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    乙女高原ファンクラブ 公認
 乙女高原メールマガジン 第225号 2010.2.3.
  発行者:植原 彰(乙女高原のある山梨市牧丘町在住)
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NEW! 0.【ニュースニュース】
NEW! 1.【イベント報告】乙女高原フォーラム 1月31日
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  0.【ニュースニュース】
●1.2010年に入って初めてのメールマガジンです。今年も乙女高原と乙女高原ファンクラブをよろしくお願いします。

●2.山梨市の中村照人市長さんが,昨年12月28日に急逝されてしまいました。乙女高原の保全活動にもとても熱心で,草刈りや遊歩道作りなどの作業にも積極的に参加してくださいました。謹んでお悔やみ申し上げます。今まで本当にありがとうございました。

●3.1月31日に乙女高原フォーラムが開催されました。今回は県内のお二人の研究者から「シカ」についてのお話をお聞きしました。今まで自然保護問題というと,遊歩道をどうつくるか? 森林の管理をどうするか? など,「自然」とはいえ,「対人間」の問題ばかりでした。シカ問題の背景にももちろん人間の存在があって,人間がその原因を作っていることは間違いないのですが,我々が直面しなければならないのは「シカ」という「野生動物」つまり自然そのものです。対応は,じっくり考えて,しかも,素早く行わなくてはなりません。今回のフォーラムでは,そんなシカ問題について様々な知見を得ることができました。今後,乙女高原でどんな対応をしていくのか,皆さんで一緒に考えましょう。

●4.乙女高原にもシカ柵を設置することが決まっています。今のところ,5月9日(日)に行う遊歩道作りと平行して設置作業を行う予定でいます。今のうちから予定を空けておいてください。

●5.フォーラム開催に合わせて,1月5日から31日まで,山梨市民会館ロビーにて「ようこそ乙女高原へ」展Xを行いました。様々な展示物があったわけですが,鈴木さんと内藤さんの自然の写真,依田さんの木を使ったクラフト等を,大勢の方が見てくださいました。展示期間中に成人式もありましたから,若い皆さんも見てくださったのではないかと思います。展示品を作ってくださった皆さん,設置作業や撤収作業に参加してくださった皆さん,ご苦労様でした。

●6.原さんが昨年11月に乙女高原に設置してくださった「自動温度記録計(データロガー)」が,順調にデータを記録しています。地中温度は地面が凍り付いてしまい,春まで回収不能ですが,気温のデータについては時々回収しています。1時間おきの気温を記録しているわけですが,たとえば,1月6日から23日までのデータだと,最高気温が6.5度,最低気温がマイナス13度,平均気温がマイナス5.7度。この間,最高気温が0度を超えたのは3日間だけで、あとは全部真冬日(最高気温が0度に達しない)でした。
 いずれ原さんには温度データについてのレポートを書いていただく予定です。ご期待ください。

●7.2009年度の総会は3月14日(日)の予定でしたが,諸般の事情で前日の13日(土)に行うことになりました。お間違いのないようお願いします。また,もうしばらくしましたら,乙女高原ファンクラブ普通会員の皆さんには会報と一緒に総会の出欠ハガキをお送りしますので,ご記入の上,忘れずに投函をお願いします。特に,欠席するご予定の方は,委任状欄にもご記入の上,必ず出してください。よろしくお願いします。

●8.次回の乙女高原ファンクラブ世話人会は3月3日(水)午後7時半から9時まで牧丘総合会館で行います。ファンクラブ会員であれば世話人でなくても参加できます。おいでください。
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 1.【活動報告】
 ●第9回乙女高原フォーラム● 1月31日(日)

 冬季通行止めで乙女高原に行きづらい冬に,乙女高原ファンが一堂に集まり,一流の講師から乙女の自然を守るヒントになる話を聞こうという乙女高原フォーラム。今回で9回目となりました。

 じつは,シカの話を聞こうといのうは,厳密にいうと,今回が2回目ではなく,4回目です。
 2007年1月の乙女高原フォーラムは「調べることで見えてくる,調べることが守るにつながる」をテーマに行われましたが,ゲストの南正人さんが「調べる」ことの例として挙げられたのが,ご自分がライフワークにしていらっしゃる金華山のシカでした。南さんとは,これを縁に,シカ問題について情報交換させていただきました。
 2008年3月の座談会では,櫛形山の森林科学館の石原 誠さんに「シカのウンチから植生を考える」をテーマに話題提供していただきました。シカが櫛形山の植生に与える影響についてお一人で調査を始められたというお話でした。
 2009年1月の乙女高原フォーラムでは,東京農工大の星野義延さんから関東・中部地方の何カ所かの20年前と今の植生の多様性を比べた調査結果を見せていただき,シカの影響の大きさを驚きとともに認識させていただきました。

