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乙女高原ファンクラブ 公認
乙女高原メールマガジン第386号 2018.2.1.
発行者:植原 彰(乙女高原のある山梨市牧丘町)
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▲▼ もくじ ▼▲
NEW! 0.【ニュースニュース】
NEW! 1.【活動報告】続・乙女高原フォーラム 01月28日(日)
2.【活動案内】乙女高原自然観察交流会 02月03日(土)
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0.【ニュースニュース】
●1.前号でご紹介した北垣さんのお話はいかがでしたか? 今号は続編です→1
●2.3月11日(日)14:00からのファンクラブ総会終了後、座談会を予定しています。座談会では毎回、どなたかに「話題提供者」をお願いし、スピーチをいただいて、それをもとに話し合いをしています。今回は県職員の方に来ていただいて、乙女高原を含む峡東地域の環境保全施策についてお話していただく計画です。「これについての話を聞きたい」といったリクエストがありましたら、ぜひ、事務局にお届けください。
●3.(再掲)次回世話人会は1月18日(木)です。午後7時30分、山梨市役所牧丘支所1階の談話室です。会員であれば、どなたでも参加できます。ぜひご参加ください。
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1.【活動報告】 ●続・第17回乙女高原フォーラム● 1月28日(日)
◆北垣憲仁さんのお話 「小さななかま(哺乳類)たちの暮らしぶり」
②乙女高原とその周辺の哺乳類 (1モグラの仲間 2ネズミの仲間)
フィールドでの観察を手間の掛かる手法でやっていますので、あまりたくさんのことは判っていないのですが、観察の面白さも含めて少しお話させていただきます。合わせて、私の経験をもとにした観察の方法についてもご紹介します。
◎カワネズミ
まずモグラの仲間です。乙女高原に川はありますか? 当然、カワネズミも住んでいると思います。水が滝のように流れていて、淵があって、また滝があってというのを繰り返しているようなところです。カワネズミはそんなところに住んでいると教わったので、そんな場所を都留で探しました。観察していると、川岸の石の上に糞がまとまってあるのに気づきました。顔を近づけると強い臭いがします。臭いだけでカワネズミと言えるのかというと、それだけではだめなので、夜、行ってみました。そうしたら、糞をするカワネズミに出会えました。なぜ川岸の石の上にまとまった糞をするのかは謎ですが、カワネズミがいる証拠です。川岸を探すと点々とありますので、ぜひ見つけてみてください。
【カワネズミが川の中で泳いでいる様子を動画で見せてくださいました。会場からは思わず「おー」という声が・・・】
モグラの仲間なのに速いですよね。水槽の中に魚を入れておくと、カワネズミが入ってきます。モグラと同じでカワネズミって目はほとんど見えないのに、ちゃんと魚を捕まえます。なんで、目はほとんど見えないのに、自分と同じくらいの大きさの魚を捕まえられるか、謎ですよね。謎なんだけど、このような行動や生態は飼育していたら判らないわけです。飼育するとカワネズミはものすごくストレスを感じて、死んでしまったり、正常ではない行動を取ったりします。どうやってカワネズミが川の中で魚を捕っているのかを知ろうと思ったら、「観る」ことが必要なんです。魚に一度食らいついたら放さず、魚が弱るのを待ちます。陸上だったら餌を捕まえたらすぐに持ち運べばいいのですが、水中という不安定な場所ではそうはいきません。カワネズミの狩りの知恵とも言えます。また、定説だと魚の頭を捕まえることになっているのですが、魚のしっぽを捕まえるのも見ています。どこでも噛みついたら離しません。
