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乙女高原ファンクラブ 公認
乙女高原メールマガジン第532号 2024.2.4.
発行者:植原 彰(乙女高原のある山梨市牧丘町)
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▲▼▲ もくじ ▼▲▼
NEW! 0.【ニュースニュース】
NEW! 1.【活動報告】第21回乙女高原フォーラム2 1月21日(日)
岩科 司さんのお話1 日本列島や乙女高原の植物の起源
NEW! 2. 【活動案内】3月の自然観察交流会 3月2日(土)
3.【活動案内】2023年度総会 3月10日(日)
4.【活動案内】第5期乙女高原案内人養成講座
■乙女高原自然観察交流会
■街の駅やまなし「乙女高原展」 書籍 ユーチューブ動画
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0.【ニュースニュース】
●1.乙女高原フォーラム(1/21)の岩科さんのお話の前半部分を載せました。おなじみの植物がたくさん出てきますよ。ただ、メールマガシンなので、写真を載せられないのが残念です。ぜひお読みください。岩科さんにはフォーラムでお話していただいたばかりか、この原稿の確認・校正もしていただきました。ありがとうございました→1
●2.メルマ前号531号に載せた、1/23の乙女高原観察記に間違いが見つかりました。最後の方で出てくる鳥はコゲラではなくコガラです。
●3.乙女高原ファンクラブ普通会員の方には、そろそろ郵送でニュースレターが届きます。今号は編集を鈴木辰三さん、校正を井上敬子さんと植原が行い、印刷は山梨市社会福祉協議会の印刷機をお借りして植原が行い、岡﨑文子さんが発送作業をしてくださいました。約280通がこうして皆様のもとに届けられます。
●4.ニュースレターには3/10の総会出欠ハガキも同封されています。このハガキは欠席する場合の委任状にもなっていますし、近況報告等を自由に書けるスペースもあります。今現在のご都合で結構です。忘れないうちに、早めにお出しください。
●5.杉田 博さん作のポストカードカレンダーも同封されています。1年間ご活用ください。杉田さん、毎年、ステキなカレンダーをありがとうございます。
●6.「第5期乙女高原案内人養成講座」のちらしも同封しました。お読みいただき、応募をご検討ください。また、まわりの方にもぜひお勧めください。先着順ではありませんが、できるだけ早く申し込んでください(事務局としては、応募者がどれくらいいるのか心配で心配で・・・)。講座は5/26、6/9、7/28(いずれも日曜)の3日間です。定員30人。以下のページもご覧ください→4
https://fruits.jp/~otomefc/annainin2024.html
●7. 3/2(土)は今年度最後の「乙女高原自然観察交流会」です。9:00に「道の駅はなかげの郷まきおか」集合。集まった皆さんで相談して観察場所等を決め、乙女高原に向かいます。「ケガと弁当は自分持ち」です。自然観察交流会について、詳しくはこのメールマガジンの一番下の方をお読みください→2
●8. (再掲) 3/10(日)14:00から山梨市役所牧丘支所の会議室で2023年度総会を開催します。今年度の活動を振り返り、来年度の活動計画や予算を決めます。会員の皆さんのご出席をよろしくお願いします→3
●9. (再掲)山梨市駅の北口を出て、信号を渡ってすぐの「街の駅やまなし」で、乙女高原展をしています。シーズン40のテーマは「草花たちのライフ・ステージ」。一つの草花について3~5枚の写真で、異なるライフ・ステージの姿を紹介しています。
https://blog.goo.ne.jp/otomefcact/d/20231130
●10.乙女高原ファンクラブ会員の角田晴美さんが所属する「ステンドグラス工房アトリエ マーレイズロウ第1回生徒作品展」が2/29~3/5、街の駅やまなしで開催されます。ぜひご覧になってください。
●11.乙女高原の活動ではありませんが、笛吹市春日居町鎮目の山梨岡神社の境内で行っている、小中学生対象の「自然観察と本の読み聞かせ」イベント案内です。2/18(日)9:30-12:00。そこにある自然探索~おおぞらの下のおはなし会「節分すぎたら、虫たちは?」。自然観察の講師は植原です。問い合わせ等は「おはなしのへや もも」馬場さん080-5046-9436まで。
