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乙女高原ファンクラブ 公認
乙女高原メールマガジン第500号 2023..2.4.
発行者:植原 彰(乙女高原のある山梨市牧丘町)
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▲▼▲ もくじ ▼▲▼
NEW! 0.【ニュースニュース】
NEW! 1.【活動報告】第20回乙女高原フォーラム前編 1月29日
NEW! 2.【活動案内】乙女高原観察交流会 3月4日
3.【活動案内】2022年度総会 3月12日
■乙女高原自然観察交流会
■街の駅やまなし・乙女高原展
●教えてうえちゃん いつでもどこでも自然観察
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0.【ニュースニュース】
●1.このメールマガジン0号(創刊準備号)は2000年10月25日でした。それから22年と3か月で500号を迎えました。長く続けられたのも読者の皆様のおかげです。このメールマガジンは「乙女高原の自然」「乙女高原の活動」という2つのテーマが両輪です。今後とも、それらに関する記事を発信し、皆さんに乙女高原のことを知っていただき、より多くの方に乙女高原に「よりよく」関わっていただきたいと思っています。そうすることで、乙女高原が持続可能で、次の世代の人々も自然観察や保全活動を楽しむことができます。今後ともよろしくお願いします。
●2.いよいよ今号から乙女高原フォーラムの報告を載せます。鷲谷さんのお話を画面でお読みください。今回はその前編「プロローグ~地球環境保全をめぐる科学的認識と政策の今」です➝1
●3.(再掲) 第20回乙女高原フォーラムの様子は山梨CATVによって放映されます。2月24日から26日の21:00から10チャンネルの「ほっと山梨ワイド版」です。放映後、ユーチューブに期間限定で投稿される予定です。投稿期間、投稿アドレスが分かりましたら、お伝えします。
●4.今日2月4日は乙女高原自然観察交流会でした。ところが欠席連絡が相次ぎ、結局、ウエハラ一人で乙女高原に行きました。昨日から今日にかけて、乙女高原では雪が降ったようで、動物たちの足跡を隠すようにうっすら積もっていました。観察記は次号に載せます。
●5.乙女高原ファンクラブ・普通会員の方にはもうすぐ会報2204号が届きます。今まさに鋭意編集中です。会報発送では「発送ボランティア」の皆さんにお世話になっています。「発送ボランティア」のお宅に宅配便で会報、封筒、切手をお送りし、「会報を封筒に入れて、切手を貼って投函する」というボランティア作業をしていただいています。この「発送ボランティア」を一度、やってみませんか? 数人で、交替でやっていただいています。乙女高原ファンクラブを持続可能にするためにご協力よろしくおねがいします。
●6. (再掲)街の駅やまなしでの乙女高原展の展示替えをしました。シーズン35「乙女高原のコケ」です。山梨市駅近くに来た際には覗いてみてください。
https://blog.goo.ne.jp/otomefcact/d/20230130
●7. (再掲)3月の2022年度総会で、新しい世話人を決めます。任期は2年間です。乙女高原を次の世代にきちんと引き渡すためには、ファンクラブの持続可能性がなにより大切です。持続可能性のためには、バトンタッチが必然です。多くの人が世話人に立候補してくださったら、うれしいです➝4
●8.(再掲)乙女高原の話題ではありませんがた、山梨CATVの「教えてうえちゃん いつでもどこでも自然観察」の冬の回の放送日が決まりました。「ほっと山梨」で2/17(金)~2/19(日)の三日間、毎日7:00、13:00、19:00の3回です。ちどり湖に来ている水鳥の観察です。放映後、ユーチューブに投稿してもらいます。投稿されたらお知らせします。
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1.【活動報告】●第20回乙女高原フォーラム その1● 1月29日
3年ぶりの乙女高原フォーラムでした。一昨年はコロナのため、かなり前に中止を決めましたが、昨年はちらしを印刷し、配り始めたタイミングで中止判断をしました。忙しい中、準備に費やした労力を返してくれ!!と言いたくなりました。でも、コロナ相手ではどうしようもありません。ゲストをお願いした鷲谷さんには中止・延期・・・中止・延期で3年間もお待ちいただきました。「3度目の正直」です。お待ちくださり、ありがとうございました。