 そして,今回です。今回は,「まずは相手を知ることが大事だ」という観点から,吉田さんにシカについての基礎知識についてご講義いただきました。次に,シカ問題に取り組んでいる先進地として櫛形山の事例について長池さんにご報告いただきました。どれも今後の乙女高原での取り組みに参考になることばかりでした。

 さて,フォ−ラム当日,いい天気になりました。スタッフは11時に会場となる山梨市民会館に集合し,全体打ち合わせの後,各係ごとに準備を始めました。さすがに9回目ともなると,皆さん手慣れたもので,スムーズに作業が進みました。12時ころには講師のお二人が到着し,会場を確認していただいた後,昼食を取っていただきました。
 12時半から受付を開始しました。今回は,会員の加々美さんの発案で,大地震のあったハイチを支援する寄付金箱を受付に置きました。また,八ヶ岳自然クラブの皆さんが,八ヶ岳で行っているシカのライトセンサスのパネルを,甘利山倶楽部の皆さんが,甘利山で設置した手作りシカ柵の写真を持ってきてくださいましたので,これらを会場に展示させていただきました。

 フォーラムは山梨市企画監の里吉さんの司会で始まりました。山梨市長職務代理者(副市長)の井戸さん,峡東林務環境事務所長の杉村さんのお二人からごあいさつをいただいた後,植原が進行しました。
 ファンクラブ世話人の村田さんが1年間の乙女高原ファンクラブの活動をプロジェクターで紹介してくださり,植原が乙女のシカ問題の実情についてやはりプロジェクターで紹介させていただきました。
 一人目のゲスト・吉田 洋さんの紹介をファンクラブ世話人の竹居さんにしていただき,吉田さんのお話を聞きました。休憩をはさんで,二人目のゲスト・長池卓男さんの紹介を同じく三枝さんにしていただき,長池さんのお話を聞きました。フロアー全体で意見交換をし,進行のマイクを里吉さんにお返ししました。
 ファンクラブ代表世話人の古屋さんからお礼のごあいさつをいただき,同じく坂田さんが諸連絡を行い,フォーラムが終了しました。参加者は92名でした。
 みんなで大急ぎで片付けをした後,会場で茶話会を行ったのですが,なんと,34名が残って参加してくださいました。竹居さんや三枝さんが持参してくださったおいしいものをつまみながら,講師を囲んで意見交換の続きを行い,最後に,昨年のフォーラムのゲストを務めていただいた星野さんに締めの言葉をいただいて,会を終了しました。

 毎回毎回思うのですが,ホント,スタッフあっての乙女高原ファンクラブです。今回もたくさんの方がスタッフとして参加してくださいました。本当にありがとうございました。シカ問題に限らず,これからが乙女高原の正念場です。今後ともよろしくお願いします。
 お二人のお話のダイジェスト版を以下に載せます(文責 植原)。


●吉田 洋(よしだ ゆたか)さん(山梨県環境科学研究所研究員。博士(農学)
 「ニホンジカの生態と行動」


1)シカの分類
・シカは蹄(ひづめ)のある動物。「偶蹄目」の中の「シカ科」。ウシに近い動物。
・シカは草原性でも森林性でもなく,その中間(木の葉も食べるし,草の葉も食べる)

2)シカの分布と形態
・ニホンジカは朝鮮半島やアムール川流域,中国,台湾にもいる。
・日本列島のニホンジカにはエゾジカ,キュウシュウジカなど7亜種がある。
・山梨にいるのはニホンジカの亜種ホンシュウジカ。
・ホンシュウジカはオスが体重平均70s,メスが50sとオスのほうが大きい。
・亜種により大きさが大きく違っている(エゾジカ>ホンシュウジカ)。
・カモシカとシカの糞はとてもよく似ている。・カモシカはほとんど止まって糞を出すが(だから,ため糞になる),シカは歩きながらも糞をする。
・シカの蹄はじゃんけんのチョキのよう。中指と薬指でチョキを作っている。
・シカは,ウシと同じく4つの胃を持つ(反芻動物)。
・一番目の胃(第一胃)が一番大きく,この中で人間には分解できないセルロースを微生物の助けを借りて分解している。
・それだけでなく,分解作業をしている微生物自体を,第4胃で消化している(微生物がタンパク源になる)。
・前歯は下あごにしか生えてない。上あごは歯茎が硬い。上下両方に前歯があるわけではないので,食べた草にはギザギザした跡が残る。
・歯には年輪ができる。最初の1年は乳歯が生えているので,「年輪+1」歳がそのシカの年齢になる。
・シカの角はオスだけに生える。生えてから半年かけて大きくなり,1年たつとポロリと落ちる。
・出始めの角は袋を被っているようなので「袋角」,秋になると枯れ枝のようになるので,「枯れ角」と呼ばれる。
・角の形(枝分かれの様子)から年齢が推測できる。1本角はだいたい1歳。