そんな狩りの様子を観察しやすくするための装置を作りました。といっても単なる水槽です。水槽の中に川の水をパイプで引き入れて、魚を入れておき、カワネズミが来るのを待つという装置です。私はとても鈍いので、カワネズミの観察を始めて10年目もたってから、「そうだ、水槽を使えばいいんだ」ということに気づいたのです。これを使うとカワネズミがどうやって魚を捕まえているかがよく判ります。
カワネズミが登れるように水槽の横に斜面が作ってあるので、それを登ってカワネズミがやってきます。みると、鼻先にひげが生えているのが目立ちます。このひげが重要なのです。水中でもひげが開いていて、アザラシのようです。目はほとんど見えませんから、おそらく、鼻やひげの力を使っているのだと思います。
カワネズミが来るのを水槽の前でみんなで待つという観察会も行っています。待つ時間はまちまちなのですが、実際に見えると感動しますよ。彼らが住んでいる実際の場所で、風を感じながら観ていると、その生きものがどういう力を持っていて、それをどのように発揮するかが本当によく判ります。楽して観ようとしても、わかんないですよね。
◎ヒミズ
皆さんの親指くらいのサイズです。世界でも最小クラスの、カヤネズミと同じくらい小さな哺乳類です。落ち葉の層にいます。乙女高原の草原にもいるはずです。トンネルを作ります。地面に板が置いてあり、それをどかしたら、トンネルが出てきました。それを応用してみました。地面にガラスをおいておけば、その下でヒミズをトンネルを掘っている様子が観察できるわけです。モグラも同じようなトンネルを作りますが、大きさが違います。ヒミズは3㎝くらいで、モグラはもっと大きいです。毛並みがとてもきれいです。青みがかっていて、金属光沢があり、ビロードのような毛で
す。ぜひ観てみてください。
トンネルの途中に置いてあるのはヒマワリの種です。モグラの仲間って普通ミミズが主食なんですが、ヒマワリの種にも十分反応します。
トンネルを進んできたヒミズが、途中でバックしてターンします。ここがポイントです。トンネルの中は原則一方通行しかできないので、トンネルの中でターンできるというのは地中生活を送る動物の大きな特徴です。ネズミはこのようなターンはしません。できません。
◎ヒメヒミズ
ヒミズに似ていますが、住んでいる場所が違います。溶岩や岩場にいます。乙女高原でも標高の高いところにいると思います。大きさはだいたいヒミズと同じですが、ヒミズがお腹がぺったりと地面に付く感じなのに対して、ヒメヒミズは丸っこいです。大きな特徴は、後ろ足で立つことができる点です。後ろ足で立つことができるということは、地面の上に出てくるということです。地面の下も地面の上も両方活用できるということです。大人の親指サイズの動物です。鼻を観てください。おもしろいでしょ。ゾウの鼻みたいに見えませんか?自在に動いて、鼻でものを集めて、つかんで口元に持っていきます。
◎モグラ
しっぽの長さを比べましょう。ほとんど退化しているのは地中生活者です。だからモグラのしっぽが一番貧弱です。それに対して、カワネズミのしっぽは長いです。川の中を泳ぐので、舵の役目をしたり、体を保持したりする役割があるので長くなっています。モグラの手はとても大きいです。
冬場にできるモグラ塚というのがあります。草原の中に塚がまとまっている箇所があります。まとまり一箇所分が一頭のモグラの分です。モグラは縄張りを作るので、縄張りがどれくらい広くて、どれくらいの量の土を出しているかが判ります。地面の下には広大なトンネルが隠れているはずです。大きさによって違いますが、一つのモグラ塚の土は7㎏。1冬で1頭が1tくらいの土を下から上へと掻き出しています。モグラは農家から嫌われていますが、本当は地面を耕している動物なのです。
