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乙女高原ファンクラブ 公認
乙女高原メールマガジン 第320号 2015.2.2.
発行者:植原 彰(乙女高原のある山梨市牧丘町)
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▲▼ もくじ ▼▲
NEW! 0.【ニュースニュース】
NEW! 1.【活動報告】第14回乙女高原フォーラム(その1) 2月1日(日)
NEW! 2.【活動案内】2014年度総会 3月15日(日)
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0.【ニュースニュース】
●1.知事選に押し出される形で当初の予定より1週間遅い開催となった第14回乙女高原フォーラムですが,天候に恵まれ,55人の参加者を得て,無事終了しました。配信エリアが限られますが、山梨CATVではフォーラムの様子を2月13日(金)〜15日(日)の間放映します。放送時間は21時からです。1日に1回しか放映されませんので,お見逃しのありませんように。→1
●2.ファンクラブの総会は3月15日(日)午後2時からの予定です。今回は2年に一度の世話人改選(選んでいるわけではないのだけれど・・・)です。ファンクラブは市民活動・ボランティア活動をしている団体ですから,その運営をしよう・「縁の下の力持ち」をやってやろうというのは立候補です。ぜひ,世話人に立候補をお願いします。乙女高原を次の世代に確実に譲り渡すために2年間,お力をお貸しください。よろしくお願いします。→2
●3.毎年,草刈りボランティアで記念写真を撮ってくださっている古屋さんがお仲間と一緒に東京・渋谷のNHKギャラリーで開催された写真展を見に行ってきました。古屋さんの乙女高原の美しい写真と、お仲間のマレーシアの珍しい蝶たちのきれいな写真が所狭しと飾られていました。これを機に、古屋さんの乙女高原の写真展は山梨でも開催されることになったようです。話が具体的になってきたら、メールマガジンでもお知らせしますね。お楽しみに。NHKでの写真展の様子は以下
http://blog.goo.ne.jp/otomefcact/d/20150119
●4.次回世話人会は2月25日(水)午後7時半から牧丘総合会館です。ファンクラブの会員であれば,どなたでも参加できます。ぜひどうぞ。
●5.(再掲)『乙女高原大百科』(A5判600ページ)好評発売中です。1冊2,000円。送料は360円。ですから,送料込みで,1冊なら2,360円,2冊なら4,360円となります。3冊以上の送料については要相談。郵便振込でご送金ください(別途,送金手数料がかかります)。
http://fruits.jp/~otomefc/daihyakka.html
郵便振替口座等は以下の通りです。
・口座番号 00220-8-71093
・加入者名 乙女高原ファンクラブ
●6.乙女高原とは直接関係ありませんが,本メールマガジンン配信者の植原が講師を務める「おおぞらの下のおはなし会〜山梨岡神社を自然探索・冬〜」が2月15日(日)午前10時〜12時に行われます。場所は笛吹市春日居町の山梨岡神社です。対象は小中学生ですが、活動をご覧になりたい大人の方もご相談ください。自然観察と読み聞かせのコラボ、楽しいですよ。
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1.【活動報告】●第14回乙女高原フォーラム● 2月1日(日)(その1)
知事選のために押し出されてしまったのは開催日だけでなく、会場もでした。今回,初めて「夢わーく」を使ってみましたが、弱点は市民会館に比べて知名度が低く、場所が分からない人がいたくらいで、部屋は市民会館のものと同程度の人数が収容できて、なおかつこじんまりしていて一体感があり、机椅子を並び替える手間が省け、ゆったりした駐車場もあり・・・と、皆さんの評判はおおむねよかったようです。
空気は冷たいもののすっきりした青空で風もなく、絶好のフォーラム日和でした。いつものように11時スタッフ集合で、すぐに準備開始。あっという間に準備が整いました。会場の後ろのほうには、ファンクラブの展示スペースと高槻先生のご著書のコーナーを作りました。お弁当を食べ終わると、受付です。受付はロビーで行いました。
1時、市観光課の網野さんの司会でフォーラムがスタートしました。望月市長さんが主催者を代表してあいさつしてくださいました。それに続いて,スクリーンに写真を映し出しながら三枝さんが今年度の活動報告をていねいにしてくださいました。
いよいよここからがフォーラムの中心部になります。第1部では昔の乙女高原の様子をみんなで共有し、第2部で今の乙女高原について高槻先生の研究の結果見えてきたことについてのお話を聞き、第3部ではこれからの乙女高原のあり方について議論しました。
【第1部】昔の乙女高原
まず、植原が10年前と今の、同じ時期(夏。だいたい8月初旬)に同じ場所を撮った写真を比べながら紹介しました。「今」はただの草原のように見えますが,「10年前」はそれこそたくさんの花が咲いていたことがわかります。それから、もっと昔の写真、20年前,30年前の写真をお見せしました。「1週間違うと草原の色が違って見えた」というのが決して誇張でないことがわかります。これらの写真をきっかけに、昔の乙女高原の話をフロアから聞いてみました。
・写真を見ると,今はススキが旺盛になっていますが,何が原因なんですか?