3)シカの生活史
・春夏は鹿の子模様の毛になる。鹿の子模様は子だけでなく,大人も全部。
・秋冬になると長い毛が生えて体つきが太く見え,オスの角は枯れ角になる。
・秋になるとよく鳴く。万葉集では68首にシカが登場するが,歌の題材になっているのはシカの姿というよりシカの声(オスしか発声しない)。
・この声はなわばり宣言。発情期(交尾期)を迎えている声。
・発情期にはよく泥浴びをし,石や木の幹に体をこすりつけたり,フレーメンといって笑ったような顔になってメスの臭いをかいでいる。
・この時期,メスをめぐってオス同士の闘いが起きる。
・シカのおっぱいは脂肪分が牛乳の2.4倍。子は体重10キロになると離乳。
・オスは育児に参加しない。
・シカは増えやすい動物。頭数が増え,それまで食べていた餌資源がなくなると,他のものを食べるようになる。草→ササ→木の幹→落ち葉。

4)シカ対策
・シカ柵を作っても,たとえば車道を空けてしまえば,効果がなくなる。
・シカがいやがる音はあるが,時間が経つと慣れる。なお,超音波は聞こえてない。


●長池卓男(ながいけたくお)さん(山梨県森林総合研究所研究員。博士(農学)
 「櫛形山のアヤメが消えた? −ニホンジカの影響と対策−」


1)櫛形山で起きていること
・それまでも減少が報告されているが,2006年からアヤメが急減。
・南アルプス市が櫛形山アヤメ保全対策調査検討会(大久保栄治委員長)を立ち上げ,調査研究検討を行っている。
・咲かなくなった原因は様々考えられたが,その中で自然(植生遷移)説、ニホンジカ説が有力だった。2007年,検証実験を開始。
・ニホンジカの影響を排除するために植生保護柵を設置した(シカ説の検証)。
・柵の中で,@そのままにしておく,A大きな草を刈り取る,B根から抜き取るという3つの実験を行い,その効果を比較する(自然説の検証)
・結果、ニホンジカ説が有力。ニホンジカの入れない柵内ではアヤメが大きくなれるが、柵外ではニホンジカによると思われる摂食で大きくなれない。
・柵の中ではラン科のテガタチドリも咲いた。
・柵を作れば,柵の中の植物はシカの摂食から守れることがわかった(当面の対策として柵は有効)。
・なぜアヤメが急減した(=シカにねらわれるようになった)のか?→スズタケが枯れたことによるエサ不足? 個体数が増加したから?
・柵の中は守れても,柵の外は守れない→根本的な対策が必要
・アヤメ以外のことはどう考えるか? 櫛形山全体の自然をどう守るかマスタープランが必要。

2)南アルプスで起きていること
・絶滅危惧種キタダケソウは今のところシカに食べられていないが,キタダケソウの分布域までシカは来ている。
・ミヤマハナシノブは食べられている。
・北岳の頂上直下でもシカが目撃されている。
・高山植物はこれまでシカに遭遇したことがない→シカへの耐性がない→絶滅の危機があるのではないか。
・標高の低いところでエサ不足になり,標高の高いところに移動している?
・林道のり面に草(エサ資源)があるので,高山帯に登って行ける?
・標高が高い場所でシカを排除するのは難しい。降りてきたところで排除する?
・シカに発信器をつけると,30キロを越える移動をしたシカも見られた。中には,夏になると標高の低いところに移動するシカもあった。
・とりあえずシカ柵を設置するという緊急対策が必要。

3)ニホンジカの影響について考えること
・シカ柵は有効だが,壊れてしまうとエサが豊富な場所にシカを招き入れてしまうことになるので,こまめなメンテナンスが必要。
・調査員の一人が「櫛形山は静かになったなあ」→花を訪れるハチやアブの羽音が聞こえなくなってしまった。シカの影響が間接的に昆虫にも及ぶのでは?
・シカはエサを食べる場所(草原)と隠れ場所(森林)がセットになっているところが大好き(乙女高原も大好き?!)
・乙女高原近くの森林では,シカが木の幹をどんどん食べている。特にキハダは2003年にはシカの害はまったくなかったのに,2009年にはほとんどのキハダが被害にあっている。このままでは,この地域のキハダは絶滅するだろう。
・多くなってしまったシカを減らすには狩猟。もう一方で,シカをこれ以上増やさないようにするには,どんな対策が必要かを考えなくてはならない。
・基本的にはエサを増やさないこと(間伐後の植生,林道ののり面,牧場)
・ニホンジカ自体への対策は、食べさせない(植生保護柵などでの防除)、個体数を減らす(狩猟・管理捕獲)、個体数を増やさない(生息地管理)の3つの取り組みが必要。
・柵を作ればその中は守られるが、ニホンジカは他の場所へ行く。捕獲したとしても増やす要因があるならば減らない。
・乙女高原では、緊急措置としては、ニホンジカに食べられないようにすることがまず重要。その上で、行政等含めて、3つの取り組みを有機的に実行する仕組みづくりが必要。
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