自然環境にとって一番しっくりしている形態なんだということが,昆虫の中でもおもに草原との関係の深いチョウチョの研究によって裏付けられたということです。自信を持って,がんがん草を刈ってください。

・ぼくは植物のことはあまり詳しくないんですけど,草を刈った後に蜜源となる花がたくさん咲いているのを見ます。チョウチョも含めて昆虫にとって花というのはすごく大事な資源です。

・コヒョウモンモドキというチョウチョがいます。かつては乙女高原にたくさんいたそうですが,ぼくが通った3年間に一度も見ていません。ほぼ絶滅状態ではないかと北原先生もおっしゃっていました。乙女高原での傾向をみると,1970年代からコヒョウモンモドキの記録があって,数もそんなに少なくなかったけれど,1990年代の記録を境に,2000年代にはパッタリいなくなりました。1960年代の人に言わせると「こんなもんじゃないよ。もっといたよ」だそうです。

・なんでいなくなったかを考えていくと,蜜源である草がなくなってしまったことと,幼虫が草を食べますから,それがなくなってしまったことだと思います。その原因として考えられることとしてシカの食害があります。また,草原の面積が減っているというのも,一因だと考えられます。木を植えることもいいですが,草原の面積を増やすというのも,草原の虫にとってはハッピーだと思います。

・それだけでなく,コヒョウモンモドキがいなくなってしまった原因として,違法な採集があります。おそらく間違いありません。コヒョウモンモドキを徹底的に採ってしまったんです。あれだけ面積が小さくなってしまったところで,自由に昆虫を採らせてしまったら,今いるものも,おそらくどんどん少なくなっていくと思います。できるのでなれば,法的な採集禁止策を考えていけば,乙女の昆虫の今後の展望があると思います。皆さんが一生懸命草刈りしている成果が今後,見えてくると思います。
(お話はおしまい)
--------------------------------------------------------------

2.【活動案内】  ●2011年度総会ならびに座談会●

日 時 2012年3月11日(日)午後2時〜
場 所 山梨市牧丘総合会館 3階 大ホール

出欠ハガキは2月中旬発送予定のニュースレターに同封します。
なお,今回のニュースレターは普通会員にのみ発送します。

※総会終了後,座談会を行います※

座談会の話題提供者 小俣 謙さん
 (山梨県みどり自然課自然保護担当)
テーマ 県の野生動物(シカ)管理の展望
内 容
@山梨県内のシカの現状(生息状況、被害状況、捕獲教等)
A特定鳥獣保護管理計画について(目標、対策等)
Bシカ対策の課題と今後どう進めていくか
--------------------------------------------------------------



乙女高原ファンクラブトップ > メールマガジン > 第265号(2012.2.6.)        →ページトップ