さて、フォーラム当日はとてもいい天気でした。11:30にはスタッフが集まり、準備を始めました。市・県・ファンクラブ合わせて21人もの方がスタッフとしてフォーラムを支えてくださいました。ありがたいことです。
13:00からフォーラムの開会行事が山梨市観光課長・土屋さんの司会で始まりました。山梨市長・高木さん、山梨県峡東林務環境事務所長・伴野さんのあいさつに引き続き、ファンクラブ・植原がフォーラム開催についての説明と、鷲谷さんのプロフィール紹介をしました。いつものフォーラムだとファンクラブの活動報告などもしていたのですが、コロナ対策として開催時間を短くするために割愛しました。とはいえ、「草原の里100選」に選ばれたことは報告しておきたかったので、そんな話をしていたら、長くなってしまいました。
そして、いよいよ鷲谷いづみさんのお話が始まりました。(文意を変えないよう注意しながら、分かりやすいように少し表現を変えたところがあります。文責は植原にあります)
○鷲谷いづみさん 「生態系スチュワードシップで草原を守る!」○
・乙女高原ファンクラブについては二十何年前から存じ上げていました。東大にいた頃、こちらにお世話になってマルハナバチの研究をした学生がいました。ただ、なかなか接点がなく、こうやってお顔を合わせることがありませんでした。フォーラムの講師としてお声を掛けていただいたわけですが、コロナ禍の中で中止・延期が続いて、今日が「三度目の正直」です。張り切ってお話をさせていただきます。
・タイトルを見て、「何のことだろう」と思われるかもしれません。聞いたことのない言葉だと思います。「生態系スチュワードシップ」という言葉を覚えておく必要はありませんが、今、世界で自然環境を守ろうというときに、どんなことが話題になっていて、どんなことを重視しながら活動しているのか、そういう広い範囲での環境保全活動のための考え方をいくつかご紹介していきます。
●今日の話の流れです。
1. 地球環境保全をめぐる科学的認識と政策の今
・国際的にも国内でも重要なテーマになってきている地球環境保全への科学的な認識がどうなっているかと、それに基づいて国際的には政策が決められるわけですが、どんな国際的な政策が出てきているかというお話を、いくつかキーワードをお示ししながらお話をします。
2. 生態系スチュワードシップのルーツと草原
・生態系スチュワードシップという言葉は最近使われるようになってきたのですが、その精神はもう20世紀の初めくらいからあって、西洋における自然再生の取り組みを支えてきた倫理であり、思想です。その中で、草原がとても重要な場になっているので、そのことをお伝えしたいと思っています。
・私は生態学の研究をしておりますが、生態学の根本に生態系スチュワードシップがあったのですが、生態学が発展する中で忘れられている側面もあります。私は保全生態学を1990年代から重視し、それが日本でも発展するようにしたいと思ってきたのですが、保全生態学って、考えてみると、生態学の本流なんです。
・草原が人類にとって、今の皆さんにとってどのように重要なのかを話の全体の中で伝えていきたいと思います。
3. 自然再生推進法にもとづく「自然再生」と市民科学
・多様な主体が協力しながら自然環境の保全や劣化した生態系を取り戻していく活動が、世界中で展開されていますが、それは何か一つの市民団体だけがやっているとか、国だけが、地方自治体だけがやっているというわけではなくて、研究者も関わりながら、協力のもとで実現しています。日本にはそれを支える「自然再生推進法」という法律があります。それに基づく、いい形での自然再生事業も各地で行われております。その事業にはどんなメリットがあるのか等をご紹介します。
●1-1 人新世と環境危機の科学的評価
・人新世(ひとしんせい あるいは じんしんせい)という言葉は、今や地球環境に関する文献を読むと、必ず出てきます。人新世は地質時代の名称の一つです。今の地質時代は完新世です。今から1万年前に始まりました。環境が安定しているのが特徴です。極の氷から空気を抜いて、過去10万年前から今までの温度環境の変化を調べてみると、それまでには氷河期が何度もあったりしたんですが、1万年前からグラフの上下動が極端に少なくて、比較的温暖で、安定した気候が続いていることが分かります。これが完新世です。完新世は安定環境なので、農業が可能でした。来年のことが予測できないと農業は成り立ちません。そして、文明の発展が促されました。
・ところが、今、温度がどんどん上がってしまっています。これが人新世です。人間の活動がもたらした、変動する環境です。かつては恵み豊かなシステムで、来年どうなるか予測もしやすかったのに、今はとんでもない、今までなかったような災害が起こるようになっています。たいへん厳しいシステムになってしまいました。それが地球の現状です。