●12.これも乙女高原の活動ではありませんが、山梨CATVのテレビ番組「教えてうえちゃん いつでもどこでも自然観察」の「ヒマラヤスギの観察」が山梨CATVで2/9(金)~15(木)まで放映されます。毎日7:30、13:30、19:30の3回です。なお、番組の「見逃し配信」がユーチューブで見られます。以下のユーチューブ・チャンネルから見たい番組をお選びください。乙女高原のスペシャル番組もありますよ。
https://www.youtube.com/playlist?list=PLl4SoTwWyU5bYf0xy_SQYDvkeK8zu0yuC
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1.【活動報告】●岩科 司さんのお話1 日本列島や乙女高原の植物の起源●
※第21回乙女高原フォーラム(1月21日)で岩科さんがお話しされたことを植原が文字起こししました。内容は変えずに、言い回しを多少変えたところがあります。ですから、文責は植原にあります。
ただいまご紹介いただいた岩科です。私、出身は山梨です。日川高校卒業までは山梨在住でした。母親は健在でして、今年102歳です。たぶん、今日参加された皆さんの中には、自分と同じころ日川高校に通っていた方がおられるんじゃないかと思います。私の一つ上に、もう亡くなられたプロレスラーのジャンボ鶴田さんがいます。一つ下には、今、日本大学の理事長をしておられる林真理子さんがいます。今、ラジオ深夜便という番組の第三月曜日「深夜便かがく部」というコーナーをもう6年近くやっています。ですから、ほとんどの人は私と初対面かもしれませんが、ひょっとすると、声だけは聞いたことがあるという方が、この中に1人か2人はいらっしゃるかもしれません。
今日は「乙女高原の植物はどこから来たのか」というお話と「地球温暖化が植物も含めた、もちろん、人間も含めた自然界に、どんな影響を与えているのか」というお話をしていきたいと思います。「百聞は一見に如かず」ですので、写真をたくさん用意しました。写真を観ながら、理解していただければと思います。
今、私たちが住んでいる日本という国に、どれくらい植物があるのかというと、被子植物・裸子植物・シダ・コケ、それらを含めて7,451種です。おもしろいのは、日本の植物の中で、どれくらいの植物が日本にしかないか(=固有種)ということです。7,451種の中の1,862種、すなわち25%が世界中で日本にしかない植物です。ということは、私たちが日ごろ見ている植物の4種に1種は世界中で日本にしかない植物です。
ところが、悲しいことに、環境省が指定している絶滅危惧植物、レッドデータブックに載っている植物ですが、約1,770種あります。23.7%になります。ということは、私たちが日ごろ目にしている、日本にしかない植物も4種に1種ですが、残念ながら絶滅しそうな植物も、私たちのまわりにある植物の4種に1種ということです。
日本の全植物7,451種というのがどれくらいすごい数字なのかというと、日本とだいたい同じ面積のイギリスに自生している植物がだいたい1,600種、南半球のニュージーランド、ここは地形も日本によく似ていますが、2,000種です。これらと比べると、7,451というのがどれくらいすごい数なのか、わかっていただけると思います。
原因は、日本は北から南まで南北に長い国であるということ。気候帯は、一番北は北海道の亜寒帯から、一番南の沖縄の亜熱帯まであります。また、こんな国は世界に2箇所しかないと思いますけど、真冬に何メートルもの雪が降ります。この日本海側にたくさん降る雪によって、独特の環境が生まれていて、それに生える植物も独特です。また、私は今、高山植物保護協会の会長をやらせていただいていますが、こんな小さな国なのに、標高3千メートル級の高い山があります。これらのことが7,451種という植物を育んだ原因になっています。
では、われわれの身の回りにある植物がどこから来たかということですが、いろいろあることはあるんですが、大きく分けると4つあると私は考えています。
1.地球が寒冷だった時代(氷河時代)に北から南下し、日本に分布を広げた植物