・このころはずっと一面お花畑でしたね−。
・私が乙女高原に通い始めて11年ですが、はじめの頃は、これほどまでではなかったですが、お花はたくさんありました。
・乙女高原は昔ものすごくお花がいっぱいでした。40年くらい前のことです。来る人がみんな乙女ちゃんになるくらい、お花のすばらしいところでした。私は乙女高原のお花が大好きで,それを守りたくて,県の自然監視員をやっていました。ファンクラブを作り,遊歩道も作りました。このようになってしまった乙女高原が本当に悲しく、シカのやつは出て行って,人は中に入って踏み荒らさないで。乙女高原の遊歩道にロープをはったきっかけは、乙女高原を踏み荒らす人がいたからです。植物たちは一度踏まれると立ち上がることのできない茎の高い草がたくさん生えているところです。これを絶対に守っていきたいと思っています。
・スライドを見て、驚きました。どんな原因でこうなってしまったか知りたいわけですが、昔、乙女高原は地域に密着した草原でした。スキー場として認可をえたのが23ヘクタールですが、その当時はほんとうに「花の場」という印象があるわけです。
・60年くらい前はトロッコ道で馬を連れて奥千丈に行く途中、柳平までお父さんと一緒に行って,そこからお父さんが奥千丈から帰って来るまでに乙女高原に行ってました。そのときは、ここは馬の餌場だったんですよ。そのときは、花なんていっぱい咲いていて、踏んで踏んで踏み荒らしたほうなんですよ。ところが、大事にするようになってから、だんだん花が少なくなって、昔の面影がありません。あと、スキー場があった頃のほうがススキが生えなかったような気がするんです。気候の加減やシカとかあるんですかね。
【第2部】乙女高原のシカ問題を調べてわかったこと
小林さんによる高槻成紀さんの紹介の後、いよいよ高槻さんのお話が始まりました。
(※録音を元に、読みやすいように若干言い回しを変えています。したがって、文責は植原にあります)
●4年前にお話したこと
ここ4年くらいシーズンになりますと、毎月乙女高原へ行って、いろんな調査をしてきました。今日は、これまでにわかったことをご紹介したいと思います。
2011年に一度お招きいただいて、お話をしました。そのときのお話を振り返ってみたいと思います。
私はシカと植物の関係を調べてきたので、その観点から乙女高原がどう見えるかというお話をさせていただきました。日本は雨が多くて,夏は暑くなる環境ですから、短い時間で草原的な環境が森林的な環境に変化するのんですね。世界のどこでもこうなるわけではなく、日本はこの植生遷移が早く進む国だということです。
農地というのは森を伐採して利用しているわけですから、植生遷移を止めていることになり、これが人間の活動であり、遷移のなすがまま移っていってくださいというのが自然保護の活動ということになります。乙女高原の草原の保護というのは、毎年、11月に草刈りをしているのですから、普通の自然保護と違うことをしていることになります。草を刈って、林にならなくしている。ところが、シカも草を食っている。人間と同じことをやっているわけです。乙女高原で今行われていることは植物が遷移していくことを止めている、つまり、普通の自然保護とは違うことをしているというふうに認識しなければなりません。
それから、よくある「アヤメを守ろう」といったことではなくて、群落全体の組み合わせを守ろうとしてきたということも意識する必要があります。そのときに、日本の生態系のメンバーの一つであるシカがいることを異物として排除することがどういう意味を持っているのか考えて,対応しないといけないです。とても難しい問題だと思います。
では、どんな自然を守ることが乙女高原の自然をいい状態に保つことになるのか、これはみんなでじっくり考えないといけないですね・・・というのが2011年にお話したことです。
●乙女高原で調べようと思ったこと
その年の夏くらいから学生と一緒に乙女高原に通うようになりました。そのとき,自分自身に問題設定したわけです。