・地球環境の現状を、温度以外のいろいろな面から明らかにするために、地球の限界を定めて、今、何がどの程度になっているかを評価する研究が行われました。その代表的なもので、いろいろなところに引用されているのが、ロックストロームら29名の科学者が地球の限界がどういうものかを検討し、それと現状とを比較・評価した研究です。
・2009年の『ネイチャー』誌に発表されたものを見ると、安全限界を大きく超えているのが「生物多様性の危機」でした。絶滅種と絶滅危惧種の数で評価しています。「気候危機」も超えています。これは分かりやすくて、二酸化炭素濃度や温度の上昇が指標になっています。
・「窒素の循環」も超えています。窒素が多くなりすぎているんです。なぜかというと、空気中の窒素を固定して肥料を作って、農地にまいているからです。半世紀の間に、生物が利用できうる窒素量の2倍以上になっています。あちこちで、栄養過多の問題が起きています。現代の農業がおもな原因です。伝統的な、家族で行うような農業から、工業的な、大規模な農業になりました。ヨーロッパ諸国が植民地を作って、そこでプランテーションを作って、自国で消費するものを作らせるようになったことがルーツです。地元の人がその地に合ったやり方で生産するというやり方から、他の国で消費するために、環境に配慮なく生産するようになったことで、肥料由来の窒素が増えているのです。これを見ると、農業の在り方も考えないといけないということが判ります。
・日本では関心があまり高くないのですが、化学物質による問題って実はとても大きいものです。出生率にも大きく影響している可能性があります。いろいろな問題が起きていますが、評価ができないのです。あまりにたくさんの化学製品が使われて、環境中に放出されているので、その中のごく一部しか評価できていないのです。ですから、この項目は「未評価」になっています。
・いずれにしても、地球の限界を超えているということは、環境に関心があって、科学的にそれを理解しようとする人の共通認識になってきました。
●1-2 SDGsとドーナッツ経済モデル
・様々な指標が地球の限界を超えている現状の中、人類の持続可能性、地域の持続可能性を考えると、環境の問題は無視することはできません。そこで、SDGsの中にも環境の目標が取り上げられています。
・SDGsは一つ一つの目標をバラバラに取り上げればいいというものではありません。いろいろな問題・目標を統合して解決していかなくてはなりません。乙女高原ファンクラブは自然環境の保全に取り組んでおられるので、この場には生物多様性の保全や気候変動への対策に関心のある方が多いと思うのですが、それを社会の諸課題と連携させて実践を作っていくことが重要です。国連のSDGsはそんな意味を持ったものです。
・地域の自治体が実践していく上で、それを導く経済的な理論として「ドーナッツ経済モデル」があります。英国の女性経済学者ケイト・ラワーズが提案しています。
・ドーナッツの外側には地球の限界を踏み越えている問題が描かれています。「気候変動」「生物多様性の喪失」「窒素・リンの付加」「土地利用転換」が挙げられています。土地利用転換とは、里山的な土地がそうでない土地へと変わっていることで、熱帯雨林がパームヤシのプランテーションに代わっていることが国際的には一番関心がもたれています。このドーナッツの外へは踏み越えてはいけないのです。
・ドーナッツの内側には人間の尊厳に欠かせない食料・水・健康・教育・働き方・人としての平等な扱いなどの不足を書いています。ドーナッツの内側にも踏み込んではならないのです。
・ドーナッツの外にも内にも踏み出ないで、ドーナッツの中だけでの暮らし・経済を目指そうという経済モデルです。成長よりも本当の豊かな暮らしと持続可能性を追求するのが新しい地域づくりの理念であるというモデルです。2020年4月、オランダのアムステルダム市はポストコロナ経済回復に向けた都市政策にこのモデル採用を宣言しています。
●1-3 生物多様性条約とポスト2020世界生物多様性枠組み
・国際的な環境保全に関する条約ができたのは1992年の国連環境会議(地球サミット)で、ブラジルのリオデジャネイロで行われました。生物多様性条約と気候変動枠組み条約が採択されたのですが、この2つは「地球環境保全のためのふたごの条約」と言われています。