地球の氷河時代は4回ありました。古い方からギュンツ、ミンデル、リス、ウルムです。一番新しい氷期がウルム氷期で、だいたい1万年ちょっと前くらいまでです。ですから、地球上にもう人類はいて、マンモスがいたころです。日本に北から来た植物は、その前に日本に来た植物もあるようですけれど、多くのものはウルム氷期に日本に来たと考えられています。
2.地球が温暖な時代(間氷期)に、南から北上し、日本に分布を広げた植物
3.日本がアジア大陸と陸続きだった頃に、偏西風あるいは動物(おもに鳥)に運ばれて日本に分布を広げた植物
4.意図的に、あるいは非意図的に人類によって日本に分布を広げた植物
私たちが一番問題にしている植物、いわゆる帰化植物です。
この中で、いわゆる高山植物と言われる植物、あるいは、乙女高原の標高では高山植物は見られませんけど、乙女高原のようなところの植物は、「1」か「3」、それから「4」で、「2」というのはほとんどないです。
「1(氷河期に・・・)」の一つがヒオウギアヤメです。アヤメ科の植物です。アヤメには外花被と内花被が3枚ずつありますが、内花被がすごくちっちゃくなってしまって、一見、3枚の花びらがあるように見えます。ヒオウギアヤメはもともと北にあって、氷河期に日本までやってきた植物です。もともと北にある植物は周北極要素の植物と呼ばれます。シベリア、北欧、カナダと、北極のまわりに分布している植物です。ヒオウギアヤメは周北極要素の代表的な植物です。日本の植物図鑑を見ると、ほとんどの周北極要素の植物には「分布が中部地方以北」と書いてあります。これらの植物はもともと北にあって、日本に分布域を広げて来た植物たちであることがほとんどです。
ゴゼンタチバナ。ミズキ科の植物ですが、周北極要素の植物で、北極の周りにぐるっと分布域があって、そこから日本の中部地方まで下がってきています。クロユリも代表的な周北極要素の植物の一つです。
シラネアオイは、もともとはシラネアオイ科に分類されていましたが、新しい分類体系ではキンポウゲ科に属しています。現在の分布は大震災があった北陸地方から多雪地帯を通って北海道までの日本海側で、いわゆる豪雪地帯の植物です。どんな植物と近縁なのか、長い間わかりませんでした。日本にはこれと近縁の植物はなくて、最近、遺伝子の分析でやっとわかったのは、学名Hydrasis canadensisという植物がシラネアオイと一番近縁であることがわかりました。この植物は北米大陸のカナダを中心に分布しています。シラネアオイとHydrasis canadensisのもともとの起源は北極のほうにあって、片方は北米大陸、もう片方は東アジアに分布を広げてきて、それぞれがそれぞれに分化して、特有の植物になったと考えられています。
キタダケソウは北岳の山頂付近の限られた場所にしか生えていない植物ですが、「キタダケソウ属」の植物となると、ヨーロッパ、中央アジア、ヒマラヤ、シベリア、日本などに十数種あって、いずれも分布は不連続で、局所的です。日本にはキタダケソウ以外に、北海道のアポイ岳だけに分布するヒダカソウ、同じく北海道の崕(きりぎし)岳にしかないキリギシソウがあります。残りの種はシベリアの方に生育地があります。カザフスタンからキリギスあたりに天山山脈というがあります。私が調査に行ったところ、そこにキタダケソウ属のCallianthemum alatavicumという植物がありました。種小名は「アルタイ山脈の」という意味です。花はキタダケソウによく似ていますが、葉っぱの切れ込み方はすごく複雑で、キタダケソウと違いました。もっと違っている点は、キタダケソウは北岳の一角に少ししかありませんが、こっちは、足の踏み場もないほどたくさんありました。絶滅危惧ではありません。氷河が削ったモレーンがあるようなところにありました。とても美しい景色のところだったんですが、クマが出る、オオカミが出る、テントは閉めておかないとサソリが入るといったところでした。ここで1ケ月間、テント生活をしました。
「2(温暖な時代に…)」の代表選手の一つがグンバイヒルガオです。海岸の砂浜で見られる植物です。地球が温暖化したころに南から日本にやってきた植物というのは、たいがいは、たねの散布様式が海流散布といって、たねや果実が水に浮いて、海流に乗って日本に到達しました。もともと南にあった植物ですから、内陸の乙女高原のようなところには、こういう起源の植物はほぼありません。
グンバイアサガオのほかには、例えばハマアズキがあります。ゴバンノアシはまだ石垣島と西表島までしか到達していません。碁盤の足のような形の実がなります。まだ石垣島とかまでにしか到達していないので数が少なく、絶滅危惧種です。
