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RIE OGAWA ART 

山梨県立美術館 コメント

キュレーターズ・アイ会場作品

美術論文関係ART CRITIS

キュレターズ・アイ  2012.1.24(TUE)〜2.26(SUN) 山梨県立美術館 ギャラリー・エコー

「マニエリスム」への誘い     山梨県立美術館学芸員 太田智子


 裸の人間が身をよじり、重なり合う画面。たくさんの人が描かれた大きなキャンヴァスには圧倒される。下から見上げるように描かれた独特のポーズや、腕や足など体の一部分が奇妙な形に接合された異形のものたちも登場する。小川リヱは一貫して人体を描くことにこだわってきた。それも、一見するとグロテスクで、不気味さや不快さを引き起こすような人体を。
 彼女の描く人体は、決して生身の人間を前にして描かれたものではない。西洋美術の過去の様々な作品や、海外の写真家の写真にみられる人体を引用し、組み合わせているのだ。特に、マニエリスムという時代様式が小川の発想の大きな源となっている。マニエリスムとは、16世紀のイタリアに起こり、ヨーロッパで流行した国際的な動向のこと。その特質は、ミケランジェロなどルネサンスの巨匠の「マニエラ」すなわち手法を継承し、自然を超えた美を追求したことだった。生身の人間、つまり自然にはもはや価値を置かず、人間が生み出した美を基準とするマニエリスムの考え方は、人体を誇張した手法で表現した。「フィグーラ・セルペンティナータ」、蛇のような体と呼ばれる、引き伸ばされ、ねじられた体の描き方はその代表的な例として定着している。
 小川は、人体の有機的な曲線を最も美しいものと感じ、長く制作のテーマとしてきた。 西洋美術の巨匠のテクニックを目標とし、絵画技術の研鑽を積むとともに、過去の作品がさらにそれ以前の図像の引用と変形に満ちていることも学んだという。小川のスタイルは、マニエリスム期の表現を吸収しつつ、他の要素と組み合わせる、小川自身の「マニエリスム」といえるだろう。その上で、引用と創作から、時にグロテスクなまでに自由な形態が描き出されてもいる。接合され、折り重なった肢体は、人工的に造られた別の生命体のようですらある。それは、描くことで生まれる形態の面白さを探求したいという思いとともに、奇想の物体を生み出そうという意志に導かれているのだろう。新しい表現を模索する小川の「マニエリスム」は、過去の「マニエラ」との不断の対話をもとに展開を続けている。
                       



大木財団 海外研修イタリア レポート 1998年






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