・生物多様性条約について確認しておきます。この条約がめざしているのは、(1) 生物多様性の保全、(2) 生物多様性の構成要素の持続可能な利用、(3) 遺伝資源の利用から生じる利益の公正で衡平な配分・・・の3つです。(3)は発展途上国の関心が高いです。遺伝資源を先進国が持っていって利益を上げるけれど、その資源を持っていた国には何の恩恵ももたらさないという問題があります。
・条約ができたときには「生物の多様性(biological diversity)」という言葉でした。今では生物多様性(biodiversity)という言葉が広く使われています。アメリカのウィルソンという研究者が作った言葉です。ウィルソンはアリの研究者で、最近亡くなられました。日本でも生物多様性という言葉が広く使われています。
・条約の第二条に生物多様性の定義があります。「生命にあらわれているあらゆる多様性」です。これでは分かりにくいので「種内の多様性(遺伝的多様性)、種の多様性、生態系の多様性を含む」という注釈がついています。これらすべてが今、急速に失われつつあります。
・「種内の多様性」というのは地域によって違うということも含まれます。皆さんはホモ・サピエンスですが、アフリカのホモ・サピエンスとはちょっと違います。ここには山梨市の方が多いと思うのですが、同じ地域でも1人1人違いますよね。背の高さも顔も心意気も。全部、生物多様性の「種内の多様性」です。こういうことはふだんあまり認識されませんが、種内の多様性があって、はじめて、生物は環境の変化に応じて進化することができます。進化の可能性を保証しているのも種内の多様性です。
・「種の多様性」は一番分かりやすいです。多様な種がいれば多様性は高いということはなんとなくわかるんですけど、重要なことは、それらの間に多様な関わりがあるということです。種の多様性というと、一つ一つ独立した種があると考えがちですが、そのつながりの多様性をも大切にすることが肝心なんですね。
・「生態系の多様性」は、森があり・・・、草原があり・・・、里があり・・・っていうことです。そこにはいろいろな生物が住んでいます。それぞれの生きものに特有な生息(動物)・生育(植物)環境(ハビタット)を提供してくれています。
・生物多様性条約は10年ごとに目標を決めて、締約国が努力していますが、目標達成の失敗が続いています。2010年に日本(名古屋)で第10 回の締約国会議(=COP10)が開催され、「2010年までに生物多様性の減少スピードを顕著に減少させる」という2010年目標を「おおむね失敗」と評価さぜるをえませんでした。
・また、COP10では新戦略計画「愛知目標:2020年までに実現すべき20の目標」を決めました。例えば、目標1は「遅くとも2020年までに、生物多様性の価値と、それを保全し持続可能に利用するために可能な行動を、人々が認識する」でした。残念ながら、これらも2020年から続く生物多様性に関する会議で「おおむね失敗」と評価せざるをえなくなっています。
・そこで、今度は「ポスト2020 世界生物多様性枠組み」が話し合われています。議論の結果、去年の12 月、「昆明・モントリオール生物多様性枠組み」として採択されました。なぜ「昆明・モントリオール」かというと、本当は2020年に中国の昆明で締約国会議が開催されることになっていたのですが、延びて、しかも中国はゼロ・コロナ政策だったので、とても中国で開催するわけにはいかず、カナダに変更されました。
・これまで10年ごとに2回失敗していて、国連ではSDGsという目標も掲げられておりますので、その達成のためにも「2050年までに自然との共生を実現する」というビジョンを出しました。日本では政策によく「自然との共生」という言葉が使われていますので、日本人にはなじみのある目標です。
・このビジョンに向けて意欲的に取り組まなければならないので、そのための枠組みを作ることになりました。「2030年までに生物多様性の喪失を止め」「2050年までに生物多様性を回復させる」という枠組みです。国連レベルでは「回復」が新たに重視されるようになりました。2020年から2030年までの10年を「生態系回復のための10年」と定め、単に喪失を止めるだけでなく、回復させるんだという意気込みが政策文書の中に表れるようになってきました。
・昆明・モントリオール目標(個別目標)の例として、「30 by 30」があります。これは「2030年までに、地球上の陸地と海洋の面積の少なくとも30%を保護区もしくはそれ以外の有効な保全手法OECM(Other area-based Effective Conservation Measure)のもとにおく」というものです。保護区は野生生物や生態系を守る一般的な手段だったわけです。日本やアメリカだと国立公園がおもなものです。それだけではとても足りないので、それ以外に「有効な」対策が取られる場所を作っていこうというものです。採択されましたので、日本では環境省が30 by 30をどう実現するか検討を始めています。国立公園以外で確保しなければなりませんから、いろいろな自治体やNPO、企業が保有している土地をOECMに組み入れていく必要があります。