「3(日本がアジア大陸と陸続きだった頃に、偏西風あるいは動物に運ばれて…)」の植物たちは、北から来た植物たちと区別がなかなか難しいです。ですけれど、明らかに北から来たのではなく、陸続きだったころに中国の方から来たと考えられている植物としてアオキがあります。そのへんにいっぱい生えていますから、皆さんもご存知だとは思います。近縁種として日本にはアオキとヒメアオキしかありませんが、ヒマラヤに行くと、この仲間が何種類かありますので、陸続きだったころに日本に渡って来たのではないかと考えられます。
ヤマブキは日本ではよく見かける植物ですが、分布はとても狭くて、日本と中国のほんの一角にあるだけです。一方、ヤマブキによく似たシロヤマブキは、ヤマブキとは起源が全然違っていて、中国の方に分布が広くて、日本には中国地方の一か所くらいにあるだけです。いずれにしても、中国大陸とのつながりがある植物ではないかと考えられています。両種ともバラ科の植物です。
小さな、3cmくらいの花で、エヒメアヤメというアヤメ科の植物があります。これも大陸起源だろうと考えられています。日本では関東や関西にはなく、一番東で岡山や広島、あとは九州や四国に分布しています。牧野富太郎が愛媛県で発見したのでエヒメアヤメと命名しましたが、もともとタレユエソウという名前があったので、タレユエソウと命名すべきだったと牧野が記述しているらしいのですが、もう絶滅危惧植物に指定されていて種名の変更が難しいので、この名前になってしまいました。
「4(意図的に、あるいは非意図的に人類によって日本に…) 」は一番問題です。例えばシャガとヒガンバナです。皆さんよくご存じだと思います。シャガは古い神社など、ちょっと暗い場所によく生えています。これはもともと日本起源の植物ではなく、自生地は中国です。日本にいつ頃入ってきたかはわかりません。このようにいつかはわからないけれど、他所から日本に来た植物を史前帰化植物といいます。中国のものは2倍体ですが、日本のものは3倍体です。染色体は普通一対・二組ずつあります。これが交配のときに半分に分かれて一組になります。でも、3倍体だと、どうやっても半分に分かれることができません。ですから、受精ができず、タネができません。日本にあるシャガやヒガンバナはタネができません。なんで、こういう植物が入ってきたかというと、ガラス用品や陶器を運ぶ際の緩衝材、詰め物として使われ、それで日本に入ってきたのではないかと言われています。こういう経緯で日本にやってきた、皆さんに馴染みのある植物がありますよ。名前もそれらしい名前です。シロツメクサ、アカツメクサです。ツメクサは「爪」草ではなくて「詰め」草です。緩衝材として日本に入ってきたと思われます。別なケースとしては、家畜の餌として入ってきたかもしれません。
セイヨウタンポポも典型的な帰化植物で、どこでも見られます。詳細な調査をしたら、セイヨウタンポポのほとんどは、センヨウタンポポと、関東ではカントウタンポポ、関西ではカンサイタンポポとの雑種ということがわかっています。こうなりますと、帰化植物そのものよりも厄介ということになります。
オオハンゴンソウが一面に咲いている写真です。北海道で撮りました。この植物は法律で取り引き・栽培すべて禁止されています。外来種の中でも、動物は悪さをするじゃないですか。例えばカミツキガメは噛まれると痛いじゃないですか。だから、対処・処分しようと思うんです。でも、オオハンゴンソウなんか、きれいなんですよ。植物園協会の会長をやっていた時も「あったら抜いてください」と言い続けてきましたが、きれいなので問題です。放置しておくと、こんなにはびこってしまいます。こうなると、オオハンゴンソウの群落の中には日本の植物は一つもないです。
アレチウリも厄介な帰化植物です。花はあまりきれいとは言えませんが、今、日本のちょっとした湿地に行くと、これがはびこっています。「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」の指定生物になっています。
まだ規制の対象にはなっていませんが、きれいな花を咲かせる帰化植物ホテイアオイも放っておくと、あっという間に増えます。
ここからは、乙女高原に馴染みのある植物を紹介します。