モグラのトンネルの断面はまん丸ではありません。ちょっと偏平、楕円形です。それがモグラ類のトンネルの特徴です。指が3本入るくらいだとモグラのトンネルです。関西には大きいコウベモグラというのがいまして、指4本くらい入りますが、乙女にいるモグラは3本です。一方、ネズミのトンネルは断面がまん丸です。どうしてかというと、体のつくりが違うからです。真ん前からみると、モグラは偏平で、その形に合わせてトンネルを掘っていきます。
モグラを観察することはほとんど不可能です。昼間、顔を見せることはないし、道の上を歩いているわけでもないし、出会うのはほぼ不可能だと言われています。でも、装置を工夫すると観ることができます。モグラ塚を一つ、崩してならします。その上に板を載せます。待っていると、板の下にトンネルができます。トンネルができ始めたら、板の代わりにガラスを置いて、夜、観察すると、無理だと言われていたモグラの観察ができます。静かに観ていれば、想像とは違うモグラの姿を観ることができると思います。たとえば、トンネルを進んでいる時、モグラの体って、ぐーっと伸びるんですよね。
モグラはいったんトンネルを作った後、そこから天敵が入ってこないように埋め戻しをします。だから、春、乙女高原に行くと、地上に土のかたまりが観られると思います。ゴルフ場にもよくできると言われています。それらは、たいてい、モグラが土を埋め戻した跡です。
このようにちょっとした工夫で目の前で野生動物の観察ができます。どうしてこんな工夫をするかというと、動物のほうは無理に出てきているわけではありません。自然な形で出てきているわけです。観察する動物にあまりストレスを与えていません。相手の生き方を尊重しながら観察することができるわけです。ただ、私たちがフィールドに出ること自体、動物たちにとってはストレスになるので、入り方や付き合い方をうまく考えていかなきゃならないなと思います。私たちの課題です。
◎ネズミの仲間
ネズミの仲間は非常に種類が多いです。哺乳類はだいたい4000種くらいいるんですが、その中の40%、1600種くらいはネズミです。日本には17種類います。狭い国土に17種もいるんです。ネズミの特徴は暮らしている環境の多様さです。土の中にも、草原にも、樹上にもいます。もう一つは食べ物の幅広さです。木の実を食べるもの、草の種を食べるもの、雑食のもの。それから、多産であるというのも特徴です。
草原に住んでいるネズミは、おもに3種類だけです。カヤネズミ、ハタネズミ、沖縄にいるハツカネズミです。家の中に入ってきたネズミというのもいます。クマネズミ、ハツカネズミ、ドブネズミ。嫌われ者ですが、ネズミの中のパイオニアです。もともと野外で暮らしていたものが、人の暮らしの中に入ってきて、生活を成り立たせています。
ネズミは見分けるのが難しいです。私も始めのころは判りませんでした。でも、見慣れると判ってきます。ヒメネズミは体に比べ耳が大きく、目が大きくて、鼻がとがっています。アカネズミは、ヒメに比べ鼻面が太い感じがします。シャープな感じではありません。感覚的なんですが、見慣れると、区別がつくようになります。
◎ヒメネズミ
木登りが得意です。乙女高原の林の縁に生息し、草原の中にも入っていると思います。親指よりちょっと大きいくらいのサイズです。動画を撮ると、ヒメネズミの他にも、コウモリやヤマネがやってきます。ヤマネは天然記念物になっていますが、結構数はいて、乙女高原にも暮らしていると思います。やはり木登りが好きです。固いものが食べられないので、柔らかい木の実などを食べています。
ヒメネズミはツリバナの実が大好きです。ツリバナは赤い実を付けますが、その下で待っていると、ヒメネズミがやってきます。両手でツリバナの実を取ります。ネズミの仲間は必ず両手でものを取ります。