・そのほかの個別目標として、「侵略的外来種の導入を半減、それらの種の排除あるいは根絶」「(窒素・リンによる)栄養汚染を少なくとも半減し、農薬を少なくとも2/3に減らし、プラスチック廃棄物の排出は0に」といったものがあります。
・生物多様性条約には世界のほとんどの国が参加していますが、米国は未加盟です。米国は野生動物の保護や国立公園の管理をしっかりやっている国ですが、生物多様性条約の3つ目の柱「遺伝資源の利用から生じる利益の公正で衡平な配分」が米国内の企業にとってマイナスになるので、加盟していません。ですが、「30 by 30イニシアチブ」にはバイデン大統領が宣言して、かなり積極的に取り組もうとしています。「30 by 30イニシアチブ」には、去年の秋の段階で、世界の100ヶ国以上の政府が参加し、実践すると宣言しています。
・米国の30 by 30の主要なねらいには、「汚染されていないきれいな飲料水の供給」が第一に挙げられています。そして、「野生生物の保護」「生態系の多様性の維持」「気候変動の緩和策としての炭素の吸収」です。米国では、現在保全されているのは8%のみと評価しています。国立公園における野生の保護では世界のトップランナーかもしれませんが、それでも8%です。日本ではCOP10が契機となった「SATOYAMAイニシアティブ」に見られるように、人が関わってきた自然の重要性が認識されてきましたが、米国でも、今まで強調してこなかった「身近な自然」の保全・再生に力をいれる方向にかじを取っています。人々の幸せや暮らしの持続可能性を考えたら、それこそ自然環境保全を中心にするべきだという大きな考えの流れの中に米国も入ってきたということです。
●1-4 気候変動対策と生物多様性保全の望ましい連携
・ふたごの環境条約である生物多様性条約と気候変動枠組み条約は、それぞれ科学をベースにして政策を進めていかなければなりませんので、そのための組織が作られています。よく知られているのは「IPCC」です。これは「気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change)」のことで、各国政府の気候変動に関する政策に科学的な基礎を与えることを目的に、多くの科学者が参加しているパネルです。1988年に設立されて、 195の国と地域(EU)が参加しています。
・生物多様性条約に関しては、だいぶ遅れて、2012年に「IPBES(イプベス Intergovernmental science-policy Platform on Biodiversity and Ecosystem Services・・・生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム」が作られました。同じPですが、IPCCがPanel、IPBESがPlatformと違っているところがミソです。パネルは「壇上に専門家が並んでいる」感じ、プラットフォームは「いろんな人が議論する」そんな感じです。時代が進んで、専門家だけでは解決できないという認識があるということです。139か国が加盟しています。EUも加盟しています。ドイツがかなり尽力しました。
・IPCCは、気候変動が起こっている確からしさを常に加えながら記述をしてきました。2021年の報告書によると人間の影響が⼤気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには「疑う余地がない」と言っています。1990年には「気温上昇を生じさせるだろう」という表現でした。今までのデータを見ても、今までに起こっていることを見ても、疑う余地のないところまできています。⼈為によって引き起こされている気候変動により、自然の気候変動の範囲を超えて、自然や⼈間に対して広範囲にわたる悪影響と、それに関連した損失と損害を引き起こしていると強調しています。
・「温暖化を1.5℃までにとどめる」というのが国際的な目標になっています。これを越えたら、もう気候を安定させることはできなくなるという限界です。これを越えたら、気候の暴走が起きてしまって、反転させる機会が失われてしまいます。だから、1.5℃が国際的な目標なんです。