まずブナです。皆さん、ブナを普通に見ていると思いますけど、じつはブナは日本固有種です。世界中で日本にしかないんです。ブナがどのように日本にやってきたかは、じつは、よくわかっていません。わかっていることは、ブナは地球上で日本にしかない植物であるということです。
もっと、皆さんが普通に見ていて、日本固有の植物というと、スギです。スギも日本だけの植物です。だから、スギの花粉症になるのは日本人だけです。
乙女高原でよく見る植物の一つにヤナギランがありますね。アカバナ科の植物です。分布は北海道・本州中部以北ですから、もともと北にあって、日本に分布を広げた植物です。実際、ヨーロッパに行っても、アメリカ大陸に行っても、まったく同じ植物があります。アカバナ科の植物で、皆さんがよく見る植物として、帰化植物のメマツヨイグサやヒルザキツキミソウがあります。
クガイソウはもともとゴマノハグサ科に分類されていましたが、最近のDNAによる分類でオオバコ科になりました。オオバコ科は今まですごく小さな分類グループだったのに、今は、ゴマノハグサ科のほとんどがオオバコ科に入って、大きなグループになりました。クガイソウの分布は本州だけでなく、シベリア、ウスリー、朝鮮、中国東北部などで、おそらく北からやってきた植物です。
ツリガネニンジンの分布は樺太、南千島、北海道から本州にかけてです。これも北から分布を広げた植物でしょう。ツリガネニンジンの仲間はヒマラヤでも結構見かけます。シベリアにもたくさんあります。特徴は、釣り鐘型の花を咲かせることと地下部に大きな芋があることです。
タムラソウの分布はヨーロッパからシベリアにかけてで、日本では本州から九州までです。タムラソウの仲間の植物は、シベリア、天山山脈、中央アジアでたくさん見ました。どれもアザミによく似ていていますが、トゲがないので、さわっても痛くありません。キク科です。これも北から来た植物です。
オタカラコウ、マルバダケブキの仲間はシベリア東部や樺太、中国、ヒマラヤ、日本では本州から九州にかけて見られます。乙女高原ではマルバダケブキがよく見られます。これらは北から来た要素が大きいと考えています。この仲間は、今、食害がたいへんになっているシカが食べない植物です。そんなに強い毒があるとは思えないのですが、シカが食べません。ですから、減少してないものが多いです。
ハバヤマボクチは北海道にはなくて、本州の福島より南と九州にあります。よく似たオヤマボクチは中国中南部と北海道西南部、本州の青森から岐阜、それから飛んで四国に分布しています。この仲間は北から来た可能性がないわけではありませんが、おそらく日本列島がアジアと陸続きだったころに来た植物ではないかと私は考えています。というのも、これらに近縁の植物を、皆さんは野菜として食べています。それはゴボウです。ゴボウは根を食べますから、花を見たことのある人は少ないかもしれませんが、花を見るとハバヤマボクチやオヤマボクチに関係が近いことがわかります。私は軍用トラックを改造したバスで、シベリアからカザフスタンとかキルギスまで3,000km南下したことがありますが、その途中、「世界で最も内陸である場所」を通りました。東西南北どちらに行くにしても、海に出るまで5,000kmあるというところです。人工物といえば100km以上まっすぐな道路と、道路脇の送電線だけで、あとは荒地が延々と広がっています。もう一つだけ人工物が見えるのですが、それは夜になって夜空に見える人工衛星の光です。ここはセミパラチンスクという場所で、ここでテントを張ったのですが、旧ソ連が原爆実験をしていた場所です。こんな広い場所なので原爆実験が行われたのですが、地元のガイドに「原爆実験、どこでやったんだ?」と聞くと、西だか南だか150kmの場所でやってたんだと言ってました。帰ってきて、日本の原子力の専門家に聞いたら、「岩科さん、完全に被爆しています」と言われました。こんな場所にゴボウが生えています。
アマドコロという植物は広い意味でユリ科です。北海道から九州にかけて日本全国にあります。この仲間は中国、朝鮮にもありますので、ヒマラヤの方から大陸を経て日本にやってきた可能性が強いと思います。
ハクサンフウロや乙女高原にもあるタチフウロについて。タチフウロは日本では本州・四国・九州にあって、アムール、中国東北部、朝鮮にあります。それに似ているハクサンフウロですが、フウロソウの仲間ではタチフウロより分布域は広いと思いますが、分布は本州中部地方以北ですから、北から来たと考えられるフウロソウです。タチフウロがどちらから来たかは、この分布からは判断が難しいです。