ネズミが賢いかどうか迷路を使って行う実験があり、ネズミはあまり知能がないと評価されていますが、適切な枝を選んで、どうすれば実を取れるのかしっかり判断しています。ネズミの暮らす環境に置かれると本来の能力を発揮します。だから、本来の環境と切り離して実験するのはあまり意味がありません。切り離されて迷路の中に入れられても、ネズミは混乱するばかりです。それで本当の能力を計ろうというのが無理です。自然の中で観ることにこそ意味があるんだと思います。
ツリバナの下で、ツリバナの食痕が見つかったら、そこにヒメネズミがいるなと思ってください。
◎アカネズミ
日本固有種です。歯がちょっと赤いのが特徴です。ウサギなんかも似た形の歯をもっていますが、赤くはありません。赤いのは、歯のエナメル質に鉄の成分が入っているからです。門歯は伸び続けるので、固いものを齧り続けなければなりません。食事をする場所は決まっていて、木の根元などの空間です。そこにクルミの実がかたまってあったら、食事場所です。
クルミの実に丸い穴を開けて中身を食べます。クルミの実を二つに割って食べるリスの食べ方と違います。アカネズミの場合、クルミに必ず2つの穴を開けて、中身を食べます。しかし、ウメの種の場合、1つしか穴を開けません。ウメの種の中には仕切りはありませんが、クルミには仕切りがあります。仕切りに当たると、その裏にまだ食べ物があると判るんでしょうね。
いろんな実を集めてくると、こういったことが判ってきます。そして、改めてネズミの賢さに気づかされます。
◎カヤネズミ
カヤネズミの巣は草原に作られます。おもしろいですね。これだけたくさんのネズミがいながら、草原に出ていったネズミは日本では3種類だけ。パイオニアです。草原で暮らすというのは、小さな哺乳類であるネズミからみると、森の中で暮らすようなものです。身を隠すこともできます。葉っぱの上に出てくるためには、体を軽くする必要があります。哺乳類は昆虫とは違って、一般的に体を大きくする方向へと進化していきました。でも、カヤネズミは逆なんです。体を小さくしました。そうやって草原で暮らしていけるようになりました。
アカネズミやヒメネズミと違って、体のラインから耳がはみ出ていません。目が前を向いています。森の中の動物って、たいがい目は前に付くんですよね。ムササビなんて特にそうです。どうしてかというと、木までの距離を正確に計らなければならないからです。人間も同じですよね。木の上に住んでいる動物はたいがいそうなるのですが、カヤネズミの目も前に付いているのですから、カヤネズミにしてみると、森に住んでいるのと同じなんだろうなと思います。
しっぽが長くて、何かにつかまったら、そこを支点にして、体をブランコのようにすることもできます。とても機能的なしっぽです。
カヤネズミの子は毛並みの色が濃くて、赤っぽいです。本当に暑い時期、7月下旬とか8月上旬になると、草原に出てきます。葉の上でひなたぼっこしています。草原の中をゆっくり歩くと、見つけることができますよ。
カヤネズミを観察していると、おもしろい行動に出会えます。動いたり止まったりを繰り返します。普通のネズミとちょっと違います。一瞬止まる行動をフリーズといいます。向こうからアカネズミなんかがやってくると、本当に体の動きをピタッと止めます。息を殺しているようです。樹上に生きる動物、たとえばリスもフリーズをします。天敵がやってきたりすると、ピタッと動きを止めて、身を隠します。カヤネズミを観ていると、お尻をこすりつけるような行動をとることがあります。何をやっているのか、どんな意味があるのか、よく判りません。リスもやるんです。木の上にペタッとなってお尻をこすりつけます。匂い付けだと思うんですが、カヤネズミも匂い付けかなあと思いながら観ています。
観察中に、私が大きな音を立ててしまったことがあります。すると、カヤネズミはポロッと落ちてしまいました。これは、天敵が近づいた時にとる、緊急避難の行動です。