・今のところ、二酸化炭素はどんどん増えていて、世界は「1.5℃までにとどめる」という道筋にいません。1.5℃の道筋に乗せるためには、世界の二酸化炭素排出量を、遅くとも2025 年(なんと再来年!!)までにピークに打たせて、減少させなければなりません。2030年までに2019年比で4割削減させ、2050年代初頭には二酸化炭素を差し引きゼロ排出にする(ネットゼロ)ことが必要になります。
・そのための対策は様々あります。排出を減らす方法もありますし、排出された二酸化炭素を速やかに吸収して隔離するということも必要です。エネルギーをなるべく使わないようにする省エネもあります。全ての部⾨・地域において早期に野⼼的な削減を実施しないと1.5℃を達成することはできません。今でさえ気候変動の影響で困っている地域・困っている人がたくさんいるのに、1.5℃が達成できなかったら、もっとひどいことになります。
・IPBESは、生物多様性の人への恩恵を中心に検討を進めていますが、IPBESとIPCCがバラバラではダメだという機運が高まってきて、IPBESとIPCCの合同ワークショップが2020年に開催され、昨年2022年春に報告書が出されています。そういった報告書って、ほんとに分厚いんですが、エッセンスだけ紹介します。このままでは人類は地球上に住み続けられなくなってしまいます。人類が住み続けられる気候を維持することが最も重要ですが、地球温暖化の制御と生物多様性の保護は相互依存する目標です。地球温暖化が暴走したら生物多様性の保全もできなくなってしまいますし、暴走させないための様々な取り組みの中では生物多様性の保全が有効な手段になります。
・ちょっと脱線しますが、アフリカの森林地帯にマルミミゾウというゾウが住んでいます。マルミミゾウが気候の制御にとても重要だという論文が出されました。マルミミゾウは何世代も続くけものみちを歩いて、食べ物を探しているのですが、そのけものみちのまわりを調べればどんな植物を食べているかが分かるし、糞を出しますから、糞を拾えば、どんな種類の種子を分散して、森の生長を助けているかが分かります。それらを調べ、膨大なデータを分析したり、フィールドワークで糞を千何百個も拾って調べたりしました。その結果、マルミミゾウが葉や枝を食べるときは、森の形成を妨げるような先駆樹種を食べていて、実を食べて種子を分散しているのは、森の本体をつくるような、大きく、幹にたくさん炭素をため込むような木の実で、そういう森が形成されるのを助けていました。論文には、マルミミゾウがいなくなったら、森の炭素蓄積は8~9%減ってしまうとありました。マルミミゾウの保護をすることが気候変動にとっても重要ということです。このように、生態的な関係を調べていくと、分かってくることがたくさんあります。気候変動によって生物多様性が脅かされる・・・という関係だけではないんですね。このように相互に関連していることなので、気候変動と生物多様性は総合的に達成していくことが、持続可能で、公平な人の暮らしに欠かせないということです。
・最近の保全の実践などで世界的に重視されている考え方は、気候・生物多様性・人の社会を一体のシステムとしてみることが重要だということです。目標は「人類が住み続けられる気候、生物多様性の維持」であり、それらに同時に対応できるような対策が大切になります。
●1-5 草原や湿原は、炭素の隔離によって気候変動に有効
・草原を守ることは、草原に関わるこれまでの営みや草原に住んでいる動植物を守るというイメージが強かったと思いますが、地球環境を守ることにもつながっています。ヨーロッパではカーボン・ファーミング(Carbon Farming)という言葉が使われるようになり、米国にも影響しています。これは、農林業を含む土地利用・管理における「ネットゼロ(炭素排出差し引きゼロ)」に関するキーワードです。「欧州環境ビューロー(EEB:European Environmental Bureau)」というヨーロッパの170以上の環境市民団体を束ねるNGOの政策提言はEUの政策決定で重視されるのですが、その文書にカーボン・ファーミングの定義があります。それは「土壌や植生への炭素の隔離を増加させる土地管理の実践」です。
・ファーミングとあるので農業や牧畜業をイメージしがちですが、ここで、もう一つ主張していることは、「欧州においてネットゼロをめざす上でもっとも優先度の高いカーボン・ファーミングは、泥炭湿地の保護・再生である」ということです。日本にいると泥炭湿地と聞いてもピンとこないかもしれません。一方、火入れで維持される草原の再生・利用ももっとも有効なカーボンファーミングの一つであると思われます。