マツムシソウは細かく分類することができてしまうんですが、広義のマツムシソウの分布域は沖縄を除く日本全国です。マツムシソウ科を見ると、地中海沿岸から西アジアに多く分布しておりますので、おそらくマツムシソウ科の植物は西の方から日本にやってきたのではないかと思います。
皆さんよくご存じのアヤメは日本では沖縄を除く日本各地にあります。あとは、シベリア東部、中国東北部、朝鮮半島に分布しています。これに近い植物は韓国から中国にかけていろいろあります。さきほど見ていただいたヒオウギアヤメは周北極要素といって北から日本に南下して来た植物だと思いますが、アヤメは西の方からヒマラヤ・中国を越えて日本に到達した植物の一つではないかと思います。
キンポウゲ科のオダマキですが、乙女高原にあるのはヤマオダマキで、それよりもうちょっと高い高山帯で見られるのがミヤマオダマキです。日本にはオダマキの仲間は3種か4種しかありません。ヤマオダマキは沖縄を除く日本各地の山地で見られます。花全体がクリーム色のものからかなり赤味を帯びたものまで変異が大きいです。ヤマオダマキより高いところに行くと見られるのがミヤマオダマキで、私たちが栽培しているオダマキの原種だと思います。分布は本州中部と北海道、南千島、樺太で、私はシベリアで見ています。ヤマオダマキがそうかはわかりませんが、ミヤマオダマキはおそらく北にあったものが南下して来たのだと思います。
ウマノアシガタ、別名はキンポウゲですが、どちらかというと雑草性の強いキンポウゲ科の植物で、分布は北海道西南部から九州・沖縄まで。海外だと中国、朝鮮です。北半球全体に広く分布していますので、ルーツを明らかにするのは難しいのですが、中国東部から来ている可能性の方が強いかなあと思います。
リンドウの仲間では、乙女高原にあるのはリンドウです。リンドウは分布が広くて、本州から奄美大島まであります。よく似ているエゾリンドウは本州中部以北と北海道、千島、樺太に分布していて、おそらくリンドウの仲間全体が周北極要素の植物だと思われます。私たちが普通に栽培しているリンドウは、じつはリンドウの栽培品種ではなくて、原種はエゾリンドウかオヤマリンドウです。リンドウはてっぺんにしか花を付けませんが、そのほかはてっぺんだけでなく、その下の葉の付け根にも花を付けるんですよね。花をたくさん付けるんです。たいがいはオヤマリンドウの栽培品種です。
リンドウは秋の花の代表選手ですが、フデリンドウは春の花です。リンドウよりはるかに背が低いです。分布域は北海道から九州、南千島、樺太、中国、朝鮮です。ミヤマリンドウは北海道に行くとたくさんあります。大雪山系・旭岳のふもと、ロープウェイの終点のところには、足の踏み場もないほど群生しています。ミヤマリンドウの分布域は本州中部以北から北海道ですから、北から来た植物だと思います。
秋の七草のひとつオミナエシはオミナエシ科です。日本では北海道から九州、そのほかシベリア東部、中国、朝鮮に分布していますから、北から来た植物ではないかと思います。
日本のウスユキソウの仲間で一番きれいだと言われているのは、蛇紋岩で有名な岩手県の早池峰山に生えているハヤチネウスユキソウで、これは世界で早池峰山にしか生えていません。ハヤチネウスユキソウに一番似ていると言われているのがヨーロッパのエーデルワイスです。皆さんの年代だともちろん知っておられると思いますけど、映画「サウンド・オブ・ミュージック」で流れたのが「エーデルワイス」という曲です。ヨーロッパでエーデルワイスの仲間というと、このエーデルワイス1種だけです。一方、日本にはウスユキソウの仲間が10種類くらいあります。その中でウスユキソウが一番分布が広いです。ウスユキソウの仲間がたくさん見られるのはヒマラヤ山脈です。ですから、分布の中心、もともとこの仲間が生まれたのはヒマラヤ山脈で、大陸伝いに日本にやってきて、日本の山地に定着したのではないかと思います。
ノコギリソウの分布は日本では本州から北海道、外国ではシベリア東部、カムチャツカ、アリューシャン、北アメリカと、むちゃくちゃ広いです。ヨーロッパに行っても、ちょっとしたところにノコギリソウはいっぱいあります。アメリカに行ってもあります。シベリアに行ってもです。これは間違いなく北から日本に来た植物です。そんな中で、エゾノコギリソウというのは、ノコギリソウより花びらがいっぱいあって、きれいに見えます。分布は本州中部以北と北海道、シベリア東部、カムチャツカ、千島、樺太ですから、ノコギリソウの仲間はみんな北から南下してきた植物と言えます。