しっぽを草に巻き付けることができますから、取りたいものが下にあっても、上手に取ることができます。フィルムケースに小鳥用の餌を入れて、そこに出てきたカヤネズミを観察することがあります。それほど食べません。アカネズミなら一晩で1ケース分食べてしまいますが、カヤネズミは上の方5㎜ほど食べたらもう満腹です。逆にいうと、食べた量からカヤネズミがいるか推定することができます。カヤネズミは普段は草の実などを食べています。タンポポの種が大好きです。カラスノエンドウの種も食べます。昆虫を食べるという記録もありますが、私はまだ昆虫を食べているところは観たことがありません。
不思議ですよね。小さな植物の種を食べながら、寒い環境でも暮らしていける小さな哺乳類というのは、いったいどういう暮らし方をしているんだろうと思います。本当に謎が多いです。
冬の間は土の中にいます。私が観察していると、土の中から出てきます。ただし、カヤネズミはトンネルを掘れるような体のつくりをしていないので、どのように他の生きものと共存しているのか、棲み分けているのか、よくわかりません。私がフィールドにしている草原にはカヤネズミの他にアカネズミやハタネズミも住んでいます。ときどき、ヒメネズミもやってきます。ドブネズミもやってきます。いろんなネズミたちが住んでいたり、やってきたりするんですけど、その中でどうやって暮らしを成り立たせているのか、まだよく判りません。
◎ハタネズミ
ハタネズミのトンネルは断面がまん丸です。これが楕円形のモグラの穴と違うところで、直径3㎝くらいの丸いトンネルです。体がずんぐりしているからです。ハタネズミはトンネルを掘ることができます。農家の方がよく「野菜を食べられた」とおっしゃいますが、モグラではなくハタネズミです。ハタネズミは野菜が大好きです。ハタネズミはススキもそうですが、ササが生えている下によくトンネルを作ります。ハタネズミの発生には波があって、大発生する年があったり、まったくいない年があったりします。極端です。私のフィールドでもそうです。巣にはササの葉を取り込んで裂いています。そんなに細かくは裂いていません。巣は土の中にあります。私はハタネズミが葉を細かく裂いて作った巣というのを観たことはありません。
ハタネズミの体の特徴はしっぽが短いことです。色はバリエーションがあり、褐色が強かったり、グレーが薄かったりします。目は小さいです。耳も小さいです。ハタネズミは日本にしかいないネズミです。
ハタネズミに似たネズミに、聞き慣れないと思いますが、スミスネズミというのがいます。昔はカゲネズミと言われていました。住んでいる場所が重なることもあるので、もしかすると、乙女高原にもいるかもしれません。スミスネズミは、よく見るとハタネズミとは違います。色はバリエーションがあるので、識別の決め手にはなりません。ハタネズミに比べて、目も耳も少し大きいです。前から見るとまん丸で、しっぽが長いです。あんまりものおじしないので、こっちが静かに観てさえいれば、わりと簡単に出てきてくれますし、自然な行動が観察できます。岩の隙間や木の下が大好きです。
③乙女高原で見つかった巣のナゾ
動物によって巣の作り方はだいたい決まっていますが、バリエーションがありますので、見つかった巣が何なのか決めつけるわけにはいきません。
哺乳類は自分の巣を大切に作りますから、ムササビのような大きな哺乳類でも、スギやヒノキの樹皮を細かく裂いて、自分たちの寝床や子育てのベッドにしています。保温性が高くて、快適な巣です。
ヤマネは巣の中にスギの樹皮やコケを入れて作ります。
鳥の巣箱を掛けておくと、中に落ち葉がいっぱい入っていることがあります。ヒメネズミの巣です。ヒメネズミは、中で巣材を細かく裂くことはありません。落ち葉を持ち込んで、そのまま保温剤として使いますので、カヤネズミなんかとは違います。だいたい6月ころ、作ります。
カヤネズミの巣は、イネの葉で作られることもあります。スゲにも作ります。ハンモックのような巣です。出入りする穴がありますが、ヘビなどの天敵が入ってきても逃げられるように、穴が1つではなく、2つの場合が多いです。3つ作ることもあります。中にススキの穂を入れることがあります。しっかりした二重構造で、外はススキの葉、内側はススキの穂の巣です。ここで子を産み、育てます。