まず、本当にシカがいるのか、その確認をしました。そして、シカたちが何を食べているのかを知りたいと思いました。これは私の得意分野です。それから、それより2年ほど前にシカ柵を作っておられる。これはどんな効果を持っているのだろうか。柵によってシカのいなくなる状況を作っているわけですから、シカがいなくなれば植物たちはどんな反応をするのか、これは調べられるだろうと思いました。で、現実にわかってきたことは、ある植物は柵の中で増え、別の植物は減る、反対に柵の外でもある植物は増え、ある植物は減っている、これは何か理由があるはずで、それを知りたいと思いました。
それから、私は昭和24年生まれで今年大学を退官するのですが、これまで50年近く生き物の研究をしてきて、つくづく思うことは、生き物はつながって生きているということなんです。その代表的なことは「花に虫が来る」ということなんです。それによって虫は蜜を得て、花は花粉を伝えてもらう、そういうことが起きている。そういう観点で乙女高原を見てみたいと思いました。乙女高原に関わってこられた国武さんはちょうどこのテーマで学位論文を書かれたので,ちょうどいいタイミングだったなと思いました。
●高橋君の研究「シカは本当にいるのか」「シカは何を食べているのか」
最初の年は,地元出身の高橋くんが卒論でシカのことを調べてくれました。
まず、自動カメラを設置して、本当にシカがいるかどうかを確認しました。カメラにはちゃんと写っていました。出てくるルートも決まっていました。
そして、一定面積をとって、糞がどれくらいあるかを調べました。糞からは、そこそこの密度でシカがいることがわかりました。シカの糞を大事そうに持って帰って、処理をして、顕微鏡で覗くと中身がわかるんですね。植物からも植物片の標本を作っておきます。植物の表面の様子というのは植物の種類ごとに違っているので、糞の中身と植物片を見比べることによって識別できます。特にササは特徴的な形をしているので、よくわかります。これを高橋君に調べてもらいました。
2011年の5月から翌年の4月まで調べました。7月と8月はどういうわけか糞が見つかりませんでした。むきになって探したんですが、ないんです。それで、2012年にリベンジして、ようやく見つけました。
糞の中のササの含有量は11月から急に増えて6割ぐらいになって,また、少なくなっていくという傾向を示しました。双子葉植物の割合は夏は1割から2割くらいあるのですが、冬だと枯れてしまいますから、冬は少なくなっています。ススキは量としてはたいしたことないです。ススキは消化率がいいので、実際はもっとたくさん食べているかもしれませんが。
じつは、太平洋岸の東北地方から関東にかけての他の場所で調べると、夏にもっとササを食べるんですね。乙女高原ではわりと食べていません。それは、ここに草原があるからだと思っています。草原に出てくるシカたちは、冬はまわりの森の中に入って、ササを食べているんですよね。森の中のササを刈り取って持ち帰り、何本のササの中で何本食べられているかを調べると、食べられてないです。10月に少し、11月に10%くらいしか食べられてなくて、少ないなあと思っていたのですが,冬越しをして4月に残っているササ、つまり前年のササは50から60%と、かなり食われています。ササはあれだけ森の中に広がっていますから、50%つまり半分食べるというとことは、大変なことです。冬に確かに食べているということがわかりました。
ということで,乙女高原には確かにシカがいて,夏には草本類を、冬にはササをおもに食べているということがわかりました。
●高橋君の研究「シカ柵内外の植物の高さの違い」