・光合成と呼吸とは逆向きの化学反応です。光合成は二酸化炭素と水から、光エネルギーを使って炭水化物などの光合成産物と酸素をつくることですが、これを担っているのは生態系の中で生産者(植物)のみです。それに対して、酸素を使って光合成産物である呼吸基質を水と二酸化炭素にし、生きるための化学ネルギーを得て、生命活動に使うという呼吸は、すべての生物が行っています。
・植物しか行わない光合成はあまり温度が高いと抑制されます。乙女高原の植物だったら、おそらく光合成のピークは15~20℃くらいだと思います。ところが、呼吸は植物を含む、すべての生き物がしています。植物も夜は呼吸だけです。土壌中の多様な微生物もみんな呼吸をしています。ですから、土壌の呼吸って無視できません。また、呼吸は高い温度で促進されてしまいます。光合成が阻害されてしまう温度でも促進されてしまいます。
・温暖化が進行すると、正のフィードバックが起こってしまいます。温度が高くなると(呼吸が促進されるので)空気中により多くの二酸化炭素が出て、より温暖化が進み、さらに呼吸が進み・・・という悪循環です。また、土壌に葉や材が供給されると、いろいろな生物が分解しながら、呼吸して二酸化炭素を出してしまいます。熱帯林は炭素を固定しますが、温暖化が進むと、二酸化炭素の発生量のほうがかえって多くなってしまうことにもなります。
・一方、土壌に炭素を隔離して(生物が利用できないように)貯めようとするなら、土壌を嫌気的な条件(酸素がないような状況)にするか、光合成産物を炭化させてしまう(炭は生き物が利用できない)ことが必要です。泥炭湿地にはその理想的な仕組みが成り立っています。微生物学で明らかになっていますが、高温で、土壌が湿ったり乾いたりを繰り返していると、呼吸は促進されてしまいます。一方、常時湿っていれば、嫌気的条件となり、酸素が足りないのですから呼吸が押さえられます。泥炭湿地はミズゴケの遺体が積もっていって、高層湿原を形成します。ここでは、生産者が炭素を固定しますが、分解者がどんどん分解してしまうことはないので、土壌に有機炭素を貯めることができます。土壌に炭素を貯留するためには炭素が分解されないよう、炭素循環からの隔離が必要です。
・火入れ草原では、植物が焼けて、生き物が利用できない細かい微粒炭になり、黒い土ができます。
・湿地と火入れ草原の保全・再生は生物多様性にとって重要なので、湿地だったらラムサール条約があって、そこに登録した湿地では保全活動をがんばっています。草原には森林にはない生物多様性を守るための管理がなされていたりしますが、それだけでなく、気候変動対策「ネットゼロ」としても重要ということです。
・本当に湿地や火入れ草原でネットゼロの取り組みができるのか、科学的に計画を立てて、モニタリングをしていかなければなりませんが、この分野の科学は遅れています。測ったり、論文を書いている人は多くありません。湿地や草原の炭素貯留能を測って、それがある程度確保できるような管理をしていくことが大切です。炭素量を測ればいいので、生き物に関する指標を測るより簡単です。ちょっとした機械があればできます。生物多様性については、目印になるような生き物・絶滅危惧種の保全状況などを指標にして評価していくことが必要だと思います。生態系が人の社会にもたらす恩恵を生態系サービスといいます。その重要性は認識されていますが、それは、おそらく、人が減っているところで、どうやって自然をうまく生かして、人と人とのきづなですが、地域にいる人同士のきずなはもちろん、よその人とのきずなを結んできてもらうこともとても重要なテーマなので、何が生産できましたということよりも、きずなの深さ豊かさをいろいなやり方で評価するのがよいと思われます。
(続 く)
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2.【活動案内】●乙女高原観察交流会● 3月4日(土)
・日 時 3月4日(土) 集合9時。解散は午後2~3時ごろ。
・集 合 午前9時 道の駅 はなかげの郷牧丘(国道140号沿い)
・持ち物 弁当、水筒、観察用具。雨具、防寒着も用意してください。
雪が予想される場合は、それへの備えもお願いします。
(積雪に応じて長靴、スパッツ、スノーシュー・・・)
・参加費 無料。
※いつもだと乗り合わせて乙女高原に向かいますが、コロナ対策のため、各自の車で向かうかもしれません。車道はところどころ凍っています。
【参考】2022年3月の観察の様子(交流会はコロナのため中止としました)
https://blog.goo.ne.jp/otomefcact/e/485f168536cd12aadf13247deef5d3db
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3.【活動案内】 ●2022年度総会● 3月12日(日)