シモツケとシモツケソウは名前も雰囲気も似た植物ですが、シモツケソウの方は分布が本州の関東以西と四国、九州の太平洋側ですから、これはもう典型的で、大陸から来た植物と言えます。
コオニユリの仲間はどれも美しい花を咲かせますから、好きな方が多いんじゃないかと思います。コオニユリそのものの分布は沖縄を除く日本中と中国東北部、朝鮮です。コオニユリによく似ていて、私たちが栽培するオニユリという植物があります。このオニユリは古い時代に中国から渡来したというのが有力な説で、おそらくコオニユリなども大陸に沿って渡来した植物だと思います。オニユリについては、本来の分布が日本にあったかどうかも疑われていて、シャガやヒガンバナと同じく、史前帰化植物の仲間かもしれません。
木本のズミです。沖縄を除く日本全国にあります。ズミの学名は、Malus toringo(マルス トリンゴ)と言いますが、トリンゴはコリンゴがなまったもので、小さなリンゴという意味です。ズミはリンゴの仲間(マルスがリンゴ属)ですから、コリンゴがヨーロッパに伝わったときに、よくあることなんですが、日本の発音を聞いたままに書いてしまっで、こうなったんだと思います。ズミの実は鳥が大好きですから、鳥が実を食べて、どこかにたねの入った糞をすることで、分布を広げてきたので、どこからどう来たかはよくわかりませんが、大陸に起源をもっているんではないかと思われます。
ニガナもウマノアシガタと同じく雑草性が強いですよね。乙女高原にも咲いていますが、日本全国のいたる所にいっぱい生えています。ニガナの面白いところは、単為生殖をするところです。単為生殖とは、交配しなくても、つまり、めしべの先に花粉が付かなくても、実ができることです。ニガナは単為生殖できるので、どんどん増えてしまいます。そうしたことから、雑草として捉えられてしまいます。皆さんが食べている果物の中にも単為生殖をしている植物があるんですよ。それはイチヂクです。イチヂクは花粉がなくても実がなります。イチヂクの仲間の野生種はどうやって花粉が運ばれると思いますか。私たちがイチヂクの「実」と呼んでいるのは、じつは実ではなく「花托」と呼ばれている部分で、花托の内側に花が咲きます。イチヂクをよく見ると、先端にちょこっと穴が開いていますね。穴からイチヂクコバチというハチが入るんです。このハチは中で繁殖するんです。中で卵を産んで、孵った幼虫がイチヂクを食べて大きくなり、蛹を経て成虫になると、メスのハチだけイチヂクの外に出るんです。オスは中で死んでしまうんです。イチヂクの仲間は世界に何百種もあるんですけど、みんな、それぞれの種に対応したそれぞれのイチヂクコバチがいます。イチヂクはイチヂクの種類が違うと、イチヂクコバチの種類も違ってしまうんです。日本のイチヂクはもともと中近東にあったものです。日本で栽培しても、中近東のイチヂクコバチは日本にはおりません。そこで、人間がイチヂクを品種改良して、単為生殖能力のある個体を選抜したので、日本の栽培イチヂクは、花粉がなくても花が咲けば勝手に実がなるものだけになったんです。
【乙女高原の植物たちのまとめ】
・乙女高原の植物はだいたいのものが北方起源のものですが、これらは、もともと北にあった植物ですから、暑さに強いわけがないんです。暑さに弱いので、温暖化が進めば絶滅あるいは減少の危機があります。
・これまで寒かったがゆえに侵入できなかった植物がたくさんあります。特に雑草性の強いものです。温暖化が進むと、こういう植物が入ってこれるようになってしまいます。平地の植物あるいは外来植物が入って来て、本来の植生をグチャグチャにしてしまうということが起きてしまいます。
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2.【活動案内】●3月の自然観察交流会● 3月2日(土)
・9:00道の駅「花かげの郷まきおか」集合。乗り合わせで乙女高原へ
・弁当、観察用具等持参。
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3.【活動案内】 ●2023年度総会● 3月10日(日)
日 時 3月10日(日)午後2時~(準備は1時半から)
場 所 山梨市役所牧丘支所