乙女高原に似た草原である富士山麓の梨ケ原では、毎年ではありませんが、野焼きをします。野焼き後に探すと、乙女高原で見つかった巣と同じようなものが見つかります。土の中で見つかることもありますし、ススキ株の内側で見つかることもあります。地上に出ている巣もあれば、半分、土に埋もれているものもあります。地下に埋もれている巣には出入りするための穴が開いています。そして、不思議なことに、まわりにトンネルがあるんです。繰り返しになりますが、カヤネズミはトンネルを掘ることができません。
富士山麓で見つかる巣には、特徴がありました。
第一に、見つかる年と見つからない年があるということです。見つかる年にはまとまってたくさん見つかるのに、翌年、同じように見つかるとは限りません。
次に、地上にできた巣と半地下にできた巣がありますが、半地下にできた巣の下にはトンネルがあって、巣の穴とつながっています。その巣は、秋から冬にかけて作られるようです。どうして夏に見つからないかというと、あまりにも草が繁ってしまって見つからないのかもしれませんが、秋になると見つかります。ただし、梨ケ原では、地表の巣はありますが、ススキの上の方にはできません。この5年間で茎上巣は1個しか観ていません。
どんな動物がこれを使っているのか、観察して確かめました。地上の巣を使っていたのはカヤネズミでした。しっぽが長く、目が大きくて、子どもではなく大人の毛色でした。
一方、半地中のトンネルができていた方の巣をどんな動物が使っているかは、まだよく判りません。ナゾです。
④身近な哺乳類を観察する魅力
私は、このような時間がかかる方法、原始的な方法でしか観察してこなかったので、皆さんにその魅力をあまり伝えられなかったかもしれませんが、哺乳類は感情移入しやすくて、気持ちを読み取りやすいということがあります。それから、誰でも参加できます。観ればいいのですから。別に学問に寄与しなくてもいいわけですから。
自分の感覚が観察によって鍛えられていくと、楽しい世界が広がります。私も、どちらかというと、研究というよりも、喜びを感じる方に主眼を置いています。レイチェル・カーソンが「センス・オブ・ワンダー」と言っていますが、「神秘な驚異に目を見張る力」とでもいうでしょうか、そんな感性を、私は動物の観察を通して鍛えていきたいと思っています。私自身の感性がにぶっているので、他の方々と一緒に観察して、学びあいたいと思っていて、それが支えとなって、いろいろな観察の工夫をしてきました。まだまだ課題はありますが、どうしたら、相手の生活を脅かすことなく、その不思議な世界に近づくことができるのか、それを通して、自然とのうまい付き合い方を考えていくというのが、私が考えている【フィールド・ミュージアム】というものです。そんなことを皆さんと一緒に考えていけからと思っています。剥製で観る動物の世界ではなく、生き生きと生活している動物たちの姿を観察する工夫です。
私は、これからも乙女高原の活動に刺激を受けながら、私自身のささやかな取り組みも継続させていきたいと思っています。せっかく皆さんとお会いできたので、また、どこかでお会いしながらお話できるといいなと思っています。大学ではムササビ観察会もやっていますので、ぜひ一緒に観ましょう。
ありがとうございました。
Q:スズタケ(笹)の花が咲くとネズミが増えて、天敵であるフクロウやキツネが増えるということを聞いたことかありますが、研究事例はありますか?
A:笹の花が咲くと、その年の秋からハタネズミの仲間が増えるという記録はあります。その翌年くらいに地面から出てきた笹の茎を見ると、上部が齧られたものが出てきます。鋭い食べ跡ですが、ノウサギのものとは違います。そんな観察をしてみたらいかがでしょうか。
Q:モグラは太陽の光を浴びると死んでしまいますか?