日 時 3月12日(日)午後2時~(準備は1時半から)
場 所 山梨市役所牧丘支所
次 第
1.開会のことば
2.代表世話人あいさつ
3.議 事
①2022年度活動報告
②2022年度収支決算報告
③会計監査報告
④新規世話人への立候補→承認→代表世話人の互選
⑤新旧世話人あいさつ
⑥2023年度活動計画提案
⑦2023年度収支予算提案
4.その他
5.閉会のことば
※コロナ感染拡大防止のため、できるだけ短時間で行います。
※世話人への立候補をぜひお願いします。
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■乙女高原観察交流会■
●乙女高原ファンクラブとしての行事でなく、参加者各自の自主的活動として行うもので、活動に伴う旅費や飲食、傷害保険などすべて自己責任となります。
●途中からの参加や、午前中だけの参加など自由ですが、解散時間の目安は、現地3時、道の駅3時半とします。
●雨天の場合などは現地には行かず、道の駅での交流会にしたり、早めに散会するなど、参加者各自の意思で決めてもらいます。
●参加者は、乙女高原ファンクラブのメルマガメンバーとしますが、お知り合いを同行されることは自由です。
●乙女高原観察を通した交流目的のため、参加者間で情報を共有できるように、乙女高原ファンクラブ世話人会の了承のもと、メルマガなどを利用させていただきます。
※今後の予定
⑫03月04日(土)集合:09:00・道の駅
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■街の駅やまなし・乙女高原展■
中央線山梨市駅すぐ北(北口から出て、すぐの信号を渡り、北に向かって歩いてください。郵便局の北です)の「街の駅やまなし」には常設の乙女高原コーナーがあります。
https://www.city.yamanashi.yamanashi.jp/citizen/docs/yamanashi_02.html
現在、シーズン35「乙女高原のコケ」の展示をしています。
https://blog.goo.ne.jp/otomefcact/d/20230130
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●教えてうえちゃん いつでもどこでも自然観察●
ウエハラと地域のケーブルテレビ局「山梨CATV」とがコラボして標記の番組を作っています。放映後、局がユーチューブに投稿しています。1/6に4回目(=4th season)のロケを行いました。万力公園北のちどり湖に来ているカモたちが主役です。「ほっと山梨」で2/17(金)~2/19(日)の三日間、毎日7:00、13:00、19:00の3回、放映します。放映後、今まで同様ユーチューブ投稿する予定です。
◆3rd season「秋の自然観察」2022年10月4日、万力公園にて収録
・第11話 シロツメクサとカタバミの手品
https://youtu.be/yHSGLwSCR74
・第10話 ドングリⅡ
https://youtu.be/9mm-OqCLUMo
・第9話 ジョロウグモⅡ、ドングリⅠ
https://youtu.be/6ThmCLwZQDo・第8話 ジョロウグモはゴールデン・シルク。網に2匹のクモ?!
https://youtu.be/r1KxjyLTKfE
◆2nd season「夏の自然観察」2022年7月20日、万力公園にて収録
・第7話 蜜を盗むハチ!? 透明な虫?!~イチモンジカメノコハムシ
https://youtu.be/f0jUvRVf2Ig
・第6話 木の蒸散作用の実験、つる草実験~スズメウリ
https://youtu.be/tNHEHiINFK0
・第5話 スズメバチに出会ったら、樹液レストラン~カナブン
https://youtu.be/p9pMHZ_wXO4
◆1st season「春の自然観察」2022年5月13日、万力公園にて収録
・第4話 オニグルミ~頼りになる樹名板~まとめの話
https://youtu.be/8ua4r62y8zg
・第3話 葉っぱ一枚をじっくりスケッチ~ユリノキ・エノキ
https://youtu.be/k3-kDrFC9Ic
・第2話 アカマツに赤い実!?~マツグミ
https://youtu.be/m_o1j1kxQU8
・第1話 プロローグ~万力代表アカマツ
https://youtu.be/HVMMHTg6Sxw
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