次 第
1.開会のことば
2.代表世話人あいさつ
3.来賓あいさつ
4.議 事
①2023年度活動報告
②2023年度収支決算報告
③会計監査報告
④2024年度活動計画提案
⑤2024年度収支予算提案
5.その他
6.閉会のことば
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4.【活動案内】●第5回乙女高原案内人養成講座●
乙女高原を案内することによって乙女高原の自然を守る輪を広げようと、2003年から3年間に渡って開催し、2008年に第4回を開催後,16年間行われていなかった乙女高原案内人養成講座を開講します。乙女高原を知り,守り,そして伝えるノウハウが満載の講座です。これを機会に,ぜひ,乙女高原のことを知り,ファンになり,そして,乙女のことを伝えるメッセンジャー「インタープリター」になってください。
※特設ページ (ここから申し込みフォームにも行けます)
https://fruits.jp/~otomefc/annainin2024.html
・募集定員 30名(申し込み多数の場合は抽選)
・養成講座 5/26、6/9、7/28(いずれも日曜) 計3日
・講義と実習を通して、自然観察の手法、案内の技術、自然保護の知識、乙女高原の地形地質・植物・動物・歴史などを学びます。
●第1回 5月26日(日) 会場:山梨市民会館と万力公園
開講式 野外実習「インタープリテーション体験」
講義「インタープリテーション」「自然の保護」「乙女高原の歴史」
●第2回 6月9日(日) 会場:乙女高原
実習「乙女高原の地形地質」「乙女高原の動物」
●第3回 7月28日(日) 会場:乙女高原
実習「乙女高原の植物Ⅰ」「乙女高原の植物Ⅱ」
ワークショップ「今後の活動について 閉講/修了式
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■2023年度 第8期 乙女高原観察交流会■
●乙女高原ファンクラブとしての行事でなく、参加者各自の自主的活動として行うもので、活動に伴う旅費や飲食、傷害保険などすべて自己責任となります。
●途中からの参加や、午前中だけの参加など自由ですが、解散時間の目安は、現地3時、道の駅3時半とします。
●雨天の場合などは現地には行かず、道の駅での交流会にしたり、早めに散会するなど、参加者各自の意思で決めてもらいます。
●参加者は、乙女高原ファンクラブのメルマガメンバーとしますが、お知り合いを同行されることは自由です。
●乙女高原観察を通した交流目的のため、参加者間で情報を共有できるように、乙女高原ファンクラブ世話人会の了承のもと、メルマガなどを利用させていただきます。
※今後の予定
⑫03月02日(土)集合:09:00・道の駅
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■街の駅やまなし・乙女高原展■
中央線山梨市駅すぐ北(北口から出て、すぐの信号を渡り、北に向かって歩いてください。郵便局の北です)の「街の駅やまなし」には常設の乙女高原コーナーがあります。
https://www.city.yamanashi.yamanashi.jp/citizen/docs/yamanashi_02.html
現在、シーズン40「草花たちのライフステージ」の展示をしています。
https://blog.goo.ne.jp/otomefcact/d/20231130
■『乙女高原の自然観察』■
A5判32ページ、オールカラーで、1ページに1テーマずつ記事を載せています。頒価300円。送料は1冊だと140円、2~8冊だと180円。送付を希望される方は、送料込みの金額をご送金ください。
■『乙女高原大百科』■
厚さ3cmという分厚い本。A5判602ページ(カラー194ページ)。頒価2000円。送料は1~2冊なら370円。送付を希望される方は、送料込みの金額を送金ください。
■「教えてうえちゃん いつでもどこでも自然観察・乙女高原スペシャル」■
山梨CATVが制作した動画がユーチューブ・チャンネルで公開されています。約1時間、植原が乙女高原の案内をします。乙女高原三昧の番組です。
https://youtu.be/g_9EuQ3A3f4
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