A:じつは今日、モグラの剥製を持ってきているのですが、それを出すのを忘れていました。観てみてください。梨ケ原で観た巣も持ってきました。乙女高原のものと同じではないでしょうか。
モグラが日を見ると死んでしまうというのは事実ではありません。モグラが路上で死んで転がっていることがあるのは、モグラは単独性なので、子どもができて、大きくなると、親のなわばりから離れて、自分の縄張りを作るようになります。その移動している間に、キツネにやられたりといった事故にあうからです。トンネルを掘って、一から自分のすみかを作っていくのはすごい労力です。だから、モグラは自分で作ったトンネルをとても大事に使います。
Q:もし、本当に乙女高原で見つかった巣がカヤネズミのものとすると、どうして、ぼくらのフィールドで見つかる巣はカヤの上の方で、乙女高原のは地表なんでしょうか? あと、コウモリの種類を知りたいです。
A:ススキの上に作るのが一般的なカヤネズミの巣です。ところが、標高が高くなると、どうもそうではないようです。それが不思議です。梨ケ原は広いススキ草原ですが、上に作られた巣は一つしか観ていません。
また、(その地域にいる)全てのカヤネズミが巣を作るのか、疑問に思っています。観察していると、カヤネズミの姿をよく観るのに、まわりに巣がないということがあります。カヤネズミの巣を見つけて、それがカヤネズミのいる証拠だとすることが一般的ですが、巣がなくてもカヤネズミがいることもあるということです。
観察していると、図鑑や研究書に書かれていることと違うことっていっぱいあって、だからこそ、発見や驚きがいっぱいあります。本に書いてあることをそのまま受け入れてしまうと、そういうものだと思ってしまいます。「どうして?」といった疑問が新しい発見につながります。ぜひ、いろいろな草原に行って、観てみてください。そして、私に教えてください。
おそらく、全てのカヤネズミが巣を作っているんじゃないと思います。また、標高が高くなると、ハタネズミの作る巣も、標高の低いところの巣とはまた違ってくるかもしれません。それは歩いて観てみないとわかりません。それがフィールドの楽しみです。
コウモリの件ですが、キクガシラコウモリは洞窟などに、傘を逆さまにしたような形で止まりますので、違います。でも、何コウモリかはわかりません。
Q:梨ケ原で3個、カヤネズミの巣を見つけています。膝高から胸高くらいの高さ。
A:3個というのは少ないですね。多いところはまとまって巣があります。
Q:なかなか個体を観るのは難しいですよね。安いセンサーカメラでも映りますか?
A:大丈夫です。
ここで、マイクを司会の穐野さんにお渡ししました。お礼のあいさつはファンクラブ代表世話人の三枝さんから。熱のこもった長いあいさつでした。そして、諸連絡を芳賀さんにしていただき、フォーラムのプログラムを全て終了しました。
会場の片づけを終え、部屋を移して茶話会を行いました。20人くらいの方が参加してくださり、お茶をのみながら、楽しく情報交換をしました。参加してくださった皆さん、ありがとうございました。
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2.【活動案内】 ●乙女高原自然観察交流会● 02月03日(土)
■月 日 2月3日(土)
■集 合 午前9時 道の駅 はなかげの郷牧丘(国道140号沿い)
乗り合わせて乙女高原に向かいます。
■持ち物 弁当,水筒,あとは観察用具。標高が高いので十分な防寒着を用意してください。
■参加費 無料。
■乙女高原観察交流会■
●乙女高原ファンクラブとしての行事でなく、参加者各自の自主的活動として行うもので、活動に伴う旅費や飲食、傷害保険などすべて自己責任となります。
●途中からの参加や、午前中だけの参加など自由ですが、解散時間の目安は、現地3時、道の駅3時半とします。
●雨天の場合などは現地には行かず、道の駅での交流会にしたり、早めに散会するなど、参加者各自の意思で決めてもらいます。
●参加者は、乙女高原ファンクラブのメルマガメンバーとしますが、お知り合いを同行されることは自由です。
●乙女高原観察を通した交流目的のため、参加者間で情報を共有できるように、乙女高原ファンクラブ世話人会の了承のもと、メルマガなどを利用させていただきます。
●今後の予定
03/03土 9:00~ 乙女高原自然観察交流会⑫
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