高橋君にもう一つ調べてもらったことは、彼は植物の名前が全然分からなかったので、草の名前をいくつか教え、テープを付けて、毎月,高さを計ってもらいました。柵の内外で20本ずつです。イタドリ、カラマツソウ、クガイソウなどは最初(6月)から高さが違っていて、中には倍も違うのがありました。ただし、ススキとヨツバヒヨドリは柵の内外で高さが変わらなかったです。次の年に追加的に調べましたが、やはりヨツバヒヨドリは高さが違っていなかったです。じつはヒヨドリバナ類は特殊な臭いがするみたいで、シカは嫌っていて、食べないです。でも、ススキは食べます。食べられたり食べられなかったり、同じ食べられても反応が植物によって違うということがわかってきました。
植物の量を調べてみました。全部を刈り取るわけにはいかないので,植物が被っている面積と高さからバイオマス指数を出してみると、これはちょっと意外な感じがするんですが、柵の中のほうが少なかったです。場所によってバラつきが大きいですが、少なくとも「柵の外はシカに食べられているからといって、必ずしも草の量は少なくはない」という結果です。つまり、植物の量は柵を作ったからといって増えたわけではないということです。
私が興味を持つのは、その内訳です。調べてみると,柵内のバイオマスの6〜7割を占めているのは,大型の虫媒花、つまり、きれいな花を咲かせて虫にきてもらっている花たちでした。柵の外では数パーセントしかありません。一方、柵の外は9割近くがススキに代表されるイネ科植物でした。
このように柵の中と外では、その内訳に大きな違いが表れていました。代表選手は、柵の中は大型虫媒花、虫で受粉されるきれいな花を咲かせる植物たち、柵の外はススキに代表されるイネ科植物に置き換わっていたというわけです。で、だれでも思うわけです。なんでこんな違いが起こるのか?
さきほど調べたデータを一番大きい植物から2番目,3番目…と順番に並べてみました。すると、柵の中のグラフは少しずつ減っていて,1番と10番とでは高さがさほど変わりません。ところが,柵の外は1番がどーんとあって、ぐんと下がって2番以降が続いています。外の1番はススキです。ススキが一人勝ちしている状況です。なぜ、こんなことが起こるんでしょうか?
※ここで、高槻さんは脱線話に入りました。モンゴルの草原の植物と乙女高原の植物が、どれくらい似ているかを写真で紹介してくださいました。遠く離れたモンゴルと乙女高原ですが,まるで姉妹のようだと思いました。大昔、大陸と日本は陸つながりになっていて(氷河期)、そのときに大陸の植物たちが日本に渡ってきたんななあと思ったそうです。
●刈り取り実験
「なぜ、柵の内外である植物は増え,ある植物は減るんだろうか」それを確かめるために、刈り取り実験を始めたわけです。2013年の6月16日に調査をしました。記録を取ったり、印を付けたりした後、宮原さんに機械でギューンと刈っていただきました。機械でやるとあっと言う間ですね。
6月に刈ったのに、9月にはかなり回復しています。恐ろしい植物ですね、ススキは。刈り取られても平気です。
合わせて、こんな実験もしました。6月、草が少し伸びてきた段階で、名前を調べて、印を付けて、地上10センチくらいのところで、ハサミでちょん切りました。夏になって、それを調べます。6月に印を付けたときには赤い色のテープなのでとても目立っているのですが:夏になると本当に見つけづらくなります。まわりが生い茂ってしまうからです。探して観察すると、枯れて腐ってしまう、かろうじて生きてはいるけどほとんど瀕死状態、切られても葉っぱを盛り返しているなど、種類によって反応が違うことがわかりました。
6月に20本ずつに印を付けました。これがスタートです。8月の生存率を調べてみると、ススキとクガイソウは20本全部が生きていました。ヨツバヒヨドリ、イタドリ、ヤマハギ、キンバイソウは半減、マルバダケブキ、タムラソウ、シシウド、ワレモコウは全滅でした。
次に生き延びていたやつの高さを調べてみました。ススキとヤマハギは高さは変わりませんでした。ヤマハギは低木で枝をたくさん出し、わきからも芽を出すので、もともと刈り取りに強い植物です。しかし、クガイソウ、イタドリ、ヨツバヒヨドリは全部低くなっていました。生き延びてはいるけれど、主軸が切られて、わきから出るわけですから、小型化してしまうわけです。
まとめると、ススキは生存率も回復力もありますが、他にこの2つの力を併せ持つ植物はなく、ススキが一人勝ちをしているわけです。
シカはススキも食べるし、ほかの大型草本も食べるわけですが、それに対する反応の仕方が植物によって違うわけです。
ススキのように、ストローのような丸い筒状の茎を持っていて、内側からどんどん葉を出すという構造を持っているイネ科植物は節の部分に生長点を持っているので、生長点の上を切られても平気なんですけど、普通の草本は茎の先端に生長点がありますから、これを切られるとオジャンなわけです。元気がいい植物は、その下に不定芽を持っていて、そこから芽を出せるものもいるのですが、出せないものが多いんですね。
●加古さんの研究「花と虫のリンク」
次の年,加古さんという学生が花に来る昆虫の記録を取りました。花と虫のリンク=つながりを調べたわけです。林と草原とでは:花の咲き方や、そこに来る昆虫にどんな違いがあるのかを調べました。ルートを決めて、毎月2回、虫が花に止まっていたらその記録を取るということを続けました。
草原と林では、花の数がつねに草原のほうが多くて、特に夏から秋にかけては数倍の違いがありました。
また,訪花昆虫の数は、花の数ほどの違いはなかったけれど、草原の方が多く,差が一番大きかった秋には4倍になっていました。「林の花と虫のリンク」密度と「草原の花と虫のリンク」密度を比べると、草原のリンクの密度のほうが高かったです。とはいえ、草原には草原にしかない、林には林にしかない「花と虫のリンク」もあるので、林も草原も両方大切だと思われます。
高橋君はシカ柵内外で植物の背丈を比べ、シカ柵内の植物の背が高くなることをつきとめていたので、加古さんは、花の数をシカ柵内外で比べてみました。花の数を調べるというのは相当大変なことなんですけど、その結果、柵の外は平均すると1平米あたり3個しかなっかたのに、柵の中だと300を超える花が咲いていて、100倍も違うことがわかりました。
まとめますと、シカがいろいろな植物を食べますが,ススキだけは大丈夫。他のきれいな花を咲かせる植物は全滅したり半減したり小型化するので花が付かなくなってしまいます。おそらく昔は「柵の中」と同じ、今は「柵の外」と同じ状況が起きていると考えていいと思います。
加古さんは「花にこれだけの違いがあるんだから,昆虫に影響がないはずはない。それを後輩に調べてもらいたい」といって卒業していきました。バトンを受け取ったのが、今3年生の大竹さんです。
加古さんは歩きながら「花と虫のリンク」を記録していったんですが、大竹さんは花の前に座って虫が来るのを待ち、記録するという方法で調査しています。労力のかかる仕事ですが,それを柵の外と中で行っています。そのエッセンスを紹介しますと、6月上旬から調査を始めたのですが,6月上旬だけは柵の外のほうが多かったです。キンポウゲの花に虫が来ていました。すぐに逆転され、特に9月上旬には加古さんの調べたのより数倍の開きが観察されました。大事なことは、柵の中では、その月ごとに花が次々に咲いて、そこに虫が来ている、つまり、花が「咲きつないでいる」という感じなんですが、柵の外だと、春にミツバツチグリとキンポウゲがちょっとあって、夏にヨツバヒヨドリが咲きますが,後は断絶するという感じになっています。これは、次回のフォーラムで紹介してもらいますけれど、そういったデータがとれています。
私自身と3人の学生がやってきたことをまとめますと、
・シカは夏はイネ科、冬はミヤコザサを食べている。
・シカにとって食物として重要でないが、さまざまな草も食べている。
・シカが食べると多くの双子葉草本は枯れてしまうか、生き延びても背が低くなる。
・ススキは食べられても平気。
ススキにとってむしろ怖いのは,刈り取りがなくなって、他の植物が入ってくることだろう。
ススキは直射日光があたらないとすぐにだめになるので、草を刈ってひなたを作るのは好都合。
皆さんはシカとともにススキの繁栄を手伝っているとも言える。
・虫媒花が減ってススキが増えたことはまちがいないだろう。
・植物が変化するとそれを利用する昆虫も変化する。
・ヨツバヒヨドリ、ハンゴンソウ、マルバダケブキは減らない(増える?)。
これらの植物にマルハナバチがいっているので、全部の植物がなくなって、マルハナバチが減っているわけではない。ただ、特定の植物が生き残ると、それを利用できる昆虫からいいけど、それを利用できない虫が淘汰されてしまう。
私がずっと調査している宮城県の金華山は、乙女高原の10倍くらいの密度でシカがいます。私が学生の時分には草丈もかなりあって歩くのが大変でしたが、30年ほどの間にシカが増えて,芝生に変わってしまいました。日本庭園でもゴルフコースでもありません。シカが毎日植物を食べた結果、刈り取りに強いシバが残ってしまいました。むしろ、シバはススキ以上に刈り取ってもらわないと生きられないのです。芝生にところどころ、植え木のような盆栽のような木がありますが,メギという木で、トゲがあります。トゲが痛いので、シカはつまみ食いはするんですけど、そんなには食べません。
乙女高原がこうなったら嫌ですよね。でも、放っておいたら、こうなる可能性はあるんですよ。ススキが減るほどのシカの密度というのもあるんです。
シカの密度とそれに対応する植物群落というのはいろいろなところで見ていますが、たとえば伊豆半島なんていうのはこれに近いです。林の下には何もありません。アセビという有毒植物だけが残っています。櫛形もそうだし、南アルプスも危ないです。山梨県、結構危ないです。乙女高原だって、楽観はできません。
乙女高原はどうあるべきかということについては、私が調べてここまでわかったんですが、「こうしたらいいですよ」というのとはちょっと違います。それは地元の人たちで答えを出すべきです。ただ、「どうすれば、どうなるか」「このままだとどうなるか」という発言はできます。
私たちは自分で自然の中に入り、自分の目で自然を観察しているわけですが、乙女高原で何がありがたいかというと、地元の人が一緒に研究のサポートもしてもらえたり、いろいろな活動に参加させてもらったりしていることです。とてもいい経験をさせてもらいました。
非常に熱心なファンクラブの人,それにプラスですね、草刈りの時に200人も市民が集まって,ボランティア活動をしている・・・そういう意味でもこの草原は歴史的産物だと私は思います。活動がいろいろと形を変え、農家の草刈り場から馬草場という話もありました。それがスキー場になって、自然観察、環境保全の場になってときていますが、植物たちは自分の性質を変えていません。人のかかわり・動物のかかわりによって反応していく。ですから、どういう状態の自然がいいかをよく考えて管理していってください。
手つかずの屋久島や知床や白神の自然とは違うんだ・・・それが今日、私がお伝えしたかったことです。
今後ともよろしくお願いします。
(高槻さんのお話はこれで終わり。次回は第3部の報告をします)
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2.【活動案内】 ●2014年度総会ならびに座談会●
皆さん、ぜひご出席ください。
【総 会】
日 時 3月15日(日)午後2時〜(準備は1時半から)
場 所 山梨市牧丘総合会館 3階 大ホール
次 第
1.開会のことば
2.代表世話人あいさつ
3.議 事
@2014年度活動報告
A2014年度収支決算報告
B会計監査報告
C2015年度活動計画案
D2015年度収支予算案
E新世話人の承認
F新旧世話人のあいさつ
Gその他
4.その他
5.閉会のことば
【座 談 会】
今回はとくに話題提供者は決めず、ざっくばらんに話し合います。
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